33.皇太子特殊守備隊と帝国の黒き重圧

其方ソナタは、外交官邸いた奴だな」

 顔も名前も知っているが、確認の為に尋ねた。

「いかにも。私がガルドだ」

「あの時は、互いに挨拶もなしだったな」

「そうだな。だが、その必要も無かったと思うが」

「まあ、確かにな」

「それにしても、貴殿の隊の者達は、皆若いのだな」

「そうか? それ程でもないと思うが」


 そうお互い会話をしながら、間合いを探る。


 若手の二人は、私に気押されない様にと必死に己を鼓舞している様子だ。


「うちのリリィをどうするつもりだ?」

 鎌を掛けてみた。

 リリィが大事にされているのは分かったが、こいつに確認して見たかったのだ。

「貴殿に話す義理はないな」

 冷たい奴である。

 そこは、元気にやっているから気にするなとか言えんのか?


「そうか。では……!」

 そう言い終わる瞬間、若手の方へ切りにかかって行った。

 

 ガキッ!

 

 若手の二人は私の剣をかろうじて受け止めたが、私の剣圧に押されて二人とも吹き飛ばされる。


 二人は、万全に構えていたはずであろう。

 だが、まだまだである。


「!」

 ガッ、ガキッ!

 直後に、ガルドの剣が背後から来た。

 

 空いている片手の剣でガルドを腹を切ろうとするが、スッとガルドは距離を取って離れる。


(うーむ、変わった剣使いだな。捉えきれん。剣技の方は私の方が上の様だが、間合いに入ってこようとしない。面倒な奴だ)


 こういう闘いもあるのだ。

 リリィ達には教えていなかったが。

 暗殺部隊だから、不悉用なので十分に教えていると言えない。

 だが、皇国に行って、この男の下に付くのなら、リリィはちゃんと学ぶだろう。

 こいつの剣を学べば、例え人外が再び現れたとしても、何とか切り抜けるぐらいは出来るはずだ。

 何せ、人外と戦った私が、この男ならプレアを守り切れたのではないかと感じているからだ。

 鋼鉄の壁は、やはり伊達では無かった。


 ダンッ!


 と、三人が同時に飛びかかって来た。

 

(ほう。三人なら二刀流の人間でも勝てると思ったのかな?)


 だが、私は、ガルドともう一人の若手を剣で受け、もう一人の若手の方は足で蹴り飛ばした。


「ぐっへっ!」

 蹴り飛ばされた若手は、腹を抱えながら転がった。


 私と二人は、ガチガチと互いに剣を押さえつけながら対峙する。

 そして、しばらく三人で睨み合いが続いた。


 ここで、間髪を入れずに蹴飛ばしたもう一人が起き上がって切りに来れば、少しは焦ったかもしれない。

 だが、その若い男は、お腹を抱えて唸っている。

 

 ガチガチ、ガチガチを睨み合いを続けながら立ち会う。

 このまま睨み合いでは、らちが明かないので、若者の方の剣を思いっきり押しのけるようにした。


「っく!」

 その瞬間、若手は怯んだ。

 当然、そのスキは見逃さない。

 私は、一旦剣を引き、若手の腹に目掛けて剣を振りぬく。


「く、くそっ!」

 懸命に避けようとするところを更に追い込む。

「う、うわっ!」

 私は、ガルドを抑えていた剣を押し返した。

 ガルドを一旦離し、若手の方に向けて切ろうとした。


「!」

 押し返されたガルドが、再び私の足元に向かって剣を伸ばしてきていた。

 私は、若手を切るのを諦めて、ガルドから距離を取るために退避した。


 はぁはぁと、息を荒くする若手の二人。


「ふーむ。なんとも情けないな。二人とも、また鍛えなおさないとならんな」

 と、ひっくり返っている若手を庇いながら、ガルドがぼやく。

 

 ガルドも、若手の育成には苦労しているようだ。


(少し興味があって手合わせしたが、これくらいで十分か? リリィも行ってしまった事だし。もう帰ろう)


 私は、剣を鞘に納めた。


「!」

 若手の二人は、必死に起き上がって来たが、私が剣を鞘に納めてしまったので戸惑っていた。

 だが、ガルドは、私と同じ様に自分の剣を鞘に納めていた。

 

「では、さらばだ」

 そう言って、その場を離れた。

 シャトレーヌの店が爆音と共に消失していたので、下は騒然としていた。

 私は屋根から飛び降り、人ごみに紛れながら宿舎に向かった。


(まあ、追って来ることは無いだろう)

 

 私が立ち去ると、ガルド達も屋根の上から消えた。


 私はやっと決断した。


(リリィも巣立って行った。もう、二度と帝国内に帰って来ることはないだろう。もはや、私が帝国にいる理由がない。帝国を離れよう)


 来る時は朝日だった太陽が、今は十分に上に登っていた。

 一度は、地平線の下に沈んでしまった太陽は、今は本来の力を取り戻していた。

 太陽は、朝日の弱々しい光ではなく、力強い日の光に変わっていたのだ。

 それはもはや眩しすぎて、直視できないぐらいに強く光り輝いていた。

 私は、館に帰るとルナとオルトを呼んだ。


「ルナ、オルト、全員を集めなさい。場所はリリィが潜入した国境沿いの岸の所だ。集合する時は、周りに気が付かれないようにせよ。そこで重大な事を皆に話す」

 

 私は、帝国暗殺部隊全員を集めるよう指示を出し、国境沿いの岸に向かった。

 

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