僕は今じゃこ天という名前で生きています。
かねおりん
第1話 僕じゃこ天になりました
僕は今じゃこ天という名前で暮らしています。
僕が生まれたところは兄弟がたくさんいて、家政婦さんも、お母さんもいてとっても賑やかな場所でした。
でも、お母さんや兄弟たちと居られた時間はそんなに長くありません。
すぐに別の場所に引っ越しをして個室を与えられました。
その個室は夜はとっても静かで日中は家政婦さんが沢山居て、ガヤガヤしていて「かわいい」「かわいい」と褒められてごはんもちゃんと食べることができてそれなりの生活を送っていました。
兄弟たちも近くの個室に居るのですがなぜか一緒には遊べませんでした。
そして、ある日また引っ越しをすることになりました。
新しいおうちでは家政婦さんと執事さんに「かわいい」と言ってもらってごはんも沢山食べることができておやつまで出てくる楽園のような場所だと最初は思ったのです。
約1年ほどすると家政婦さんと執事さんは僕に「かわいい」と言うこともなくなり、ごはんやおやつもろくに食べることができなくなり、捕まえられては、酷く殴る蹴るなどの暴行を受けることになりました。
最終的には酷い家政婦さんと酷い執事さんは僕を他のおうちに一人引っ越しさせました。
生まれたところから3回目の引っ越し先は友達にはなれないものの近くに似た境遇の子供たちが沢山いました。
みんな自由に暮らしていたらここに来てしまったとか、僕と同じように酷い家政婦さんや酷い執事さんに無理やり連れて来られたと愚痴をこぼしていました。
そこは誰一人僕のことを「かわいい」と言ってくれる家政婦さんはおらず、先に居た子供たちはいつの間にか声を聴くことすらできなくなりました。
「もうすぐだね、この子も」などという執事さんはギリギリ飢えをしのぐくらいのごはんをくれました。
なにがもうすぐなんでしょう??
僕には何のことだかわかりませんでしたが特に気にせず居たのですが
そこに久しぶりに「かわいい」と言ってくれる人が現れました。
僕だけではなく何人かの子供たちを連れてその人は新しいおうちに連れて行きました。
なんと新しいおうちには今までに会ったことがないような多くの子供たちがいて、意外と会話を交わしたりすることもできました。
お母さんや兄弟たちは今どうしているんだろうと時折考えますがごはんを食べると忘れてしまいます。
もう4回も引っ越しをしているのに、ある日また引っ越しをすることが決まりました。
5回目の引っ越し先では家政婦さんが僕だけを個室に入れて他の大勢の子供や大人は家中を自由に動き回っています。
家政婦さんは「かわいい」どころか、とても無口な人で僕にも、他の子供たちや大人にも何も話しかけませんがごはんは少量であまり美味しくない賞味期限が切れているような味がするものなら食べることができました。
そこから16年弱の月日が経ちました。
僕は16年弱の期間、個室に一人ぼっちで、周りの子供だった子や、もともと大人だった人たちにめちゃくちゃ絡まれるし、喧嘩を売られるので個室の中から喧嘩を買ったりもしました。
それにしても個室っていっても丸見えだし、狭いし、運動不足で退屈なおうちでしたが、
まぁ、ごはんを食べると忘れるので僕は16年弱一言も話さない家政婦さんでもそれなりに暮らしていました。
ところが日に日に元々少量だったごはんの量が更に少なくなってきました。
誰かに横取りされたりはしないのですが、あからさまに家政婦さんが持ってくるごはんが減りました。
どうしよう、ごはんだけが僕の楽しみなのに。
そう悲しんでいたら、生まれてから16年以上ずっと個室暮らしの僕が初めてこのおうちで個室から出されました。
ほんの数分でしたがとにかく家中を走り回りたい気持ちが抑えきれず、元気いっぱい駆け回りました。
家政婦さんはそんな僕に何かを向けていましたが、あれは以前の酷い家政婦さんと酷い執事さんも最初の頃に僕によく向けていたもの。
もしかして痛い思いをこれからすることになるのかと、過去を思い出してしまいました。
お母さんに教わった「家政婦さんや執事さんには可愛く甘えるようにしなさい」をちゃんと守ってきたのに出会う家政婦さんや執事さんは甘えても、
結局は僕を痛い目に合わせたり、監禁したりとお母さんの教えは役に立つのかな?と少し心配になりましたが、他の事を教わっていないので仕方ないので可愛く甘えていたら、
なんと、6回目の引っ越しが決まり無口な家政婦さんとの16年弱の暮らしが終わりました。
僕の後には新しい子供は入ってきませんでしたが、先に居た子供たちや大人たちもどうやらおうちから出される事になったようです。
無口な家政婦さんがくれるごはんが少なくなったことが関係しているようで一家離散といったところだと思っています。
そしてある日僕は狭い箱に入れられて移動することになりました。
移動した先には僕を捕まえようとする【知らない家政婦さん】と【知らない執事さん】がいましたが、ほんの少し僕が怒ったら僕はまた狭い箱に入れられてその二人とは違う家政婦さんに連れられて新しいおうちに到着しました。
6回目の引っ越し先には気の強い大人が二人と家政婦さんと執事さんのほかにやたらとしつこい背の低い家政婦さんと更に背の低い執事さんが居ました。
個室も与えられましたが、日中は時々おうちの中を自由に行き来させてくれるので、生まれたばかりの頃のように走り回り大人たちにもかまってもらおうとちょっかいを出しにいったりもしました。
