第3話 策士策に溺れる?

オトシャンを助けた勇者じゃこ天と呼ばれている僕です。


オカシャンとオトシャンの行動パターンはだいたい把握できましたが依然として二人が眠る部屋への扉は開きません。


実は二人が眠っている間その扉の前で抗議を繰り返しているのですが。


一枚目の扉ほど簡単には開きません。


「オカン!」と叫んでいると声で扉越しに「どうしたの?じゃこさん?」と返事は返ってくるので近くにいることは確認できます。


ある程度叫ぶと、さすがの僕も眠くなってくるので快適な涼しい場所を探してひと眠りします。


今までの17年ほどで一番広い僕の部屋にはひんやりして地面が不安定な場所があります。


冷たさは気に入っていますが僕は固い安定した場所のほうが安心します。


このおうちはいつでも適温ではありますが明るい日はなかなか暑く僕のファッションだと少し寝苦しいこともあります。


そして、体があちこち痒くなったりもします。


いっぱい引っ搔いてあちこち禿げてしまっていますがどうしたらいいかは分からないのでとにかく引っ掻きます。


僕は生まれた時からずっと吐くことがよくあるのですが、このおうちに来てからはそういえばまだ吐いていなかったな。


なんて思っていたら、突然吐き気が!「うっうっおえぇ」吐くものはごはんだったりそうじゃなかったりもしますが、吐くとスッキリするのであまり気にしていません。


でも、その時、開かなかったはずの二人が眠る部屋の扉が開いたのです。


出てきたのはオカシャンでした。


オカシャンは僕の吐いたものを片付けて「じゃこさん大丈夫?」と撫でてくれたあとまた部屋に戻っていきました。


もしや、これはチャンスですか?


今までは「おい!開けろ!寂しいっていってんだろ!」と文句を言っていましたがオカシャンは僕が吐く声で出てきました。


フフフ、分かった。オカシャンを心配させればあの扉は開放されるに決まっています。


それから僕は二人が眠っている時に叫ぶ言葉を変えました。


「ここを開けないと僕がまた吐いちゃいますよーいいんですかー?」


それだけでは扉は開きません。僕はそこで思いつきました。


演技で吐きそうな声を出してみよう。


「うっうっうっ」するとオカシャンは扉から出てきました。


あれ?僕って演技の才能まである?


オカシャンはおうち中を探して歩いて、僕に「大丈夫?」と聞いて撫でて扉の向こうに戻ってしまいました。


作戦は失敗したようです。


とりあえずは一回目より精度をあげて吐き真似をしてみました。


オカシャンは一度は出てきますが戻ります。


すっかりお手上げです。叫ぼうが、吐こうが、あの扉が開くことはないようです。


僕は寂しい日が多いことを諦めなければいけないことにしょんぼりです。


とりあえずごはんを食べて寝ようと思いましたがなんだか食欲がありません。


ああ、お腹がなんだか重たいです。なんだか便意が来ません。


少し走ってみましたがなかなか出ません。


トイレに行ってみれば出るかもしれません。


僕はトイレに行って踏ん張ってみました。唸ってもみました。


粘った甲斐があり、スッキリしましたがちょっと硬かったですね。


まぁ、これでとりあえずごはんを食べて寝ることができます。


明るい日に目覚めてきたオトシャンが僕のおしりをみて例のアレで誰かに話をしています。


「じゃこが血便を出したみたいだから病院に連れて行かなきゃ!」と


病院・・・。何度か聞いたことのあるような言葉です。なんでしたっけ?


オカシャンが帰ってきた途端にオカシャンはいつものことだけどオトシャンまで僕を捕まえようとします。


オカシャンに結局捕まって久々に見た、あの狭い箱に入れられました。


もしかして、また引っ越し?なんで?吐いたから?僕はあのおうちが好きになってきたのに。


狭い箱の中から僕は叫びました「戻りたい、もうどこにも行きたくない、オカシャンとオトシャンと離れたくない!」


すると着いた場所は・・・あの乳母のような家政婦さんに連れて来られた酷いことをする執事さんと羽交い絞めにする家政婦さんのいるおうちではないですか!


そこには僕よりも大人なたくさんの人たちが家政婦さんや執事さんに連れられて来ていました。


みんな「ここは嫌だ!帰らせてくれ!」と言っていたり「あらここの執事さんは好きよ。」と言っていたりと意見は様々ですがぐったりとしている人もいます。


ずいぶんと待たされたあと、僕はオトシャンとオカシャンと一緒にまたあの酷いことをする執事さんに会いました。


オトシャンが言っていた血便というもののことを話していましたが、それは気にしなくてもいいだろうとの事でとくに何もされなくて済みそうだったのですが、


オカシャンが僕が気にしていなかったのに余計なことを、酷い執事さんに告げ口しました。


「最近引っ掻きすぎて体のあちこちが禿げてしまっていて何か問題がありませんか?」と。


そして、酷い執事さんと羽交い絞めにする家政婦さんたちはまた僕の大切なものを奪い、オカシャンに何かを渡してあの狭い箱が出てきました。


いち早くここから脱出したい僕は来る時とは違い自ら箱に入りました。


どうやらここからあのおうちに帰ることができるようです!


おうちに帰ったらなんとあのとろとろで舌の止まらなくなるご褒美が貰えたんです!やったー!


そして、そこから変わったことが二つ。


一つ目は事あるごとにオカシャンが僕を捕まえて、酷い執事さんに貰ったものを僕の禿げた部分に塗りたくります。


そして二つ目は


待望のあの扉がついに開放されたのです。


その部屋には足元がやや不安定な、高台とは違う景色を見ることができる透明な扉・・・窓がありました。


ついに暗い日にオカシャンとオトシャンが眠る場所に出入りする許可が下りたのです。


大興奮で僕はあちこち探検しました。なんとそこには僕のための遊び場もトイレもあるじゃないですか。


オトシャンとオカシャンは僕が何も叫ばなくても、いつかは入れてくれるつもりだったのか。


でもこれで僕の寂しい日は少なくなりました。


でも、解放されたからと言って、そこで僕が寝るかどうかは僕の自由です。寝慣れた場所で寝て、たまに二人の傍で寝るそんな感じです。


嫌な思いもしたけど、このおうちの2枚目の扉を開けることに成功した僕でした。


明るい日にはその部屋の窓から外をみているとたくさんの家政婦さんたちに「かわいい」とまた言ってもらえるので僕はご満悦です。


ごはんもおいしいし、そしてなぜか歩きやすい、大満足な僕がこのあと、あんな酷い目にあわされるとは思いもしませんでした。

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