40.リリィとの再会

 我々は、捕らえた魔導士達を再び縛り上げ、ちょっとだけ借用した馬車に乗り、リリィの住んでいるであろう屋敷に向けて出発した。

 道すがら、引き渡す際に渡す手紙も用意する。

 兵士達用とリリィ用である。

 

 リリィが最初に入った街は、国境付近にあり、帝国との交易もあり、とても栄えている所だ。

 帝国内には、ここを拠点にして、あの『小説』が入ってきている事になる。

 『本』を書く為に必要な材料は、この街に集まっていたので枇々木ヒビキ言辞ゲンジの屋敷は、その周辺の町か村にあるだろうとあたりを付けて向かう。


 住んでいる場所は、景色が綺麗な場所らしい。

 皇国首都とリリィが最初に入った街の直線状にある村に我々は入っていった。


「ここら辺ですよね? 多分」

 ルナが、背伸びをして回りを見回す。

「ルナ、目立ちすぎるぞ! 変な恰好で見回さないで! それにもっと先ですよ!」

 後ろから走っている馬車に乗っているオルトが、ルナをタシめた。

「何よ! 今皇国は、それどころじゃないからわかんないわよ!」

 プリっと顔をしてルナは座りなおした。

 

 そのやり取りを見て、周りの仲間がクスクスと笑っていた。

「何よ! 何で、笑うの?」

 ルナがむくれる。

「だって、……。ねぇ。ルナ姉のはしゃぎ様ったら」

 乗り合わせた隊の仲間が笑う。


 皇国の者達は、今回の大爆発を受けて、目を白黒させて大騒動になっているだろう。

 だが、首都爆破を阻止をして来た我々は、みんな一応にホッとした顔をしていた。


「ルナ姉さま。リリィ姉さまに会う時は、仮面をしていきませんか?」

 隊の一人の女性が言った。

「え? 何で?」

 ルナが首をかしげている。

「だって、リリィ姉さま。私達の素顔知らないのでは?」

「あっ!」


 確かにそうである。

 私がいるので仲間とは思うであろう。

 だが、敵地とも言える皇国であるので、名乗るわけにもいかない。

 まあ、背格好で認識は出来るであろうが。


「そうだね。仮面付けよう。そして、姉さまの前で仮面外そう。親方様、良いでしょうか?」

 嬉しそうな顔でルナが尋ねてくる。

「まあ、好きにしなさい。戦闘や仕事以外では、私は命令しない。自分達で決めなさい」

 そう言って、彼女らの判断を指示した。

「ねぇ。仮面外したら、リリィ姉さまに預けて行こうよ」

 ルナが、また悪だくみを考えた。

「それ、良いですね。持って帰るのも面倒だし。もう要らないし」

 皆それを聞いて、その場の皆がキャッキャッとはしゃぐ。

「後ろのオルトの馬車にも伝えて」

 とルナが頼む。

「うん。わかったぁ」

(お前達、何しに行くつもりなのだ?)

 私は、仮面の事で好きにしろと言ったことを少し後悔していた。


 皇国首都を離れ、国境沿いに街の方角に向かって馬車を走らせていく。

 途中、皇国軍と鉢合わせしない様に、迂回をしながら進む。

 ガルド達と会うと面倒である。


「ねぇ。ここら辺よね? オルト――!」

 またルナが、背伸びをして回りを見回す。

「はい、はい。この周辺です! 大きな声を出さないで!」

 オルトが言う。


「似たような屋敷が多いですね」

 隊の一人が呟く。

「どこら辺ですかね?」

「うーん」

 馬車のスピードを落として、手を目の上にかざし、各員が辺りを探す。


「あ、あった! きっとあれじゃないでしょうか?」

 ルナが私に知らせてきた。

「ふむ。そうのようだな。馬車の車輪の後が無数にある。間違いないな」

 偽装も出来ないほど、皇国側は慌てていたようだ。

 早く行って伝えてやりたい。

 首都に到着すれば、嫌でもわかるのだが。


「誰か、先に屋敷へ行って確かめてくれぬか?」

 私は、馬車を一旦止めさせてから、隊員に頼んだ。

「あ、じゃ行ってきます」

 直ぐに立候補が上がり、彼が屋敷へ探りに向かった。


 直ぐに、帰って来た。

 

「親方様。間違いりません。数は少ないにしろ、屋敷の周りや中に兵士が見張っています」

 探りに言った隊員が報告する。

「うむ。では、馬車を屋敷の傍に着けよ」

 

