39.皇国首都消滅、回避作戦

「親方様ぁ――!」

 反対側から回っていたルナ達が到着した。


「ルナよ、転移の時に連れてきた魔導士達もここに集めろ」

「あ、はい! オルト頼める?」

「了解。ルナ」

 オルトは、連れてきた3名と一緒に私達を通り過ぎて行く。


「親方様。間に合ったのですか?」

 珍しくハァハァと息を切らせながら尋ねる。

 そう言えば、ルナには、国境付近からずっと走らせてばかりだったな。

 流石に疲れている様子だ。

「ルナよ。発動の阻止は間に合わなかった」

「え? ……。そ、そんな? 姉さまは? 姉さまは、どうなるのです? 今から姉さまに知らせに行きますか?」

 ルナに焦りの声が出ていた。

「落ち着け。他に方法を考えている」

 私はルナに落ち着くように言った。


(どうする? 発動阻止には間に合わなかった。これでは、危険を冒してまで転移魔法で駆けつけた意味がない。どうする?)


「親方様!」

「親方様!」

 皆、それぞれに心配して声を掛けて来た。

 その頃には、もうオルト達は潜入時に一緒に来た魔導士達を連れて来ていた。

 

「よし、イチかバチかになるが、やらせてみよう」

 私は、皆に顔を見て答える。

「え? 方法があるのですね?」

 ルナの顔が、パッと明るくなった。

「そうだ。こ奴らは、次元の壁と言っていた。そして、限界を超えたエネルギーを皇国の首都に向けると。ならば、その矛先を上空に逃す。これしかあるまい」

「あ、そんな方法が?」

「うむ。転移魔法や次元など言われても、私も良く分からない。だが、貯めたエネルギーの矛先が首都ならば、それを変えるだけ。単純な事だ」

「はい。では、それを使役の力で、こいつらに」

「そうだ。では、こ奴らの拘束を解け」

 そして、私は、集めた魔導士達に向かって、使役の力を行使した。


「お前達に命ずる。異次元にて貯めているエネルギーを、今すぐ皇国首都上空に向けて解放せよ!」

『はい。マスター』

 

 魔導士達は、それぞれ立ち上がって互いに向き合って丸く円に並ぶ。

 そして、呪文を唱え始めた。

 だが、皇国首都周辺に張り巡らされた魔法陣がそれ専用でない為か、中々変化がない。

 

(まだか? まだ、変えられぬのか?)

 

 私は、焦った。

 しかし。


 ビ、ビ、ビ、ビ、ビ!


 地面が小刻みに揺れ、そして、その振動が伝わって来た。


「いけそうじゃないのか?」

 隊の誰かが言った。


 だが、魔導士達の口からは、泡を吹いたり血が滲み出てくる。

 こ奴らも限界を超えて術を使っている様である。


「急げ! 魔導士! 向き先を変えよ!」

 私は、急がせた。

『は、……。はい』

 

 無理をさせている為だろう。

 ばたり、ばたりと魔導士が倒れていく。


「チッ! 倒れているんじゃないよ! ほら、立てってば! 立って術を唱えろ! 役に立たないのなら、この場で殺してやるぞ!」

 ルナが鬼のような顔をして、術者を立ち上がらせて続けさせる。


 ビビ、ビビ、ビビ、ビビ、ビビビ!


 先程とは、少し違う振動に変わって来た。


 次々と白目を向いて行く魔導士達。

 このままでは、魔導士達が持たずに死んでしまう。


(間に合わぬか? やはり、それ用の魔法陣とやらが必要だったか? だが、それを知っていたとして、用意する時間など無かった。万事休すか?)


 私は、焦った。

 私の生涯で、こんなに焦ったのは初めての事かも知れない。


 ビビ、ビビビ――!


 すると。

 

 ドグォ――ン!

 上空で、すざましい爆音と、真っ赤に焼けるような空、不気味な黒い煙が赤い炎と混ざり合いながら上空へ向かっていた。


「な、何?」

 ルナ達は、思わずしゃがみ込んでいた。


 私は、その光景を見上げ、感動していた。


「や、やったぞ。間に合ったぞ」

 その後、爆風やら大量の塵やらが降りそそいで来た。


「魔導士達、もう良い。術をやめよ!」

 私は、命じた。

「お前達、これでもう終わった。魔導士達を伏せさせよ。こ奴らは皇国に突き出す。死なせてはならん」

「はいっ!」

 その場にいた十一人は、今度は魔導士達を伏せ刺せ、盾になりそうなもので降り注いでくる物から庇った。


「落ち着いたら身を隠せる安全な所に移動するぞ」

 こ奴らをリリィのいるところに連れて行かねばならない。

「はいっ!」


 流石に大爆音だっただけに、突入隊の彼らの表情は皆引きつっていた。

 だが、それもしばらくすると落ち着き、上空には黒い雲が広がっているだけとなっていた。


「よし。もう爆風は落ち着いたな。魔導士達を拘束したら連れて行くぞ」

 

 さて、リリィはどこにいるのか?

 確か、枇々木ヒビキが書いていた小説には、屋敷とあった。

 だが、場所は書いてある内容とは違うだろう。

 では、何処だろうか?

 魔導士達は、リリィ諸共モロトモ皇国首都を爆破しようとしていたが、リリィ達は違う場所にいるだろう。


「親方様。姉様は、国境付近の街に最初は入ったんですよね。そして、異世界人は本を書いています。ならば、本を書くのに必要な物が仕入れられるところに近い方が良いはずです。場所は、国境沿いのあの都市の中か、周辺かと思います。いくつか偽装はしていそうですが、最悪しらみつぶしに探せば見つかるでしょう」

 オルトが進言して来た。


「あ、なるほど。そうよね?」

 ルナが、喜んで声を上げる。

 リリィに会えるので嬉しそうである。


「うむ。オルトの言う通りだ。恐らく、その都市と皇国首都の間にあるはずだ。最初は都市の周辺に向かおう。その前に、馬車を仕入れなければならんな」

 馬車は、拝借することにしよう。

 借りた馬車は、リリィのいる屋敷に預けて帰れば良いだろう。

「はい。では早速参りましょう。みんな行くよ!」

 ルナが嬉しそうに命令し、キビキビと動く。


 私はようやく危機をひとつ乗り越えて、ホッとした。

 

 

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