第20話 『それぞれのお気に入り』

しばらく警戒していたあたしだけど、毛玉改め裸族のようになることはないようでホッと安心したわ。


あたしは外にいた頃、暑くても大好きで追っかけていたものがあったの。


そいつは足が速くって小さくて遊び相手に丁度良かったわ。


兄弟たちとは違ってあたしの方が一方的に強いのに、とにかくそいつは足が速いからなかなか捕まえるのには苦労したけど楽しかったわ。


このおうちにはそれがいなかったの。


でも、オカシャンにはあたしの気持ちが伝わるからすぐにそいつは来たわ。


今までみたことがない色のそいつはあたしが叩けばものすごい速さで飛んで逃げるの!


それを逃さずキャッチしてまた叩いてやるのよ。


不思議なことにそれらは袋の中に常にしまわれるの。


でも、あたしは一人の夜にその袋の中から何匹もそいつらを出して追いかけっこして遊ぶのが大好きよ!


とどめは、しっぽと胴体をボロボロにするか、水責めね。


水責めにすると飲み水がすごい色になるのは、このタイプのやつだからかしら?


楽しすぎて飲み水に困ることが時々あるから、基本的にはボロボロにかみ砕いてとどめを刺すわ。


毛玉改め裸族はどうやらそれに会ったことがないようで、全く興味を示さないのよ。


だからあたしの独り占め。


このおうちには色んなおもちゃがあるけど、あいつはあいつなりにお気に入りがあるらしいの。


ただ、あいつは一人では遊べないらしくて、お気に入りのおもちゃを咥えてあたしに持ってくるのよ。


あたしは興味がないし、何より重いの。


ピンク色のながーい紐の先に白いふわふわした毛玉がついているのだけど、オトシャンやオカシャンなら持ち上げられるけど、あたしには無理よ。


っていうか一人で遊びなさいよ!


なんであたしがあんたの相手をしてやらなきゃいけないのよ!


「僕がここに来た頃、僕がオトシャンとオカシャンの眠る寝室に似たようなおもちゃを持っていったら喜んで振ってくれたのに」


と甘ったれね。


あいつも、おもちゃの毛玉がボロボロになるまで遊んだら少し興味がなくなるみたいで、定期的にオトシャンとオカシャンが新しい紐を出しているんだけど、


その瞬間のあいつの目はランランと獲物を狙う目になるわ。


それ以外は基本、野生のやの字もないようなやつなのに、裸族になってからより一層オトシャンとオカシャンに紐を振れ!とおねだりしているわ。


あたしもおねだりしてみようかしら…。


オカシャンのところにあたしのお気に入りを投げ込んでみたわ。


オカシャンは気が付いてあたしに投げ返してきたの。


すかさず、あたしはオカシャンの方へ打ち返したわ!


そしてラリーは続いたけど、あたしはすぐ飽きちゃってごはんを食べに行くの。


あいつは常に遊んでもらわないと遊べないけど、あたしは一人遊びがやっぱり好きね。


まぁ?たまにはオカシャンに付き合って遊んであげてもいいけどね。


あたしのお気に入りのそいつらはボロボロになったり水責めをするとオカシャンによって捨てられてしまうわ。


どんどん数が減ってしまって困るからあたしはいいことを考えたのよ。


隠し場所を見つけたの。


オトシャンもオカシャンも気づかない隠し場所。


そこにどんどん隠したら、オカシャンが新しいものをどんどん買ってきて袋に追加してくれるようになったわ。


でも、とっても心配そうで不思議そうにしているのよね。


あたしの隠し場所きっと二人には分からないわ。うふふ。あたしもそこから出せないんだけどね。


あたしも裸族もおもちゃは別々のものを気に入っているけど、あたしたちが共通して気に入っているものがあるの。


そう、酒よ!


やっぱり大人の女だもの酒くらいたまには舐めないとね。


オカシャンもオトシャンもお酒は大好き、でも二人が飲むお酒はあたしたちには飲めないお酒なのよ。


オカシャンがたまにくれるのは透明なお酒と茶色いお酒よ。


最初はうっかり裸族と仲良くしそうになるくらいほろよいになるんだけど、吞み進めると激しめの喧嘩になるのよね。


酒はほどほどにしなくちゃね。ちょっと足りないけど。


あいつはとにかくお酒を舐めたらぐねんぐねんしているわ。


そして大事そうにずっと舐めてる。


そんなあいつの幸せそうな姿をみるとなんか…


腹が立ってきちゃうのよね!あたし。


なんでかしら?


まぁいいわ。たまに貰えるおやつや酒はあたしたちの共通のお気に入りよ。


オカシャンとあたしのお気に入りは葉物野菜と海苔ね!


オトシャンとあたしのお気に入りはカツオのタタキだわ。


時々行われるたこ焼きでゆでダコをひとつ盗んだらオカシャンがすぐ気づいて追いかけてきて


「すーちゃんお口の匂い嗅がせてごらん!タコ食べてない?」と珍しくしつこいので高いところに逃げて「たべて…ないわよ!」と嘘を付いたわ。


ゆでダコの一つくらいで大騒ぎするなんてオカシャンはかなりタコが好きなんだわ。


美味しかったもの。


だからきっとタコもオカシャンと共通のお気に入り。


オカシャンとオトシャンの共通のお気に入りはお酒以外は少ないわね。


オカシャンが主に食べているものはとにかく辛いもの。


オトシャンはそれが食べられないらしいの。


オトシャンがおうちで食べる時には基本的にオトシャンが作っているみたいだけどオカシャンはなんでも食べてるわ。


オトシャンの倍の量くらい食べてるのよ。


雑食で大食いね。


おもちゃはあんまり共通のおもちゃはないみたいだけど、オカシャンはスマホであたしたちの写真を撮ったりして遊んでいるわね。


オトシャンもスマホは好きみたいだけど、テレビにつなぐゲームをしているわ。あれもタコね。イカかしら?


この二人かなりのタコ好きだわ。


あとはこの二人の共通のお気に入りは断トツあたしよね!


まぁ、裸族もあたしの次くらいにはお気に入りかもね。


あたしがナンバーワンに決まってるわ。


あたしは、酔狂なオトシャンに呼ばれてここに来て、ずっと一緒に寝てくれるオカシャンに、ここの家族になることを決められたんだもの。


裸族は何かオカシャンの知り合いから縁があってきたみたいだけどね。


そんなこんな言っていたら、なんとあたし…病気になってしまったみたいなの。


困ったわ…。本当に困った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る