【完結】暗殺者の孤独な闘い。愛した女神官の娘を守るため、闇と戦い、闇に染まる。だけど、その娘は異世界から来た若造の嫁になる

日向 たかのり

第一章 祈り、大聖堂。そして奇跡

1.大神官プレアを抹殺せよ

 まさに今、その国は、滅びようとしていた。

 その国とは、これから作られる『帝国』の”前の国”である。


 その国への侮蔑ブベツを込めて、国の名前ではなく、帝国の”前の国”、或いは”前の国”と呼ばれることになっていた。


「シャランジェール! ここが、”前の国”の大神殿か?」

 私は、我が友シャランジェール・エクセルキトゥスに尋ねた。

「ああ、そうだ、リーゲ。ここに彼女はいる。『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム』は、ここにいる」

 我が友は、振り向きもせず私の問いに答えた。

 

 我々二人は、これから建国するであろう帝国の初代皇帝から命令を受けていた。

『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルムを亡き者にせよ!』


 既に、ここに来るまでに、彼女を守ろうとしている者達との戦闘を幾つかこなして来た。


 彼ら、彼女らは、”最後の守護団”と呼ばれていた。

 まさに、風前の灯火である”前の国”で、大神官を守るために志願して来た者達が結成した守護団である。


 そこには、かつての私達の仲間も幾人か居た。

 あろうことか、我々を裏切って、大神官プレアを守る側に着いた連中である。

 『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム』は、大神官プレアと崇拝する者達から呼ばれていたようである。

 名前が長すぎるから、そう呼ばれていたのだろう。

 

 既に”前の国”の大半は、帝国に掌握されていた。

 だが、最後の抵抗。

 首の皮一枚で、”前の国”は倒れないでいた。


 その象徴、その首の皮に当たるのが、『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム』、大神官プレアという女性神官である。

 彼女は、まだ若く二十代ということらしい。

 当然、会ったことはない。


 彼女こそが、”前の国”の最後の良心である。

 そして、彼女がいる限り、また”前の国”はを吹き返す可能性があった。


 ”前の国”の国民の多くは、腐敗した”前の国”の王族・貴族に失望し、死を望んでいたが、大神官プレアへの崇拝は残っていた。

 初代皇帝は、この希望をへし折るべく、我ら二人を向かわせたのだ。

 

「お、おのれ! 非道な帝国の暗殺者め!」

 ”最後の守護団”の騎士数人が、私達に切りかかって来た。


 しかし。


 彼ら体は、私の足元に転がって動かなくなっていた。

 

「くっ、くそっ!」

 剣をこちらに向けて構える女剣士。


「どけ! 女を切る趣味はない。見逃してやる」

 シャランジェールは、女剣士に言った。

「ば、馬鹿にするな!」

 女剣士は、突き立てた剣をそのままシャランジェールに向けて突き刺して来た。


 ドサッ!

 音を立てて倒れる女剣士。


 私が前に出て女剣士の剣を軽くかわし、背中越しに胸を一突きにして倒した。

 

(どういうことだ? 最初は、屈強な男の騎士達が確かにいた。だが、大神殿に近づくにつれ、女剣士・少年剣士・老剣士ばかりだ。 他にも騎士はいたはずだが、逃げ出したか? それとも、”前の国”を見捨てたのか?)


 つくづく情けのない連中である。

 こうして、この国の最後の良心は、最後の最後まで抵抗して、滅亡の運命に抗おうとしているのに。

 せめて、こやつらには、名誉ある死を選ばせてやろう。

 自分の命よりも大切な者を守るために戦うのは本望であろうし。

 

 そうして、私達は、”最後の守護団”を少しづつ削りながら大神殿の中にたどり着いた。


「くそー!」

 物陰から、少年の剣士が切りかかって来た。


 しかし、未熟な切込みである。

 私は、振り上げたてがら空きになった胴を剣で貫いていた。


「ぐふっ!」

 うめき声を上げる少年剣士。

 私は、剣をグイっと引き抜き、その少年剣士を倒した。


 大神官プレアに味方する者は、全て抹殺。

 これが、帝国皇帝の命である。


 だから、何度も、この場を立ち去れと警告して来た。


 だが、こ奴らは、あれだけの力量差を見ながらも、なお剣を構え我らに歯向かって来る。


 我ら二人は帝国の暗殺部隊の人間。

 女、子供、老人であろうと、必要とあらば命を奪う。

 彼ら、彼女らの抵抗は、まったく意味をなさないというのに。


 目に涙を浮かべ、恐怖で剣先が震えている者もいる。

 

(だから、ここを放棄して逃げろと言っているのに)


 まったく、理解できない連中だ。


 大神官も国を捨てて、どこかに逃げ延びれば良いのに、大神殿に立て籠タテコモっている。

 

(これだけの死者を出しても、立て籠タテコモる必要があるのか? なんと、強欲な大神官だろうか?)


 私は、この女神官を少し不快に感じた。

 しかし、その気持ちが、後の私の運命を変えることになるとは思いもしなかった。


 私と我が友シャランジェールは、大神殿の中に押し入って行く。


 剣を構え、必死の形相で迎え撃とうする”最後の守護団”達。


「もう一度言う、ここを立ち去れ! そうすれば、後は追わぬ」

 シャランジェールが言う。

 

 しかし、誰も答えず。

 誰も、逃げ出そうとするものはいなかった。


「そうか。ならば、ここで全員死ね!」

 彼らに死の宣告をするシャランジェール。

 

 そして、私はシャランジェールと共に、剣を構え、皆殺しの準備を整えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る