でも、ものすごく怖い大人たちだったので、僕も舐められまいと強気で喧嘩もしました。
家政婦さんは今までの家政婦さんや執事さんと違い、家政婦というよりは乳母のような優しさでした。
ごはんもしっかりくれて、おやつもくれました。
ただ一度だけとても恐ろしい場所に連れていかれたのでそれだけは忘れられません。
何人もの家政婦さんと一人の執事さんが僕の嫌がることをどんなに暴れて「やめろー」と叫んでもやめてくれなくて、
僕はもしやまた痛い思いをしなければいけないのか?と不安で仕方がありませんでした。
乳母のような家政婦さんも僕に過去に向けられたものをたびたび向けます。
そして、ある日乳母のような家政婦さんは僕に「じゃこてん」と声をかけたので返事をしてあげました。何のことやら分かりませんが、なんかうっかり返事をしてしまったのです。
乳母のような家政婦さんのおうちに居られたのは今までで一番短い期間で1か月ほどでした。
まぁ、喧嘩ばかりの大人たちや、しつこく僕に触ろうとする背の低い家政婦さんや更に背の低い執事さんとは相容れなかったのでそれが原因なのかもしれないなと、少ししょんぼりしました。
7回目の引っ越し先にはなんと、ほんの少しだけ見たあの、僕を捕まえようとする【知らない家政婦さん】と【知らない執事さん】が居たのです。
僕は生まれて初めて個室のないおうちに来ました。
こんなことは初めてで家中を駆け回りました。
いくら駆け回ってもどこにも閉じ込められたりしないのです。
これは、もしや、お母さんが言っていた「家政婦さんと執事さんには可愛く甘えなさい」が有効な場所なのか?とふと思い、その日のうちに擦り寄ってみました。
「かかってこいや!」と。
家政婦さんも執事さんも例のアレを僕に向けて「かわいい」「かわいい」と言いました痛い目にはあわないか不安です。
そして、家政婦さんは自分のことを「お母さんですよ」と、執事さんは「お父さんですよ」と言うのです。
僕のお母さんは一人だけです。なんなんですかこの二人は。
馴れ馴れしいですね。
でも、僕のお母さんの教えに従ってとりあえず可愛く甘えてあげようじゃないかと思っていたところ
またあの言葉を聞きました「じゃこてん」「じゃこてんくん」「じゃこ」「おじゃこ」「じゃこさん」「おじゃこす」どうやらこれらはすべて僕に対して話しかける時に使われる言葉のようです。
乳母のような家政婦さんが言った言葉それは、どうやらこの自称「お母さん」が僕につけた「名前」だったとしばらくして気づきました。
そうして僕の「じゃこ天」という名前の暮らしは7回目の引っ越しと共に賑やかに始まったのです。
因みに名前の由来はあの日、ほんの少し僕に会った日に自称「お母さん」がじゃこチャーハンを食べた時に思いついたのだといいます。
僕の銀色のファーの色が似ていたからとか。じゃこ天てなんでしょう。
まぁいいや、僕は美味しいごはんとおやつが貰えればそれで全部嫌なことを忘れちゃいますから。
まぁ、呼んでほしいのなら時々なら呼んであげてもいいですけどね。
でも、僕のお母さんは一人お父さんなんか見たことがありません。
それじゃ少しだけ変えて「オカシャン!」なんと自称「お母さん」と自称「お父さん」はそれを聞くなり大喜び!「あらじゃこよく喋れたねーいい子いい子」と褒めちぎるので僕も気分が良くなりました。
ふん、こんなことで喜ぶならまた呼んであげましょう。
そして、その日は僕は自由に家中を見て回り、好きなところで寝ることにしました。
自称「お母さん」「お父さん」も静かに眠りについたようですが一枚の扉が二人のいる場所と僕のいる場所を遮っていて、急に不安になりました。
ごはんはたっぷりあるのですが
「ねぇ!僕はここだよどこにいったの?」「ねぇ!寂しいんだけど何日一人にするの?」と叫びました。一日と少し後には二人とも扉の外から現れてごはんもしっかりくれました。
自称「お父さん」はそこから一日と少しいませんでしたが自称「お母さん」は一緒にいてくれました。
僕はちょっとだけ安心しました。
暗くなるとまた一枚の扉が二人の間に現れます。散々僕は抗議をしました。
するとまた一日後に現れた二人は二人ともさらに一日と少し僕をおうちに一人残して居なくなってしまったのです。
これは遺憾だ!僕はトイレではない場所であえて遺憾の意を表明してやりました。
それを帰ってきた自称「お母さん」が見るなりどの家政婦さんも執事さんも、僕に向けていたアレで何かをしています。
どうやら、僕の遺憾の意は通じたようでそれからは、一枚の扉が暗くなった後開かれるようになりました。
でも実は一枚だと思っていた扉は更に何枚も存在していたのです。
僕はもう一人で寝たくないのに。とにかく叫びは届くということが分かったのでもっとお願いをすることにしました。
もう一枚の扉の中に二人がいることは僕には分かるのです。
それでもしばらくはその扉の中に僕は入れませんでした。家中だと思っていたのに僕がいたのはほんの一部だったことに驚きました。
なんせ僕は生まれて16年以上ずっと狭い個室で暮らしていたんですから。
とりあえずは、ごはんもおやつも食べて満足したので明日また「オカシャン」たちの出方をみようと思いました。
ラッキー7の引っ越しでありますように。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます