38.親方様の帝国への再潜入

 我々は、捕らえた魔導士達を連れて大聖堂に到着した。

 

「警備しているものを排除せよ」

 二名程の見張りを残して、残りの者には見張りの兵士を次々と無力化させた。


「よし。入るぞ」

 我々は転移魔法大聖堂の中に入っていく。


「うわぁ。これが、大聖堂の中ですか? 凄いですねぇ」

 ルナが、大聖堂の内部を見回して呟く。

「見学している暇はないぞ。魔導士達に転移魔法を使わせる。全員配置に付け。到着すれば、直ぐ戦闘になるかもしれんぞ」

「はい。おい、そいつらをこっちに」

 ルナが命令をし、魔導士達を配置に付かせた。


「魔導士達よ。転移魔法を発動させよ」

 私は使役の力を使い命令した。

『はい。畏まりました』


 魔導士達は、一斉に呪文のようなものを唱え始めた。

 枇々木ヒビキを呼び寄せた時は、かなり大掛かりだった。

 だが、同じ次元の近隣ならば、この程度の様式で済むのだろう。

 あれに比べると、大分簡素だ。


 枇々木ヒビキを呼び寄せた時と同じように、魔法陣の中心が光り始めた。


 ビリ、ビリ、ビリ、ビリ。


 大聖堂内の壁と床が振動している。


 聖剣が発動する時は、光り輝いて細かく強い振動が起きる。

 大聖堂は、それとは異なる振動をする。

 床の魔法陣の上に、二重三重に魔法陣が展開していく。

 壁や床が振動し、光り輝いていて中に浮いている魔法陣は、模様をいくつも変える。


 ビリ、ビリ、ビリ、ビリ。

 

 我はの上に魔法陣の光が下りてきて、それに引き込まれるように我々は魔導士達と共に吸い寄せられた。

 目の前が全て暗くなり見えなくなる。

 前から後ろに星が流れるように光が流れていく。

 我々は、消える様に引き込まれていった。

 

 我々が引き込まれると魔法陣は、入口を閉じるかのように小さくなっていく。


 しばらくすると目の前が少しづつ明るくなっていって光が自分達を包み始める。

 やがて、周りの景色をはっきりと映し出す様になってきた。

 そして、我々は、皇国の首都周辺の一角に到着した。


 転移成功である。


「す、すげぇ。本当に転移した。それに、生きてるよ、俺達」

 突入隊の誰かが驚いていた。

 

「良し。帝国の攻撃部隊を探せ。捉えてここに集めるか、状況を知らせよ。二名はここに残り、この魔導士達を見張れ。ルナとオルトは三名を連れて右から回れ! 残りは、私について来い。行け!」

「はっ!」


(この国の首都を爆破などさせぬ。ようやく、大神官プレアの娘が、日の当たる所を歩こうとしているのだ。私は、プレアとの約束を果たさねばならない。それが、この世界に取っても、良い結果をもたらすはずだからだ。自らミズカラが行けぬその先の未来を、リリィと私に託したのだ)


 ガルド等との衝突の心配も懸念しつつ、皇国首都爆破実行部隊を発見の為に首都周辺を走る。


 簡易であろうが、それなりの設備を擁しているはずだ。

 直ぐに見つかるだろうが、問題は時間だ。

 魔法陣が発動していたらどうする?

 止める手立てはあるのか?


「親方様。下の模様な物が魔法陣なのでしょうか?」

 一緒に付いて来た者が足元の模様に気が付いた。

(迂闊な。私が見落とすとは。しっかりしろ!)


「うむ。そうだな。これに沿って回ろう」

 我々四名は、そのまま走り続けた。


(どこだ? どこだ? ルナ達の方が早く見つけているか? どこだ?)

 

「親方様ぁ! あれでは?」

「うむ。間違いない、あいつらだ!」

 前方に帝国で見慣れた法衣を来た小集団がいた。

 皇国首都爆破実行部隊だ。


「あ!」

 皇国首都爆破実行部隊で警備している兵士がこちらに気が付いた。

「おい! 裏切り者のリーゲンダ候が来たぞ!」

 魔導士達はビックリして、唱えていた呪文を中断して我々を見た。

「落ち着け。こんなことに備えて、あれを用意してあるだろう。それを唱えよ!」

「はい!」


 奴らは、何か対抗手段を用意していたらしい。

 我々は、それに構わず奴らを捕らえる為に突き進んだ。


 メリメリメリッ!


