第41話 『あれらの退治実験開始』

やっと外に出たオカシャンたちは大いなる賭けに付き合ってくれる病院の先生に会いに行ったそうよ。


毛玉はあれらの退治の仕方が分からないみたいであれらに向かって叫んだり、なぜか玄関に粗相をしているわ・・・。


あたしにはさっぱり意味が分からないわ・・・。


時々オカシャンたちに見つからないような隅の方に隠してあることもあって臭くてしょうがないわ。


あたしは昔からあれらとは縁のある暮らしをしてきたから分かるの。


あれらからは逃げるなんて不可能よ。


そうなったらオカシャンはきっと死んでしまうでしょうね。


そして、あたしも。


だから、あたしもあれらにはとても警戒しながらオカシャンの傍らに出来るだけ長く寄り添って覚悟を決めたの。


それなのに、毛玉はあたしとオカシャンの邪魔もしてくるんだから本当に空気読めないわね。


そんなあれらをオカシャンは見えていないのに察知しているようなのよね。


オカシャンはあれらの対処法として、大切な夢を完全に失う覚悟をしたようなの。


そこまでして人生にしがみつくなんて、オカシャンらしくないけど。


あたしのためなのかもしれないわ。


だってオカシャンはあたしのこと大好きだもの。毛玉よりもきっとそうだわ。


オカシャンの眠る枕元で添い寝するあたしに「すーちゃんじゃこさん長生きしてください」と歌うオカシャン。


最近は心身ともに疲れ切ってしまっていたオカシャンには子供の頃からの趣味があったの。


あたしは怖くてできないけど、オカシャンは16歳になってすぐ、体重がギリギリの基準値でも挑戦したみたいなの。


命のかけらを誰かに分け与える事。


初めては、少量しか分け与えられなかったうえに、顔が真っ白になって視界がモノクロで升目状に見えなくなっていくという経験をして、もう少し体重を増やさないといけないと言われて、それからは、しばらく断念していたみたいなの。


体重が増えても月に一週間は行けない時期があったり、お腹にチャンスが宿ったりしたこともあり、なかなか2回目は遅くなり、それからは定期的に命のかけらを分け与えに行っていたわ。


それが一昨年の夏ごろ最後に行ったときに貧血でろくに歩けもしないまま帰ってきたことがあったの。


よく考えればその時からずっとオカシャンは貧血気味だったのかもしれないわ。


オカシャンは命のかけらを分け与える代わりにいつもスープやお煎餅をいっぱい食べてくるわ。それが目的なんじゃないかと思うくらいよ。


命のかけらを分け与える「献血」というものの中でもオカシャンが出来るのは全血献血というものだけらしいの。


血管が細くて「成分献血」というものは断られてしまうらしいのよね。


全血はオカシャンは年に2回しかできないのに、ここ最近は全血すら危ういので断られてしまっていたわ。


あらゆる精密検査をして健康そのものと言われたオカシャンが唯一、「献血できなくなったら来院すること」と言われていた病院があったことを思い出して行ったのが今回の先生のところってわけね。


今回大いなる賭けに協力してくれる先生はとてもフランクでオカシャンがパラメディカルであることを知り尚、色んなことを教えてくれる先生らしいのよ。


あたしの先生はあたしを可愛いと言いながら武器を奪っていく先生だけど。


数か月前からオカシャンが飲んでいる高価な薬によって、確かにあれらの動きは遅くなったわ。


オカシャンは健康すぎるがゆえに、あれらが寄ってきてしまったみたいなの。


高価な薬はオカシャンの気持ちも穏やかにしてくれてオトシャンとの険悪な状態もだいぶ減ったわ。


そして、オカシャンは病院の先生に駄々をこねたわ。


せっかくなら他のものも取ってほしいと。


高価なお薬の効果はオカシャンの健康すぎる体を少し抑える働きをするらしいのよ。


それがオトシャンと心穏やかにやっていくのにちょうどいいと感じたらしくて先生にお願いしたのね。


ところが病院の先生は「今は問題なければ取らない方針だからダメ」とのことでオカシャンはガッカリしたようね。


オトシャンと二人で先生のお話を聞きに行った時も「こんなにガッカリされたのは初めてです」とまで言われる始末だったとか。


オトシャンはお話を聞いてもなんだかピンと来てないみたいでめちゃくちゃ他人事。


オカシャンの夢はオトシャンにかかっていたのにね。


オカシャンは趣味の献血が出来なくなることは困るようで、「輸血はなしでお願いします」と先生のハードルを上げまくってからの、


いざあれら退治実験開始となったのよ。


そこそこの荷物を持ってオカシャンは我が家から居なくなったわ。


あれらはオカシャン分はついていったみたいね。


あたし分はまだいるわ。


絶対に不可能だと思っていてもあたしはオカシャンの傍らにまた寄り添って逝きたいの。


オカシャンが居なくなった翌朝オトシャンは眠い目を擦りながら、病院へ向かったようよ。


3時間を予定していたオカシャンの夢を取り出す手術がなんと更に2時間延長されたらしく、帰ってきたオトシャンは長い待ち時間に疲れて眠ってしまって


あたしや毛玉が「ねぇ!オカシャンはどうだったの?」と聞いても反応はないのよ。


今のところあたしに向かってきているあれらの動きに変化はないわ。


でも、まだ触れてはこないわね。


今夜が山だってことかもしれないわ。


オトシャンのスマホは寝ている間、散々ブーブーいっていて、ようやく目覚めたオトシャンが目にしたのは、オトシャンがずっと隠していた秘密がまた新たにバレてしまったという報告だったみたいね。


それでもオトシャンは政治家のように「記憶にございません」と粘るも、


証拠はもうあると言われてオトシャンは一人でイライラしながら、


大きな手術後のオカシャンとやり取りをしていた。


オカシャンはというと実は長い手術時間から目覚めるなり、めちゃくちゃ元気で、とにかく取り出した夢をその目で見たい!と


先生に事前に訴えたため、身動き一つ禁じられているのに麻酔の効いた状態で、


ものすごく喋り始めてまわりに取り押さえられたり、ドン引きされたりしたらしいわ。


オカシャンが20年以上前の教科書を持って入院していたのを見た先生は、オカシャンのために


「自分の身体の中だから写真集にして退院時にあげよう」とオカシャンの身体の中の写真の色んな箇所をピックアップして翌日説明してくれようとしたそうで、


オカシャンは手術の当日は呼吸も苦しく水も飲めず、夜中に何度もナースコールを押しては濡れたガーゼで乾いた口の中を紛らわせたりして、なんとか耐えしのぎ、


どうしても説明を聞きたくて一睡もせずに頑張ったようだわ。


オカシャンのこだわりポイントはそこだったのかしら・・・。


そういえば毛玉が「最近オカシャンの変態度が増したよね」と言っていたような気がするわ。


これか。


あれらはまだいる。どうなるオカシャンとあたし。


そして、どうする?色々バレてしまったオトシャン。


呑気な毛玉は今日もモリモリ食べている・・・。

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