12.引き継がれる。希望の光

 私は、二本の剣を持ち、人外達と対峙した。


 右手には、私の剣。

 左手には、我が親友シャランジェールの剣。


「プレア、感謝する。無理をして剣を取り戻してくれた、お前の気持ち。今、良く分かった」

 そして、剣を構えなおして、人外達を睨み据えた。


「シャランジェール、お前の剣。私が預かる。存分に使わせてもらうぞ!」


 月明りが、天井から漏れてきていた。


 床の水たまりに、その光が反射する。

 そこに自分の今の姿が映った。


 威勢よく両手に剣を構えている剣がひとりいた。

 しかし、背中には赤ん坊を背負っている。


「フフフ。ハハハハハ!」

 私は、思わず大きな声を出して自分を笑った。


(子供を背中におぶりがら戦う暗殺者か? そんな奴は私ぐらいだろう。この世界のどこにもいないだろうな)


「何を? 何を笑っている?」

『そうだ、笑うな! 笑うな!』

 憤慨した人外が攻撃してきた。


 二体が突き出して来た鋭い指先を剣で受け、その力を利用して飛び下がる。

 直ぐに後ろから襲って来る人外魔獣。

 だが、私は振り向きながら、やつらの胴体を切る!


 ズンッ! という音をしながら、吹き飛ぶ人外魔獣。


「ブモモモ――!」

 痛覚でもあるのか、人外魔獣が呻き声をあげる。


「生意気に痛がるのか? 人外!」

 

 やはり、こいつらの体は切れなかった。

 思いっきり振りぬいたはずだ。

 奴らの弱そうな場所を狙って。


 前にも増して、激しく攻撃を繰り出してくる人外と人外魔獣達。


 相変わらず刃は通らない。

 だが、その程度で私はやられない。

 

「人間、強いな」

『強いな。人間』

 

 どうやら私は、人外に褒められたらしい。

 だが、あまり嬉しくない。

 こちらはひとり、対する人外達は複数。

 そして、奴らの体力は未知数だ。

 いつ奴らの力が尽きるのか、見当もつかない。


「ふぅ――。ふぅ――。ふぅ――」

 私は息を整えて、どう切り抜けるかを考えた。


 このまま戦い続けるのはまずい、どこかで外に逃げねば。

 だが、外に出られたとして、どうする?


 こいつらは、リリィを奪うまで、追い続けてくるぞ!

 どうする?


 そう思案していると人外が妙な事を提案して来た。


「その赤ん坊を渡せ! そうすれば、お前助ける。そして、お前、我らの仲間にしてやる」

『そうだ、仲間にしてやろう』


「?」

(仲間? だと?)

 

 ここまで抵抗する人間も珍しかったのだろう。

 だが、リリィを渡せと言っている。

 そんな事、出来るはずが、ない!


「断る!」

 私は静かに答えた。


 その時、再び地震が起きた。

 大きく揺れる大神殿。

 

(崩れる前に、外に出なければ。後は、外に出てから考えればよい)


 だが、人外魔獣達の攻撃も激しい。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 息が切れ始めた。

 

(まずいな。流石に私も終わりか?)

 

 人外達を見据えて構えていると、リリィが手を伸ばし私の頬を撫でて来た。

「だぁぁ。だぁぁ」

 可愛らしい声だ。


 そう思った時……。


 キィィィィィィ――ン!

 

 甲高い音が聞こえて来た。


 私は両手の剣を見た。

 その剣は二本とも、光り輝き、わずかに振動している。


「な、なんだ? 何が起きている?」

 そして、自分の体が光に包まれていった。

 そのの出所は、リリィだった。


「リリィ? お前、何をしたのだ?」


 体が軽い。

 先ほど前の鉛のような重い体だったが嘘のようだ。

 軽い!


 その時、人外魔獣達は怯えるような声を上げ、暴れ始めた。


「待て、お前達! 怯えるな!」

『そうだ、怯えるな! ジッとしろ!』

 怯える人外魔獣達を制止しようとする二体の人外。


 だが、その魔獣達の一体が。

 巨大なドクロの奴が私に飛びかかって来た。

 人間の頭蓋骨と背骨、肋骨のようなものがそこから幾十本も生えていて、手足の様に動かして迫って来る。

 そいつの目は、深い暗闇で何も見えない。

 そして、中は空洞だった。


 こいつを避けるには大きい。

 私は二本の剣を横に構えて切る体制を取った。


「切れるわけが無かろう! 人間よぉ――!」

『切れるわけが無かろう! 人間よぉ――!』

 同時に雄たけびを上げる、二体の人外。


 ドクロの人外魔獣の横をすり抜けながら、私は剣を振りぬいた。


「アンギャ――!」

 ズズゥ――ン!


 その人外魔獣は切り裂かれ、不気味な悲鳴を上げて大神殿の壁にぶつかった。

 そして、砕け散った。

 まるで、柔らかい果物でも切る様な感覚だった。


「なんだ? 切られた! 人間に切られた?」

『切られた!』

「その剣は? 何だ?」

『何だ、その剣は?』

 

 魔獣を切った後も、二本の剣は白銀色に輝き、キィィィィィィ――ンと甲高い音を立てていた。

 

 そうか。

 そう言うことか?


 これが、リリィの力か?

 プレアの力を受け継ぎ、それを超える奇跡を起こす。

 これを奴らは恐れていたのか?


 私は、剣をハスに構え、人外達と対峙する姿勢を取った。


(そうだな。プレアの授けてくれた『使役の力』を使ってみるか? 人外には通じないと言っていたが)


 目を凝らし、人外達をジッと睨むように見つめた。


 だが、効いている様子がない。


(やはり、無理か? プレアは、人外は人の心を持たないから使えないのだと言っていたな)


 人外と人外魔獣達は、私とリリィを取り囲むように包囲した。

 だが、聖剣を恐れてか、かなりの距離を取っていた。


 そして、再び地震が起きた。


 

 

 

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