第5話 僕の地獄の8か月、オカシャンの至福の8か月
酷い目にあった暑い季節が終わり僕の自慢のファーも少しずつ手入れが行き届くようになってきた涼しい季節にある事件が起きました。
なんと僕ではなくオカシャンの身体に異常が現れたのです。
二の腕にオカシャン曰く「ポ〇デリングのような湿疹」とやらが出たそうでオカシャンはそれを見るなり出かけていきました。
その一週間後くらいになると、つい最近定例の「病院」には行っていろんな検査の結果も問題ありませんと言われていたのにいつものペースではなく、またあの「病院」になぜか僕が連れていかれることになりました。
どうやら以前オカシャンが先生に相談していた僕の禿げについてらしいのですが、確かに引っ掻きすぎているとは僕自身も感じているけども、確かに痒いから引っ掻くのだけれども、
病院にはできればそんなにしょっちゅう連れてきてほしくはないなぁ…。
今回は禿げている場所などを少しこすられただけで酷い目には合わなかったことが不幸中の幸いでした。
おうちに帰るなりオカシャンはあのとろとろした舌の止まらなくなるやつをくれたので、まぁ仕方ないなと大人な僕は大目に見てあげました。
それから1か月ほど経って僕の地獄が始まったのです。
帰ってきたオカシャンは家のあちこちを大掃除し始めました。
掃除機という黙っていれば害はないのに、突然大きな音を出すやつには僕もなじむことができず、できるだけ離れるようにしています。
いつも以上に掃除をして、なんかおいしそうなにおいのする液体を床中にまき散らしてはふき取っているオカシャンはなんか僕がお気に入りの場所もとにかく液体をかけまくりました。
舐めようとしたら止められましたが、そのうち落ち着きホッと一息ついたのも束の間。
オカシャンが僕を捕まえたり抱きしめたりすることはしょっちゅうなのですが、この時のオカシャンは捕まえた僕を、負のオーラのする部屋に閉じ込めなんと僕の一番嫌いな生ぬるい水の中に僕を入れようとしたのです。
僕はこの部屋にただならぬオーラを前前から感じていて近寄らないようにしていたのに、僕の勘は当たっていました。
オカシャンは僕を抱きかかえたまた生ぬるい水の中に一緒に入りました。
水の中では胃が腸がふわっとした感覚でオカシャンが抱きかかえているとはいえ不安で僕は力むことなく遺憾の意をすべて水の中で出しました。
すると大慌てしたオカシャンが扉の奥にいるオトシャンをひたすら呼びます。
ん?もしやこれは効果絶大か?
オトシャンが来たら逃げ出してやる!早く僕を助けに来てオトシャン!
するとオトシャンがやってきては僕の遺憾の意を持って僕を置いてすぐにまた扉を閉めていなくなってしまいました。
作戦失敗でした。
それから約1時間ほど僕はオカシャンと生ぬるいお湯の中で過ごし、もう打つ弾丸もないので諦めてたまにオカシャンの顔を見上げてかわいい顔をしてあげる作戦も実行しましたがなかなか出してくれません。
オカシャンはというと、とっても嬉しそうな顔で僕を抱きかかえて沢山撫でてくれはします。
そんなことでは許さんのだからな…。
やっと生ぬるい水の中から出たと思ったら次はオカシャンが僕に臭い液体をひたすら塗りたくります。
やたらと泡立つその液体は僕の全身で少し嫌な感覚をさせながらモコモコしていました。そしてまた1時間ほどそのままにされた僕が次に見たのは
なんとも恐ろしくうるさく僕を威嚇してきながら生ぬるい水を連射で撃ち込んでくる武器でした。
モコモコした泡はその武器によりすべて流されていったのですが僕は早く逃げ出したくてその負のオーラの部屋の隅でとにかく怒って叫んで助けをオトシャンに求めていました。
切ない声で。
オカシャンを叩きまくりましたがオカシャンは叩かれることも引っ掻かれることもあまり気にしないタイプなので強めに連打で叩いてやりました。
