第三章 帝国樹立と『帝国の黒き重圧』の誕生。帝国最強の暗殺者・リリィ誕生

14.帝国暗殺部隊設立

 ”前の国”崩壊が崩壊した。

 それと成り代わる形で”後の国”、帝国が誕生した。


 私とリリィは、その帝国の暗殺部隊に組み入れられる形で入っていった。


 人外さえ追って来なければ、逃げ切れる自信はある。

 だが、人外は、リリィの覚醒が無いか警戒して、それが発覚すれば直ぐにでも命を奪う。

 私とリリィには、帝国に残る以外の道は無かった。

 

 リリィの力によって、聖剣で人外が切れるようになった。

 だが、人外達を切れるようになったからと言って、無尽蔵に来られては勝ち目がない。

 いや、正確には、あの時見た人外が全てなのか、それともさらに増えるのかも分かっていない。


 もっと余裕があれば、プレアに人外達の事を聞けただろうに。

 プレアにとってもギリギリの決断だったであろう。

 命に代えてでもシャランジェールの剣を取り戻したぐらいだから。

 

 未知数のリリィの力、二本の聖剣、使役の力、私自身の剣技。

 私達にある力は、これだけである。

 これで、道を繋ぐことになる。


 国内外に、”前の国”に変わり、帝国樹立の宣言がされた。


 多くの”前の国”の国民にとっては、腐敗した前王国よりもマシであろうと期待していることであろう。

 ただ、一部のプレアを信じていた人達は、一応に不安な気持ちであったろう。


 『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム』の死は隠されることになった。

 プレアが築いてきた教団への信頼を、そのまま利用したかったからだ。


 事情を知っている一部の者達は喪に服したが、多くの国民は普段通りの生活をしている。

 事情を知っている一部の者達は、皆口を固く閉ざしていた。

 プレアの死の真相の一部や、プレアを守るために戦った”最後の守護団”が全滅したと聞いているからだ。

 彼らの身内から聞いたのであろう。

 私も口止めする為に、その辺の話をして回った。

 皆怯えていたので、使役の力を使うまでもなかった。


 帝国は成立したが、近隣諸国では認めない国も幾つかあった。

 帝国は認めない近隣諸国に対し、表面上は平和的に承認を求める動きをしていた。

 しかし、露骨に敵対する国や人物も少なからずいた。

 その人達の中には、プレアに影響された人達も多かった。


 彼らに対し、帝国は暗殺部隊を送り込み、事故死や病死に見せかけて粛清していった。

 

 私もその対応に終わる日々が数年続いた。

 そして、直ぐに帝国を認めない国は居なくなっていった。

 ただ、隣の一国を覗いては。


 その国の名は、リンド皇国。


 歴史のある国で、帝国の成立の仕方や外交圧力に疑念を持っていた。

 そして、”前の国”の王族・貴族の腐敗も良く思っていなかったようである。

 プレアの亡命を非公式であるが求めたとも聞いている。


 リンド皇国は、帝国の暗殺部隊が入っていけない唯一の国だった。

 鉄の様にガードが固く、潜入が一切出来なかった。

 私にも命令が来たが、ある男の守りを突破する見込みが全く立たない。

 その男は、こちらの誘いにも乗らず、徹底的に守りに徹する。

 

 帝国も送り出す刺客が、悉く捕らわれるので方針を変えた。

 今は、注視するだけとなっていた。


「”前の国”に、このような男がいれば。あるいは、プレアがリンド皇国に生まれていれば。あるいは、プレアがリンド皇国に亡命していれば。今も無事だったろうに」

 

 そのどちらでもなかったことが、私は残念でならなかった。

 

「いつか、会ってみたいものだ。私達が来る前で、お前の母、プレアを守れるとしたらリンド皇国とその男ぐらいだろう」

 私は、スヤスヤと眠るリリィに対して呟いていた。


 ”後の国”の帝国は、建国前には多くの暗殺部隊を用意していた。

 だが今は、その暗殺部隊のほとんど失っていた。


 各国もそれなり抵抗していた。

 特に対リンド皇国において、多くの人員を失っていた。


 帝国では人員の補充を進めていた。

 だが、帝国内からは人材が集められない状況であった。

 皆、しり込みしているのだ。


 その最もな理由が、皇帝に対する黒い噂であった。

 

 それは、化け物と取引したという噂であった。

 その出所は、例の”後の皇帝”の代理人との密儀で現れたフードの奴の事を知っている暗殺部隊の誰かだろう。

 もちろん、私ではない。

 そこを私が話せば、リリィの命にかかわるからだ。


 だが、そのお陰で、帝国内の軍事力は強化されていった。

 化け物とかかわりになる可能性のある暗殺部隊よりは、マシだろうと思ったのである。

 恐怖によって、帝国軍が強化されているのであった。


 しかし、他国に影響を与える為にも、暗殺部隊の増員が必要に迫られた。

 だが、今すぐ必要というわけでもない。

 癖のある暗殺者を金で集めるより、子供でも良いのではと話が進む。

 私も、それを進言した。


 そして、孤児を集め幼い頃から暗殺者として育てよと命令が下りた。

 私には、それにリリィも加えよと命令された。

 

「リーゲンダよ。お前には、娘を一人預かっていたな」

 帝国政府の役人が私に尋ねてきた。

「はい、一人おります」

 正確にはリリィは私の娘ではないが、帝国政府には自分の娘として育てていると伝えていた。

 

「その娘は、必ず加えよと『さるお方』から言明された。外すことは許さんぞ」

「はい。畏まりました」

(『さるお方』か? あの二体の人外達だろう。これには、皇帝も絡んでいるのだろうか?)

 元よりその覚悟であったので、私はこれを受け入れた。

 

「これで、リリィを強く出来る。この子を強くして、自身で道を切り開けるぐらいに育てなければ」


 しかし、問題はあった。

 しょせん子供である。


 中には、虫を見ては泣き出す子もいるだろう。

 他の者が育てれば、用無しとして切り捨てられて、他の孤児を探すという酷い事にもなりかねない。


 だが、私にはプレアより託された使役の力があった。

 これを上手く使い、子供達の恐怖をコントロールさせ、潜在的な力を出せないか考えていた。

 もちろん、そうしなければ、リリィを強くすることも出来ないからだ。


 だが、反動もあるだろう。


 子供らしい感情は失われることになる。

 もちろん、リリィからも。


 あのプレアの様な優しさを、この子から奪うことになるのだ。


 私は、今は亡きプレアに尋ねた。


「プレアよ。本当に、これで良かったのか? お前の娘を私に預けて、本当に良かったのか?」

 

 プレアが何故、私に預けることにしたのか?

 私は、まだ理解できずにいた。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る