第7話 【閑話】1/20∞

俺は名もなき人生を歩んだ1/20。


まぁ、俺の人生をちょっと聞いてくれよ。


ある日生まれ落ちた俺は一人で産まれたんだが兄弟ってのは沢山居たんだ。


家庭によって違うんだろうが、産まれたらすぐに親離れってのが俺たちの当たり前で、似たような家庭の生まれの奴らは一か所に集められて、見世物のように扱われたんだ。


当時はいろんな派手な色したやつとかも居たな。みんな赤ん坊なんだけどな。


流行りってもんなのか時代ってもんなのかまぁ、俺たちは二束三文でよく買われていったもんなんだ。


俺も例外じゃない、ただ俺は天然の金髪そして俺と一緒に買われていったガキたちは他に19も居た。俺を入れれば20を、ある爺さんが溺愛する孫娘のためにとまとめて買って行ったんだ。


連れて来られた家には俺らの親と同じような大人が離れの家をもらって暮らしていた。


俺ら赤ん坊は爺さんや婆さんと同じ母屋で暮らすことになった。


その家はたいそう大きく、飯も悪くない。一緒に来たこいつらとも気が合わないわけじゃない。


住んでる奴らは爺さんと婆さんの他にその二人の子供と言っても、それなりにデカくなった息子と娘、そして例の孫娘。


俺らの世話は爺さんや婆さんがしてくれたんだが、ここに来てから俺らの相手はどうやらこの孫娘のようだった。


この孫娘どうやら2歳というまだまだ小さなガキだ。


俺らが話す言葉はほとんど通じない。


背丈も他の奴らと比べれば小さいとはいえ、俺らの100倍くらいはデカいだろう。


このガキは俺らを見るなり「きゃあいいきゃあいい」と大はしゃぎだった。


それは最期まで変わらなかった。俺らの事を大好きで大好きでしょうがなかったのは言葉では伝わってきた。


だが、このガキはお人形のように可愛くいるだけではなく、悪魔のような所業をしでかしていくのだった。


俺らはこのガキの誕生日のプレゼントとして爺さんに買われたようだった。


丁度その頃はひな祭りという人形が何段の山にもなって飾られる時期でもあった。


ガキは馬子にも衣裳で赤いお着物を着せつけられ、俺らを肩に乗せたりして写真を撮ってもらっていた。


日常ガキは昼間は保育園という場所に行っていて、家に居ない。


居るのは婆さんと婆さんの息子だけだ。


たまに全員いることもあるが稀だ。


日中ガキが居る時は「きゃあいい」を連呼して俺らを触りにくる。


初めは恐々つつくか撫でるかしていたガキだったが、慣れてきたころにはひとりずつ捕まえては遊ぶようになった。


追いかけまわしたり、抱きしめたり、きゃっきゃしながら動く赤ん坊たちと楽しく遊んでいた。


ところが、気が付けば俺を含め最初には20居たはずの赤ん坊の数はどんどん減っていく。


俺らは母屋の中に居るとはいえその一角に囲まれて暮らしていたから、ガキに連れていかれた他の赤ん坊が目の前から消えた後どうなったのかは知ることができなかったが、


何人かガキと遊んで帰ってきた赤ん坊が言っていた、「あの子可愛がってくれるのはいいんだけどちょっとね…。」と詳細を聞こうにも「いつかわかるよ」としか教えてくれやしない。


そう言っていた奴も帰ってこなくなった。


そして、ついに俺の番が来た。


もう人数は最初の半分くらいになっちまっている。


このガキにはいったいみんな何をされているのか気になる反面、少し恐怖を感じた。


ガキは俺を掴み上げ、「ブーンブーン」と宙を舞わせたり、外に連れ出しては金魚の居る場所に連れて行って俺を泳がせようとしたり、とにかく俺を握りしめながら家中や庭中を駆けめぐり、ガキが疲れたころに家の中で手のひらから解放された。


ガキが眠ってしまったのだ。


チャンスだ!とそこを離れると、


ガキが寝ていることに気が付いた爺さんか婆さんが来て、俺を他の赤ん坊のところに戻してくれた。


ガキは他の場所に運ばれていった。爺さんと婆さんの孫娘への猫かわいがりはどうにかしてほしいもんだ。


ひゃ!猫なんて言っちゃいけない言葉遣っちまった。くわばらくわばら…。


みんなのところに戻り、以前俺に言っていた奴の言葉の意味を理解した俺は、帰ってこなかった他の赤ん坊はもう居ないことに気が付いた。


あのガキ、力が強すぎるんだよ!もうちょっとで俺もお陀仏寸前だったぞ。


そう、あのガキは俺たちを可愛がるあまり力いっぱい抱きしめてしまったのだ。


それから数か月俺は金髪の可愛い赤ん坊ではなくなってきた。


5か月もすれば親たちと同じ姿に成長しあのガキを蹴とばすことすらできるようになった。


俺にも立派な男の勲章もできたある日、爺さんと婆さんとあのガキに連れられて電車に乗ってド田舎に連れて来られた。


ガキは泣きじゃくって俺との別れを惜しんでいた。


あの家の離れに居たおとなたちはみんな女だけだったんだ。


男である俺はどうやら婆さんの親戚のところに連れて来られたようだった。


そこはいい女も居て飯も申し分なく、離れで極楽のような暮らしをしていた。


ああ、おとなになれた他の赤ん坊か?


残念ながらおとなになれたのは俺だけだった。俺以外の奴はあのガキの強すぎる愛情に文字通り圧し潰されちまった。


俺は強運だったのかもしれないな。


(実のところは捕まえられそうになるとガキの手の届かない端の方に陣取っていたんだがな。)


あのガキは他の赤ん坊が動かなくなる度に号泣し、墓を建てたのだそうだ。


泥だらけになりながら最期まで愛していたにも関わらず不器用なガキだった。


ド田舎の生活に慣れたころ、そんなガキとの思い出も懐かしく感じて今の俺にも妻と子が居る。


こいつらが居なくなったら俺もきっと悲しい気持ちになるだろう。


力加減の分からんあんなガキでもあれだけ「きゃあいい」と言われ続けりゃ俺も家族だと思っちまってたからな。


あのガキがもう少し大きくなったら、もうちょっと可愛がる時に抱きしめすぎなくなるだろう…そうすればあのガキの泣き顔よりも笑顔が見れるんだろうな。


そして、俺はド田舎で猫に喰われた。


俺が猫に喰われた事は爺さん婆さん経由であのガキにも伝わった。


あのガキはどうせまた泣いてるんだろうが、泣き顔を見なくて済んだのはなんだかホッとしてる俺だった。


家族はそのあとどうなったかな…でも、俺にも次がある、またあのガキに会うことも縁があればあるかもしれないな。


20の中から唯一おとなになり、社会に出された俺にはあんなガキより猫の方がよっぽど残虐だ…次は何だろうな。


願わくば、力加減のできないガキに俺らのような小さな赤ん坊は遊び相手に向いてないから大人たちが与えないことが得策だ。


ガキたちの心の傷になっちまうからな。頼むよ。

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