 ゆっくりとしたスピードで屋敷に向かう。


 途中で兵士が気が付いて、警戒を始めた。

 それを見て、ルナが立ち上がり、手を振って敵意がないことを伝えようとした。


 兵士達は険しい表情をしながらも、私達の馬車を到着を待っていた。

 

「兵下に尋ねる。私はリーゲンダ・テンプルムと申す。帝国の潜入者を捕まえたので引き渡しに来た、子細シサイはこれに書いてある」

 私は、隊の者に代理で手紙を渡そうとした。

「……?」

 兵士は用心深く手紙を受け取った。

 

「え? こいつら、帝国の魔導士達? あなた方が捕らえたのですか?」

「そうだ」

「で、でも、どうやって、この国に?」

「それも、書いてあるだろう」

「う、そうだが」

「ここにリリィがいるであろう」

「?」

 兵士達は、剣や槍を構えなおした。

(ええい。面倒だな)

「この者達を引き渡す。受け取れ!」

 私は使役の力を使い、兵士達に命令し引き渡した。


「良し。リリィに会いに行くか?」

 私は、隊の皆に向かって言った。

「はい!」

 

 屋敷の横に移動し、塀の上に登ってリリィのいる場所を探した。

 普段のリリィなら、この時点で気が付くいて反撃か警戒なりしてくるはずである。

 だが、それがない。

「親方様。姉さま、警戒して出てこないじゃないですか? ダメダメですよ」

 ルナが手厳しい。

「まあ、そう言うな。皇国には仲間も出来ただろうし。それどころではないのだろう」

 私は、少しリリィを庇った。


 私を皮切りに、リリィのいる部屋に向かって飛び移った。

 窓が開いていた。

 そのまま中に入っていく。


 そこには、男が眠っているベッドの傍で、手を握りジッと見守っているリリィの姿があった。

 その後ろ姿は、もう少女様ではなく大人の女性の姿に見えた。

 

 気配を感じたのか、リリィが咄嗟に後ろを振り向いた。


「!」

 リリィは、とっさに剣を抜いて構えた。

 流石に、皇国まで我々が来たので驚いているのだろう。


「久しいな。リリィ」

 私は、優しくリリィに言った。

「親方様」

「お前は、そういう顔をしていたのだな。可愛らしい乙女の顔だ」

 リリィも、仮面は付けていないようだ。

 剣は、未だに手放せないようであるが。


「いや、もう少女の顔ではないな。立派な女性の顔をしている」

「親方様。あの、お聞きしたいことが」

 リリィは少し間を置いて、私に尋ねてきた。

「皇国の首都が、何か巨大な爆弾の様な物で、壊滅したと知らせがありました。これは、親方様のされたことでしょうか?」

 リリィが少し身構えた。

 首都破棄工作が、我々がしたのかと勘ぐっているのであろう。


「違う」

 私は簡潔に答えた。

「では、誰が?」

「帝国の人間であることは間違いない」

「やはり。そうですか」

「それを止める為に、我らは、皇国に潜入してきた」

「!」

「私が、帝国内からいなくなっているのではないかとは、聞いているな」

「はい」

「それは、正しい認識だ。あの女性の店に寄った後、私は組織の者全てを連れて、帝国を去った」

「やはり、あの時、親方様は、私が店にいたことはご存じで?」

「いや、それは知らんな。あの主人に、お前のことを尋ねに来ただけだ。こんな面構えなので、警戒されてしまったがな。だが、ガルドらが出てきたことで、お前がいるのだろうと察しは付いた」

「それは、その……」

「お前は、大事にされているな」

「……、はい。私には、過ぎたるものです」

「話が反れたな。帝国を去ってしまったので、帝国内の情報を得るのが少し遅れた。情報を得た時には、作戦が決行されていて、間に合うかどうかギリギリの時点だった。転移に詳しい魔導士を捉えて、皇国内の奴らの後を追って潜入した」

「ガルド達がいるのに、良く……」

「あ奴らは、転移魔法を応用して潜入を果たしていた。皇国が懸念していたことの1つだ。我らも、魔導士に、それを使わせ潜入者を追った。皇国首都について、奴らの実行犯を捉えた時点では、既にそれは発動していた。それで、私は違う方法を試みた」

「それとは? 違う方法とは?」

「お前は、何か巨大な爆弾の様な物と言ったな。それのことだ。そして、それは、核というものではない」

 先程まで曇っていたリリィの顔が、少し明るい表情になった。

「そ、それでは、枇々木ヒビキの言う、放射能という毒は?」

「そうだな。少なくとも、そこで眠っている男の言っている核兵器ではない。あれは、威力だけを魔法で模倣したものだ」

 私がそう言うと、構えていた姿勢を崩した。

 どうやら、ホッとしたようである。

「それで、違う方法とは、何でしょうか?」

「私は、連れてきた魔導士と、現地で捕まえた実行犯の中にいる魔導士にも強制的に協力せさせて、異空間へ爆破エネルギーを経由させる方法を選んだ。結果成功した」

「それは、可能なのでしょうか?」

「別の次元から、人ひとりを傷付けづに連れて来られるのだ、いったんは異世界に影響を与えねばならない。その前の段階で留めおいて置くだけだ。簡単なことだ」

 私は、話を続けた。

「もちろん、実験はさせていた。帝国は、やがては、転移元の世界まで、その勢力を広げようと企んでいたからな。そこで眠っている枇々木ヒビキの世界では、巨大なエネルギーを武器として使うには、いろいろ手順や装置がいるそうではないか? だが、我らの世界では、力のある魔導士1人でそれが出来る。これは、彼らの世界では脅威だろうて」

「はい。確かに」

「爆発を止められる時間は過ぎていたが、その爆発を逃す方法は可能と判断した。そして、魔導士達に強制させて、そのエネルギーを全てそちらに向けさせた」

「はい」

「そのまま異空間に放出させるのは、流石にまずいのでな。もちろん、そこまで魔導士の力も及ばないが。そこで、天空に向かって放出させた。それが、あの巨大な爆発の雲ということだ」

「では、首都は? 皇国の首都は?」


「無事だ」


 手に持っていた剣が、リリィの手から離れて下に落ちた。


「ただ、爆風だけは、凄まじかったがな。周りの人は、首都が壊滅したと錯覚するに十分な威力だったからな。しかし、落ち着けば、首都にも入れよう」

「お、親方様……!」

 リリィの目から涙が流れていた。

「親方様!」

 そう言った後、リリィは次の言葉に詰まっていた。


「お前が泣くのを見るのは、これで2回目だな」

「はい。親方様、ありがとうございます」

「まあ、いい。では、リリィよ、これでさらばだ」


「お、お待ちください、親方様。これだけのことをして下さったのに、フェイス達に何も言わずに行かれるのですか?」

「我らは、元より敵同士。会うわけには、ならんな」

「ですが、親方様。お待ちください……」

「待て、リリィ。お前は、この男の元に居るのだろう?」

「はい。ですが、枇々木ヒビキに聞けば、きっと良いと言ってくれるはずです。もしかしたら、ここに残れるようにフェイスに協力してくれるはずです。枇々木ヒビキに聞けば……」


「その眠っている枇々木ヒビキという男を、起こしてはならない」


「親方様!」


「可能ならば、どんな男か、直接話をしてみたかったがな。まあ、しなくても構わないだろう。枇々木ヒビキの中の親方様のイメージを壊すこともあるまいて」

「親方様?」

「これらのことも、その男が小説にしていくのだろう? 私も出ていたな」

「はい。そのままではありませんが、物語風に書いております」

「そうか。その透明に光っているペンで書くのか?」

 机の上のキラキラ光る物が気になって尋ねた。

「いえ、今は違うペンで書いております。これは、枇々木ヒビキが異世界から唯一持ってきた、大切なペンです」

枇々木ヒビキに伝えておいてくれ、なるべくカッコ良く書いてくれと」

「お、親方様」

 リリィの目から、また涙が溢れ出てくる。

「リリィ。私の為に泣いてくれるか? うれしいぞ」

 私は、リリィをイトおしく思った。


 私の話が終わると、カラン、カランと何かが落ちる音がした。

 ルナ、オルトを始めとする11人の隊員が仮面を外したのだ。

「お前達? 仮面を!」

 リリィが隊員達に尋ねた。

「皆、お前の前で外したいと申していてな。私は外さなくても構わない、好きにしろと言ったのだが」

 ルナ達が、わざわざ仮面を付けなおしたのは秘密にしておこう。

「みんな、ありがとう」

 リリィは、枇々木ヒビキの手を握りながら、お礼を言った。

 

「フェイスという者には、お前から伝えておいてくれ。事の次第は、これに書いてある。それと、首謀者は全て、庭にいた兵士へ預けてきた。後で、フェイスに説明してやると良い」

 私は、もう一通の手紙を渡した。

「はい」

「力は、正しく使えば良い結果を生む。リリィよ。お前の暗殺者として鍛え上げられた力を、嫌う必要はない。今回の我らのしたことが、お前の支えになると良いがな」

「はい、ありがとうございます」

「では、さらばだ。生きていれば、また会えるだろう」

「はい。それまで、お達者で」

 リリィに別れを言い、我々は屋敷を後にした。

 

 窓の外の日は、だいぶ落ちてきていた。


 

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