第15話 『あたしのオカシャン』
毛玉がいうオカシャンとオトシャンて人間がどんな人間なのか、あいつはよくわかってないみたいだったから、年下だけどあたしのほうがしっかりしてるし、いろんな経験をしてきたから気が向いたときに教えてあげたりすることが増えたわ。
それでも、あいつはあたしにとにかくしつこい。
うざいくらいよ。
だからあたしはあいつが襲い掛かってくるたびにできる限りの抵抗を試みた結果今までオカシャンて人間と一緒に寝ていた部屋から
賑やかな部屋にあたしの二階建ての部屋ごと移されたわ。
そこで自由にさせてくれている間とかあたしの部屋をあいつが乗っ取ることもあるけど、新しい場所はワクワクするのは性分なのかもしれないわね。
あいつと一緒に病院に連れていかれて爪をがっつりと切られたあと
人間二人はあたしとあいつを無理やり仲良くさせようと洗濯ネットに閉じ込めてくっつけてみたりと色々試していたけど、あたしにはあたしのプライドってものがあるのよ。
生ぬるい箱入りで産まれたあいつがあたしの苦労して生きてきた話とか聞きたがってきて話してやったりすることもあるけど、
気に入らないものは気に入らないのよ。なんせこの家にはあいつの匂いがあちらこちらにあるんだから。
あたしの二階建ての部屋にはあいつに脅かされないように毛布で覆われていたけど、なんとか隙間をかいくぐってちょっかいを出してくるから毎回罵倒しては喧嘩になってるわ。
なんとなく、家全体の匂いが変わってきて少しあたしも落ち着いた頃、
あいつの過去の話を聞いてあげる気にもなったわ。
あいつの話だと家族とは生まれてすぐに離れ離れになって今はどこでなにしているのかもわからないとか、
いわゆる保健所に一度は家族になったはずの人間に捨てられて殺される一歩手前であたしとは違うコミュニティに連れていかれたという。
そのあとの家族になった人間はどうやら耳の不自由な人間らしく言葉を話すことができなかったようで、よくある多頭飼いをしていたらしいの。
あいつだけ最後に貰われてきたとかで何年も狭い部屋の中に一人ぼっちでろくに遊んでももらえず暮らしていたとか。
結局多頭飼い崩壊ってやつで貰い手を探しているところに丁度オカシャンとオトシャンの知人が間に入ってあいつとの出会いを果たしたらしいとか、
あいつも、それなりに死線を超えてきたのね。
それにしても、無知すぎるわね。
確かに無知な子は今までもいたけど、あいつはもしかして相当回数重ねてるんじゃないのかと思うくらいに色んなことを忘れてしまっているのかしら。
間でも空いたのかしら。
あれから何か月か過ぎてオトシャンもオカシャンもあたし専用の部屋を片付け始めたわ。
あたしは結局最初に居たオカシャンの寝室で寝るようになったけど、オカシャンは寝ている時はあたしが近くにいても気にしないの。
寝ているオカシャンはちょっとうるさいんだけどね。
ちょっとずつオカシャンの近くに寝るようにもなったわ。
一人で隠れたくなったら、オカシャンの指を嚙んじゃったあの場所に隠れればいいわと安心していたのに。
いつの間にかあの狭い空間は箱で封鎖されていてあたしの逃げ場はまた探さないといけなくなっていたわ。
そんな時みつけたのよ。オカシャンが眠っている時にかけている布団を。
あたしは暗くて暖かいところが大好きよ。
朝は日光浴もしたいけどこの部屋には日光が入ってこないから諦めて隠れる場所は布団の中にしたの。
そうしたら、どん!とオトシャンがあたしの近くに勢いよく寝っ転がるじゃない!
