41.守れた平穏な生活

 これで、リリィとは三度目の別れをしたことになる。

 毎回、これが最後と覚悟して別れているというのに、何かと世話の焼ける娘だ。

 

 大爆音を聞いて、リンド皇国国境沿いに待機させた待機部隊が私達を探しに入って来ていた。

 流石にガルド達も、この状況では隙が出来た。

 お陰で我々は、待機部隊と皇国内で無事合流出来た。

 

「皆の者、私はリンド皇国を離れて潜伏先に戻る」

 私は隊員達に伝えた。

「そして、改めてだが、これで帝国暗殺部隊の正式な解散とする」

 その場にいる「元」隊員達に、悲しい顔をする者は一人もいなかった。

 精鋭の中の精鋭もあるが、姉と慕うリリィの幸せを守れたことが誇らしいのだろう。


「親方様。私達は、この皇国に残りたいと思います」

 隊の一人が代表して私に願い出てきた。

「そうか。それは構わぬが、生活はどうする? 潜伏しながら職を探すのか?」

「ですが、私達はリリィ姉様の傍にいたいと思います。何かあった時のお役に立ちたいのです」

「ふむ。もう、それほどないと思うが……」

「駄目。でしょうか?」

 少し寂しそうな顔をする。

「私の許可などいらぬ。ただ、私はお前達の生活の心配をしているのだ。帝国に居た時のような後ろ盾は無いのだぞ」

「それは、そうですが……。分かっております」

 そんな寂しそうな顔をするな。

 少し困る。

 

 少しの真が開いた後、ルナが思いつめたような表情で私に話し始めた。

「……。親方様。私も皇国に残ります。会ってみたい人が……。いるのです」

 ルナは、嬉しさと寂しさの混ざり合ったような表情をしていた。


「そうか? それは、誰なのだ?」

 私は尋ねた。

「姉さまが剣を預けたという方に会ってみたいです。どんな人なのか姉さまに尋ねてきます。その時に、姉さまにお願いしてみようかと思います。みんなの事を世話してもらうようにと」

「フフフ。リリィに面倒を見させるのか? あいつも災難だな」

 私は思わず微笑む。

「ルナ姉様。ありがとうございます」

 残留希望の隊員達は、それぞれルナに礼を言っていた。

「ルナ。リリィ姉様にあまり迷惑をかけるなよ」

 オルトがルナに言う。

 こういう時ぐらい、オルトは優しい言葉を掛けてやれば良いものを。

「他に、残る者は居るか? お前達、自分の意思で決めなさい」

「はい!」

 皆はそれぞれに、互いの別れを惜しんでいた。


 ルナ達は時々大きく手を振りながら、リリィのいる屋敷に向かって行った。

 ルナを筆頭とした残留組を残し、オルトを中心とした潜伏組は、私と一緒に皇国を離れた。

 

 程なくして、ルナから私達『潜伏組』宛てに手紙が届いた。

 その手紙には、隊員達は皇国の特殊守備隊の隊員として加えてもらい、元気であることが書かれてあった。

 一安心である。


 私は、転移魔法大聖堂を破壊してこなかった事を後悔していた。

 焦っていたとはいえ、何とか無力化しておくなど妨害工作でもしておけばよかった。

 今となっては仕方があるまい。

 それに、今回の首都爆破攻撃の件で、転移魔法大聖堂が使われたことがわかったので、サーフェイス皇太子は外交圧力を更に強めているらしい。

 多少は、それで時間は持つだろう。

 だが、外交圧力だけでは解決しないだろう。

 いずれは、武力での直接対決は避けられないはずだ。

 

 あの帝国皇帝がいるかぎり。

 

「オルト。帝国の大聖堂の動きを我らとしても監視を続ける」

「承知しました、親方様」

 オルトには、抜けた二人の姉に変わり、潜伏組のまとめ役になってもらった。


 あの異世界人の小説家『枇々木ヒビキ言辞ゲンジ』が、新しい続巻を出版した。

 

 小説「異世界小説家と女暗殺者の物語(プロポーズ編)」というタイトルだ。

 

 ようやくあの若造が覚悟を決めるくだりが書いてあった。

 これで一安心といった所であろうか。

 私達の活躍も、それとなく書いてあった。

 手紙によると、皇国首都爆破阻止をした十一人は『メンバーズ』と呼ばれ、救国の英雄として称えられているとのことであった。

 

 あの皇国首都爆破阻止以降、ガルド等との交流も手紙などを介して行うようになっていた。

 リリィはともかく、ルナや元帝国暗殺部隊の面倒も見てもらう形になってしまったのである。

 ガルドとしては、特殊守備隊の増強が出来て嬉しい事ではあるらしい。

 

 再び、ルナ達から手紙が来た。


「ん? ルナが結婚? 相手は、アミュレット・ブクリエ。皇太子特殊守備隊一番隊隊長だと?」

「え? 本当ですか? それ?」

 さすがのオルトもビックリして手紙を覗き込んでくる。

「ええ? ルナ姉が、結婚! 隊長さんてことは、ガルドさんの部下? リリィ姉様が剣を預けた人なんですよね?」

 皆気になって、わらわらと手紙を見て驚いている。

「すげぇなぁ。どんな手を使ったんだろう?」

「ハハハ」

 皆、悪い想像をしながらふざけ合っている。

「おい。みんな、いい加減な事をいうな」

 オルトは窘めながらも、苦笑していた。

「ただし、リリィには内緒にと、大きな字で書いて来ている。皆、協力してやれよ」

 私はルナに変わって皆に注意してやった。

「ハハハ。リリィ姉様が知ったら、絶対反対する。賢いなルナ姉は……」

 隊員達が嬉しそうにルナの結婚決定を祝う。

「やれやれ、また心配事が一つ増えたな」

 私は、悪い気はしないが、ルナが円満にやっていけるのだろかと心配が増えてしまった。


 リリィとルナの結婚式には、何人かを潜伏組から参加させた。

 ルナは結婚により戦闘の矢面から離れることになるので、『メンバーズ』としては十人に減ったことになる。

 

「残留組のみんなも、それぞれ守備隊の仕事に付いてしっかりやっていました」

 ルナの式に参加した者達から報告があった。

 

「そうか。それは良かった」

 

(今日は、何か皆で、祝いの宴会でもしようか?)

 こんなことを考えられるようになるとは、思いもしなかった。

 

 すべては、あの異世界からやって来た若造とリリィが出会ってから始まった。

 この世界は、大きく流れが変わったのである。

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