するとオトシャンの声がして僕はやっとこの水責めの地獄から解放されたのでした。
負のオーラの部屋からもやっと出されました。
びしょ濡れのままの僕は少し寒いなと思っていたのでオトシャンが差し出して包んでくれた毛布にくるまりました。
少しするとオカシャンが負のオーラの部屋から出てきて僕に今度は新しい武器を向けました。
今度は熱風の出るこれまたうるさい武器でしたが、少し寒い僕はその風責めは甘んじて受けました。
風を出す武器はドライヤーと呼ばれる武器らしく使い方を誤れば大変なことになるものらしいのです。
オカシャンはちゃんと的確に使えるのか少々心配ではありますが、僕は寒さから解放されやっと閉じ込められた部屋の中からいつもの部屋に戻ることが出来ました。
僕のお気に入りの場所はとにかくなんか僕の匂いではないけど、
なんかいい匂いになっていますし、少し濡れていますが散々の抗議で疲れ果ててしまったし、またあのとろとろとした舌の止まらなくなるやつももらったし、
なんか痒みが落ち着いていてグッスリと眠れたのですが、オカシャンにもうこりごりだからね!と念を押しておきました。
すると次の日もその次の日もオカシャンは反省したようで僕を負のオーラの部屋に連れて行くことはありませんでした。
そういえばあの連射でぬるい水を撃ち込んでくる武器は確かあの暑い季節に出会った大きな敵も使ってきたやつだったな確かあの武器の名は「シャワー」。
この家にもそんな物騒な武器が隠されていたとは油断していました。
水責めに風責めこれはきっと僕の嫌なことだということがこれでオカシャンにもオトシャンにも伝わったようだったのに、
なんとオカシャンは2週間に一度必ず僕を同じ目にあわせる暴挙に出たのです。
あの大きな敵よりも強いのか…オカシャンは。
タイミングが悪いと僕の効果絶大な唯一の攻撃に使う弾丸が装填されておらず、ただ「助けてー」「いやだー」と叫ぶしかなかった日もありました。
そんなことがなんと8か月もの長い間続いたのです。
そんな地獄の8か月嬉しいこともありました。明るい日に1回暗い日に1回ちょっと具が入ったとろとろで舌が止まらないやつを貰えるイベントが発生していたのです。
これはオカシャンが僕への攻撃を嬉しそうにしていることへの罪の意識からくるものなのでしょうと僕は食べて忘れてあげる優しい大人なのでした。
地獄の8か月は突然終わりを迎え、具材入りとろとろイベントも同時に終わりを迎えました。あのツブツブとした具材は何だったのだろう?まぁいいか美味しかったし。
長かったあの日々が終わり、ある日ふと鏡を見るとなんと禿げが治っていました。
そういえば最近あまり痒くもない。
僕の禿げの原因は、水虫だったのです。
夏場に僕を抱きしめていたオカシャンの二の腕に僕が持っていた水虫が移って「ポン〇リングのような湿疹」というものができたようで、
僕と一緒にオカシャンは薬湯に入り一緒に治療をしていたらしいのです。
僕に水虫移した奴はどいつだー!見つけたら叩いてやる!連打で叩いてやる!もう移すなー!こりごりだー!ぷんぷん!
オカシャンはというとぬるい水の事を「お風呂」と呼んでいましたがそのお風呂に僕と入る時間はオカシャンにとっては至福の時だったようで、
オカシャンにとっては至福の8か月が終わり少し残念そうではあります。
「また一緒にお風呂に入ろうね」などと不吉なことを言います。やめてほしいです。
そうして、僕の地獄の8か月と迷惑ながらオカシャンの至福の8か月は終わり、今度こそ平和な日々が始まると安堵していた僕の目の前に
長年見てきたあの個室が、この家にはなかったはずの、あの個室が現れたのです。
僕はもしかして僕は…またあの中に入れられてしまうのでしょうか…。一体僕はどうなってしまうのでしょうか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます