第48話 『あたしが教育して・あ・げ・る』
あのバカな毛玉が心も体もボロボロなオカシャンにおやつ欲しさに
それらしくまとめて、このお話を終わらせようとしたから、邪魔してあげたわ。
毛玉に言ったオカシャンのことは多分あってるわ。
でも、オトシャンはあいつの言う通りちょっとあたしたちへの愛も減っている気がするわ。
オトシャンは元々一年前にオカシャンとあたしと毛玉を捨てて、出て行ったくらいだもの。
その時からなのか、最初からか知らないけど、オトシャンには愛する事に責任が乗っかるってことを知らないのかもしれないわね。
オトシャンは毛玉にもあたしにも挨拶くらいはするわ。
オカシャンはベッドの上でやれることをして、自分一人でできないことはオトシャンをスマホで呼びつけて、力を借りているわ。
当然オカシャンご自慢のお仕事もどれもお休み。
オカシャンはここ数年間の間、ほとんどがお休みだったけど、あたしたちのごはんの質が落ちないようにと働いていなくてもお金には困らないようにしてあるみたいね。
オトシャンは自分でもオカシャン以上に稼いでくるけど、昔からオカシャンが稼いできたお金を自分の稼いだお金だと勘違いして、湯水のように赤の他人に大盤振る舞いしてきたらしいわ。
ある時から始まった二人の共通貯金箱に、オカシャンはボーナスを全部入れるけど、
オトシャンはボーナスが出てもそこに入れず好きに使ってしまうみたいね。
今はオカシャンの面倒を見なければいけないから、遊びに行けずイライラしているけど、遊びに行かない分お金は貯まるじゃない。
約束の一か月が終われば、オトシャンは貯まったお金でまた知らない人たちに大盤振る舞いでもするんじゃないの?
少しは、あたしたちへのごはんや、おやつや、おもちゃをそのお金で買ってきてほしいわ。
あたしたちを愛さない人間があたしたちと一緒に居られるのかしら?
オカシャンは見れば分かるわ。あたしと、まぁ毛玉を溺愛しているわね。
それにオカシャンは、入院する前に当分買い物に行かなくてもいいくらいにあたしたちのごはんを買ってきていたのよ。
だったら、動けないオカシャンの代わりにオトシャンは忘れずにごはんを出すくらいしてよ。
オカシャンは不器用だけど大事なのはあたし一番、まぁ、毛玉の事が二番。
人間の中でオカシャンにとって唯一の大切な存在は
オカシャンの妹みたいね。
その子が産まれた時から溺愛しているのよ。
今回手術を決めたのも、妹の事を思ってみたいね。
オカシャンは、友達でも、職場の人でも、家族でも、親戚でも、
離れたいと決めたタイミングで何度も縁を切ろうと試みるわ。
それでも、オカシャンが切ろうとしても切っても不思議と周りに幸せを生み出してしまうオカシャンを、
手放すまいとするその人たちによって縁は纏わりつくようにオカシャンを縛り付けてしまうの。
ちゃんと切れた縁は二度と繋がらないようにといつも願っているみたいよ。
妹だけは絶対に何があっても繋がっていたい縁みたいね・・・オカシャンにとっては。
今オカシャンはオトシャンとの縁を友達くらいの状態にしたいと思っているようね。
オトシャンはどうしたいのかしら?ってお腹の上に乗ってみたけど、
オトシャンはスマホをずっと眺めて現実逃避に忙しいみたいね。
もう何も考えたくないそんな感じかしら。
両方がまたバラバラで暮らすことに、賛成なら仕方ないからあたしはオカシャンの傍にいるわ。
毛玉もなんだかんだこのおうちが好きだからここに居るんだと思うわ。
でも、毛玉はオトシャン子なのよね・・・。あたしだってオトシャンのことも好きよ・・・。
じゃあ、あと少ししか居ないオトシャンの事をあたしが教育しなおしてあげるわよ!
それからは、オカシャン子なあたしがオトシャンの寝る場所に行っては、
オカシャンを誘導して「さぁちゃんと話し合いしなさい」と言うものの
、オカシャンはすぐに部屋に帰ってしまうわ。
ソファの上でもあたしはオトシャンに愛情表現ていうのはこうやるのよと実践してみせてあげているわ。
あたしがこうしたら、そう!ナデナデが正解!
しつこい時には噛みついて、違う!そうじゃないわ!と。
そんな風に愛する人へのスキンシップなどを懇切丁寧に教えてあげたから、
きっとオトシャンは出来るようになるわね・・・。
だってティーチャーはこのあたしよ?
これで出来なかったら赤点よ!
オカシャンはまだベッドでほとんどの時間眠っている。いつになったらまたあたしをお腹に乗せてくれるの・・・。
便秘の辛さは分かるわ・・・頑張りすぎてお腹のケガが痛むのは仕方ないけど、あたしが治してあげるのに・・・。
すると突然、オカシャンが「病院に行かなくちゃ」と大慌て。
タクシーを呼んでオトシャンも念のため付いて行って、すぐ帰ってきたわ。
出血が酷いらしいの。
ただでさえ、ストレス続きでガリガリに痩せたオカシャンなのに、便秘で苦しくて食べられないなんて、どうなっちゃうのかしら・・・。
お薬も貰って次の病院の日まで安静にしていてくださいとのことよ。
そしてそれは、オトシャンと約束した最期の日の近くまでって事でもあるわ。
会話よ・・・喧嘩じゃなくて会話をするの。
オカシャンから聞かれて始まる会話じゃ駄目よ・・・オトシャンから始める会話をするのよ。
目も瞑っては駄目よ。
ちゃんと話し合いせずに逃げていても絶対にオトシャンの希望とは違うものになるんだから、気持ちを伝えないと本当にこれが最期の家族団らんになってしまうわよ。
毛玉はオカシャンの看病にベッドにいるから、あたしはオトシャンの傍でひたすら言い続けてるわ
「今日も全然オカシャンに話してないじゃない」
「さっきの態度嫌な感じだったわよ」
「あたしだったら速攻でパンチね」
あたしのティーチャーっぷりはきっとオトシャンに伝わったわ。
さぁ、実践あるのみよ!
それからしばらく経っても、オトシャンは何も行動に移すことは出来ず。
オカシャンから「じゃあ、予定通りに月末まででそれ以降は必要最低限の伝達事項以外はご連絡控えますので」と、最後通告をまたしても受けてしまったようね。
そして、オトシャンは勇気を出して「いや、ここに帰って来たいです」とボソッと言ったわ。
それを聞いたオカシャンは「なぜですか?お金の問題ですか?」と返すも
またオトシャンはだんまりで、いつものその姿に呆れてオカシャンは、
もういいやと眠りについたわ。
オトシャンは本当にここに帰って来たいのかしら?
オカシャンが言うようにお金の心配だけで帰ってくるとしたら随分と身勝手なような気がするわね。
だって、あたしのお皿の方がごはんが安定して入っているからあたしの事はどうでもいいけど、あたしとお皿のセットがある場所なら、
「僕も喰いっぱぐれないからそのお皿の近くに居させてよ」って毛玉が言ってるって感じでしょ?
あたしをものとして扱ってるみたいじゃない。
家族だからってモノ扱いなんてとんでもないわ!
オカシャン・・・あたしがオトシャンをちゃんと教育しなおしてあげるからね。
それでもダメならもう知らないんだから!
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