 魔導士達と我々の間の土が大きく盛り上がり、やがて数体の巨大な人型になった。


「い、行け!」

 

 パラパラと砂がこぼれ落ちる音をさせながら、その巨大な土人形は振り上げた拳を我々に叩きつけて来た。


「ウゴォォ――ン!」

 巨大な土人形は、奇妙な呻き声を上げている。

 

 ド、ドンッ――ン!

 

 その拳を我々は軽く避けたので、そのまま地面に叩きつけられた。

 私について来た隊員達三名は、その巨大土人形から少し離れて移動する。


「リーゲンダ候! 我々が、何の策もなく、ここに来たと思うなよ――! 人外が居なくなっても我らにはこれがある。我が帝国は、これも使って世界を支配するのだ!」

 魔導士達は、自信ありげに吠えている。

(無駄な事を。しかし今、人外だと言ったな? やはり、知っていたのか、こいつらも)

 この連中から人外の名を聞くとは。

 

「各員、この土人形に構うな! あの魔導士達を抑えよ。こ奴らは、私が引き付ける」

「はい!」

 三名は散開し、土人形を大きく迂回して皇国首都爆破実行部隊の魔導士達を捕らえに行く。


「させるかぁ――、卑賤ヒセンな暗殺者どもめ――!」

 叫ぶ魔導士。

 だが、私は聖剣を抜き、それを人外の時の様に光り輝かせ振動させた。

 私の剣が、キィィィ――ンと甲高い音を立てて光り輝く。

 

 そして――。


 バンッ! バラ、バラ、バラ、バラ――!

 

 その剣で私は巨大な土人形の足を、振りぬいた!

 剣は短い。

 完全に切断までは行かない。

 だが、左側が爆散して砕け散った。

 大きく欠損した左足は重さに耐えられず、巨大土人形は左側に倒れる。


 ズッド――ン!


 間抜けな顔をしたまま、倒れる巨大土人形。

 巻き添えで、他の土人形も押し倒された。


 「な?」

 

 皇国首都爆破実行部隊のリーダーらしい魔導士が驚いている。


 「あ!」


 そのすぐ後に、突入させた三名が皇国首都爆破実行部隊に飛びかかっていた。


「ぐぅ、ぐぁぁ!」

 護衛の兵士を簡単にのしてしまい、三人は魔導士達を次々捕らえ無力化した。

 術師が居なくなった巨大土人形は動かなくなり、「ドドン!」と騒がしい音を立てながら全て崩れて土に戻った。


「おい、魔導士。爆破を止めよ。今すぐにだ」

 私は、直ぐに詰め寄り、魔導士達に命令する。

「ば、馬鹿め! もう、遅いわ! 既に、発動している。後は、次元の壁でエネルギーが溜まるのを待つだけだ。それが限界を超えたら、皇国の首都に叩き揉まれる。リーゲンダ候は、指をクワえて見ているがよい! あの女暗殺者もろとも始末してやる。 ざ、ざまぁみろ!」

 捕らえられた帝国魔導士が悪態をついていた。

「黙れ! 直ぐに何とかしろ!」

 隊の人間が、魔導士の胸倉ムナグラを掴み、締めあげながら恫喝ドウカツした。

「ひ、ひへへへへ!」

 不敵な笑いを浮かべて、恫喝ドウカツした隊員を見上げる魔導士。


「もうよい。その魔導士達を私の前に並べよ」

 私は、静かに言った。

「他の者も、私の前に整列させよ」

「は、はい!」

 兵士も魔導士も縛り上げ、私の前に集められた。


「な、何をするつもりだ、リーゲンダ候」

 怯えながらも毒づく魔導士。


「お前達の意思は関係ない。これからお前達は、私の言うとおりに行え! 私に従え!」

 私は使役の力を使い、兵士と魔導士達に命令した。

 

「あ! や、やめろ! や、め……ろ」

 やがて魔導士達の目が虚ろになって行く。

 そして、……。


『……。はい。マスター』

 魔導士達の意識を、私は完全に掌握した。

 

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