びっくりしてそこから高いところに逃げたわ。
「ごめんねごめんねすーちゃん」とオトシャンは言っていたけど気が抜けないわね。
夜になってあたしが寝る場所は何度も糞尿で汚したけどオカシャンが洗ってくれた、あたしのモフモフの寝床だったり、窓際の高台だったりしたわ。
一回びっくりさせたせいかあれからオトシャンは勢いよく寝っ転がったりはしなくなったけど、あいつがあたしの居場所に気づいちゃったのよ。
ただあいつはどうやらベッドの上が苦手みたいで布団の上に乗るなんてできなくてベッドの枠から布団の中のあたしを狙っては諦めて帰って行ったわ。
あいつは暗くて狭いところが苦手なのね。
それで一安心したあたしは本当に気を抜いていたのね。
なんとあいつが勇気を振り絞って大ジャンプしてきたのよ。
それでうっかりベッドにおしっこをしてしまったの。
帰ってきたオカシャンはそれをみるなり匂い消しのスプレーをかけたりドライヤーをかけたりして何とかしたつもりだろうけど、ちょっと困っていたわ。
あたしは悪くないのよ…。あいつが喧嘩売ってきたんだから。
そんなこんなで、あたしはいつの間にかオカシャンと同じベッドで眠るようになったの。
オカシャンが近くにいればあたしをあいつから守ってくれるような気がして。
オトシャンは相変わらずあたしに怯えていたけど、あたしはすっかりこの三か月でオカシャンに信頼をおくようになってきたわ。
それでもあたしとあの毛玉との対決は毎日のように繰り返されているわ。
オカシャンが居ない時間は結構長い、昼間にちょっとだけ帰ってきてもあの毛玉を優先している気がしてならないわ。
だからたまにそっと出てみるの…廊下まで覗きに。
それに気づいたオカシャンは「すーちゃんおいでー」と呼ぶけどもやっぱり怖いから寝室から出ることはできないの。
オトシャンが寝室で寝ることもあるわ。
そういう時はオカシャンはあの毛玉の居る部屋で寝ているの。
オトシャンとも一緒に寝てみようと試みたけど、オトシャンは寝ちゃうとあたしがせっかく添い寝してあげてるのに、寝返りを打ってあたしをつぶそうとするのよ。
オトシャンと寝るのはごめんだわ…。
オカシャンが一緒に居てくれる時間はあたしだけがオカシャンを独り占めできる時間で、あの毛玉はオトシャンと遊んでいるの。
女は女同士、男は男同士の方が気が楽だわ。
あたしはひとりで昼間布団に入っているのも好きだけどオカシャンの足の間で眠るのも好きよ。
オカシャンは寝相が変わらないから安心して一緒に眠れるの。
最近はオカシャンにもみもみしてあげたりもするし、お鼻でキスもしてあげるわ。
オカシャンに慣れたころ、オカシャンの友達が遊びにきたの。あたしが丁度窓際の高台にいる時間帯よ。
その友達は今までたくさんの同種と一緒に暮らしてきたから、あたしたちの扱いには自信があったみたいだけど、今あたしが心を許してるのはオカシャンだけよ。
その子は美味しい匂いのするものをあたしに向けたけど、オトシャンと同じで少し威嚇したらビビッてしまったわ。
そういえばあれから来てないわねあの子。
そして、オカシャンとの暖かい生活を夜は楽しんで、「すーちゃん」と呼ばれれば返事も被せ気味でするくらいに仲良くなったわ。
昼間はうっかり見つかれば毛玉と喧嘩して相変わらず。
オトシャンとはまぁまぁな感じになってきたわ。
え?あたしを懐柔するには100年早いなんてあたし言ったかしら?
あたしにとって人間の3か月は一年以上よ。それにあたしには分かるのオカシャンがあたしのことを愛して大切にしてくれていることが。
傷は塞がったとはいえ、一生消えない牙の跡をオカシャンの指につけたあたしを「すーちゃんかわいいねぇ」「すーちゃんいい子だねぇ」と撫で繰り回してくれるのよ。
あたしが触ってほしいところを全部知ってるの。
あたしはおしりを触られるのが大好きなの。
おしりを撫でてくれるとうっかり
前回り受け身を取っちゃうくらいにね。
オカシャンはあたしたち同種の扱いになれてるみたいね。
でも、昼間はあたしは一人で居たいの。たとえオカシャンが居たとしても一人で眠っていたいの。
あたしには一人の時間も大事なのよ。
そんなうっかり懐柔されてしまったあたしの前からしばらくしたある日オカシャンが消えてしまったの…。
何が…あったの?
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