6.黒い噂、黒い闇

 束の間ツカノマの休みとなった。

 暇なので、素振りをして時間を過ごす。

 剣の鍛錬をしながら、これからの事を整理していた。

 

 怪我は、首のあたりをちょっと切られたぐらいで大したことはないのだが、シャランジェールがしてくれた偽装なので、そう簡単に復帰する訳にもいかなかったからだ。

 大量に血も出血したことになっている。


「あの血は、誰のだろう? もし、遺体から取って来たものだったら、プレアや”最後の守護団”達は卒倒してただろうな?」

 その様子を思い浮かべたら少し苦笑してしまった。


 ”後の国”の暗殺部隊に呼集コシュウがかかった。

 恐らくは、プレア達に関することだろう。


 まだ、ガランとして体制の整っていない”前の国”の王宮へ向かう。


 暗殺部隊の連中が既に集まっていた。

 この連中は、金で雇われたもの達だ。

 私とシャランジェールの様に、暗殺者として養成された者達ではない。

 

(よくこんな者達だけで、国を乗っ取ろうと考えるな)

 ある意味クーデターみたいなものだろう。


 ただ、普通のクーデターとは、不気味に違うのだが。


 ”後の皇帝”の代理が、部屋に入って来た。

 その連中から、暗殺部隊に再度指令が下りる。

 

 対象は、『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム』。

 そして、”最後の守護団”。

 最後に、我が友シャランジェール。


 その代理が話しをしている時に、フードを被った怪しい奴が入って来た。


「!」

 

(何だ? 何だ、あいつ?)

 

 そのフードの奴から伝わってくる、尋常ならざる気配!

 顔も手も足も、全てフードで隠れて中は見えない。

 だが、フードの中の黒い部分が、ただのカゲとは思えなかった。

 漆黒の闇。

 奈落の底の闇。

 両肩がやけに細い。

 ガリガリに痩せているのか?

 

 周りを見回すと、その場にいた暗殺部隊の連中全員の表情が凍っていた。

 中には、顔を上げられずに真っ青となっている奴もいた。

 幾度も死線を潜り抜けた連中である。

 その連中が、例外なく表情を硬くしている。


「あ、あいつ。……。フードの奴、やばい奴だぞ?」

 隣で呟く奴がいた。


 その不審な人物からは、人ではない物を感じる。


(死人か?)


 恐らくその場にいた連中全てが、フードの奴から同じ事を感じ取ったはずだ。

 

 暗殺を生業ナリワイする以上、死んだかどうかをいつも確認する。

 だから、そいつが死んだのかどうかは直ぐにわかる。

 

 その俺達の感が伝えている。


(間違いない。あいつ、人間ではないな。死人だ!)


 それもただの死人ではない。

 ゆっくりとだがしっかり歩き、周り全てに殺気を放っている。

 生きているもの全てを殺そうとしている。

 今は、猛獣使いから『待て!』と命令されているから殺そうとしないだけで、少しでも隙を作ろうものなら……。

 

 ”後の皇帝”の代理から、このフードを被った者も捜査に加わると言った。

 皆それを聞いて、さらに表情を変える。


 俺達は監視されている。

 このフードの連中に。

 そして、逆らえばどうなるかを、言葉で無くて気配で我らに伝えてきたのだった。


(そうか、プレア。お前が戦っていた奴は、こいつらだったか? たった一人で、お前はこいつらと戦っていたのか? 武器も味方も無しに)


 神官達も含めて、皆が”後の皇帝”を認めようとしている中、プレアだけが断固反対していたという話を思い出した。

 プレアの力は、大神殿で初めて出会った時の体験で、どれほどの凄いものか知った。

 

 それに対して、このフードの奴からくる気配は真反対のもの。


 プレアは、直接かどうかはわからないが、フードの奴と同じ気配を敏感に察知していたのだろう。

 そして、その時、この国の終わりを悟ったのだろう。

 

 このような連中がプレアを慕うとは思えない。

 そもそも人間でないだろうから。

 ”後の皇帝”は、こいつらと何の条件で取引したのだ?

 

 ”後の皇帝”の代理の話が終わった。

 一同は、解散となった。


 これはもうわかりきっている事だが、シャランジェールに本気で隠れられたら私でも見つけられない。

 ましてや、プレアの結界の力。

 あれと組み合わせて逃げ延びようとしたら、簡単に後は追えないだろう。

 だが。

 それでも、2年から3年が限界だ。


 プレアが、この国を離れることが出来ない。

 私としては、この国の事など捨て置いて、地の果てへ逃げて欲しいものだのだが。

 シャランジェールも同じ気持ちだろう。


 そう言えば、結婚してくれとシャランジェールは言っていたな。

 プレアは、『はい』と返事をしていた。

 

 そうか、結婚か?

 ならば、子も出来よう。

 そうなれば、余計に逃亡生活は困難になる。

 

 プレアよ。

 お前は、お前は、何を考えているのだ?


 暗殺部隊の他の者達は、あのフードの奴を恐れて必死の形相でプレア達を探そうとし始めた。

 だが中には、コッソリと逃げ出す奴もいるだろう。

 

 私は、彼らとは違う意味で必死に探すことになった。

 

 シャランジェールひとりだけでは、確実に死ぬ。

 早く出会って合流すべきだろう。

 そう、私は判断した。

 

 プレア。

 シャランジェール。

 お前達は、今何処にいる。

 人ではない怪しい連中も現れた。

 

 もはや、猶予はないぞ!

 

 私は、心当たりの所を一つ一つ探していくことにした。

 

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