13.帝国誕生。そして、リリィ最大のピンチ!

 人外達は、私の剣とリリィの力を警戒し、距離を詰められないでいた。


 そうしているうちに、地震が起きた。

 今度は揺れが長い。


 急にリリィがぐずり、泣き始めた。

 不気味な人外達がやって来た時や、母プレアが亡くなる時でも泣く事は無かったリリィが。


(そうか、”前の国”が終わったんだな。それで泣いているのか? リリィ)

 私はリリィの泣き声を聞いて、それを悟った。


 二体の人外が互いにヒソヒソ話している。

 話が終わると、こう言った。


「もう、その赤ん坊、必要ない」

『そう。必要ない』

「”前の国”終わった」

『そうだ。完全に終わった』

「これより、帝国となった」

『そうだ、これからは帝国と呼べ』


(やはり、そうか? ”前の国”が滅びたか?)


「約束は果たされた」

『そうだ、我らは果たした』

「それにしても、お前強いな」

『そうだ、強いな』

「お前強いな。あの女の男より」

『ああ、やっぱり強い』


 また、同じことを言いだした。

「我が友を侮辱するのはやめろ! あいつが、お前達の事を事前に詳しく知っていたら、お前達の片方は葬っていた」

 だが、二体の人外は、私の抗議などに聞く耳など持っていなかった。


「へぇ。そうか?」

『そうか。そうか』


 どうやら私達への関心が薄れている様だ。

 ”前の国”が崩壊してからは、我らに関心が無くなってしまっている。


「この国の闇は深くなる。お前達、そこから逃れられない。普通の国の様に見えて、その闇は深く長く広い。お前、その手伝いをする。逃げられない」

『そうだ。手伝え。手伝え』

 無表情で言う人外達。


「リリィが守れるなら、我が闇に飲み込まれても一向にかまわん」

 私は答えた。


 二体の人外は、ニヤリと笑った。

 そして、こう言った。


「我ら、あの女の子供を葬り去るのを諦めたわけではない」

『そうだ、諦めてない』

「帝国の脅威となれば、あの女の子供、連れ去って殺す!」

『そうだ、殺す!』

 人外は、そう言って恫喝して来た。


「何度来ようとも、リリィは渡さない。リリィは死なせない」

 私は人外達に言い返した。


「クックックッ」

 二体の内の右側の人外だけが笑った。

 もう一体の左側の人外は、無表情で私の背中にいる赤子のリリィを凝視している。

 初めて、二体の人外は、明らかに違う動きをした。


「人間。お前、名前は何という?」

 右側の人外が尋ねてきた。

「リーゲンダ・テンプルムだ」

「そうか、リーゲンダ・テンプルムか。覚えた。その赤ん坊の名も教えろ」

「知ってどうする?」

「……。知ろうが知るまいが、その赤ん坊の運命は決まっている。だから、教えろ」

「……。リリィだ!」

「そうか」

 右側の人外と話している間も、左側の人外はリリィを黙ったままジッと見ていた。


 右側の人外がこう言った。

「今回は、これくらいにしておいてやろう」

 そして、しばらく間を置いて言う。

「また、会うだろう。その時は、お前達の命はない」


 そう言って右側の人外は闇の中にスッと消え去って行った。

 左側の人外は、リリィを凝視したまま一言も喋らず、闇の中に消え去った。

 それに引きずられるように、周りの人外魔獣達も、次々と闇の中に溶け込む様に消えていく。


 ようやく、闘いに一区切りがついた。

 邪悪な気配は、大神殿から全部消えていた。


 そして、朝日が大神殿の隙間から入ってくた。


「やっと朝か? 左の奴は、私ではなくリリィをジッと見ていたな。この子を本当に強くしなければ、私だけでは守り切れない。左にいた人外は、隙あらば襲ってくるような気がする」

 私は危機感を強く感じた。


 ようやく、私は剣を鞘に納めた。

 そして、床に敷布を敷き背中におぶったリリィを下ろした。

 怪我などないか心配になったからだ。


「大丈夫だな。擦り傷カスリキズひとつさせていない。あの人外達を相手に、我ながら良くやった」

 自分で自分を褒めていた。


 先ほどの地震の時にぐずって泣いていたリリィは、もう泣き止んでいた。

 無垢な表情で、私を見たり、周りをキョロキョロと見回している。

 当人なりに、周りを確認しているのだろうか?


 私はホッとし、腰を下ろした。


 しかし、ホッとした時に、私は重大な危機がリリィに迫っている事に気が付いた。

 これは、かなり厳しい。


「……。ん? 待てよ? プレア、シャランジェールよ。赤ん坊は、どうやって育てれば良いのだ? まったくわからんのだが?」

 私は天を仰ぎ見て呟いていた。


「そう言えば、この事については、プレアは何も言ってくれてないな」

 普通の女性なら、その辺の大事なことは真っ先に伝えてくれていたかもしれない。

 しかし、やっぱりプレアは大神官の女なのだからだろう。

 愛する我が子の育て方を、子育て経験の無い独身の男にちゃんと伝えないと困ったことになることまで、気が回らなかったようだ。


 そんな事を思っていると、リリィがケラケラと笑い出した。

 

 まさか、自分を一番守ってくれた人物が、自分の最大の脅威になるとはリリィも思ってもいなかった事だろう。


「笑い事ではないぞ、リリィ。本当に赤ん坊のお前の育て方がわからないのだぞ」

 

 赤子のリリィにとっては一番の脅威は、人外よりも子育てを知らない私であった。

 そして、私は困惑した。


「困ったな。この私が子育てか?」

 子守をしながら化け物と戦い、次は暗殺業をしながら子育てだ。

 何と滑稽な事だろう。

 

「帰ったら、帝国に乳母を探させて、育ててもらうしかないな」

 と、私は嘆いた。

 

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