24.召喚。異世界からやって来た間抜けな若造

 繰り返しの実験が行われた。

 そのの結果、転移魔法大聖堂による転移が、安定してできるようになっていった。


 いよいよ、異世界から新しい知識人材を得る段階に入った事を知らされる。


「いよいよか?」

 これが軌道に乗れば、帝国の国力強化。

 そして、さらに異次元への領土拡大も可能になってくる。

 その場合は、この世界との技術格差、軍事力の差が新に出てくるはずなのだが、帝国皇帝は人外達を当てにしていたようである。


 その人外達は、私とリリィとで一掃してしまったはずだ。

 少なくとも、あの場に現れた人外達は。


 他に召喚する当てでもあるのだろうか?

 確かに、あの異形の者達が、あの程度の数であるはずもない。

 闇の中から湧き出て来たのもあるし、奴らは先発隊でもあるのかもしれない。


 帝国皇帝から、各部門の長へ招集があった。

 大聖堂本格稼働の前に集められた。

 大聖堂本格稼働の祝賀式典だ。

 まだ、秘密兵器のような扱いだから、宮殿の広場でというわけにはいかないらしい。


 だが、肝心の帝国皇帝の姿は無い。

 代わりに、代理の者から宣言があった。


「これより、帝国皇帝陛下の御言葉を皆に伝える」

 帝国皇帝代理は、壇上で帝国皇帝の言葉が記された巻物を広げた。

 

『これより、転移魔法大聖堂の本格稼働が始まる。その第一弾として、兼ねてより探りの入れていた異世界から一人召喚する』

 事前に話はあったので、その場にいる我らは黙って話の続きを待っていた。

『この大聖堂を建てた土地は、”前の国”の大神殿跡に作られた由緒ある場所だ。この神聖なる力が我が帝国の未来を拓くであろう。帝国に多くの利益をもたらす偉大な力となるであろう。これより、我が帝国は世界の中心となっていく。我はそれを宣言する』


 その会場にいた大貴族、各組織の幹部達は一斉に拍手をした。


「リーゲンダ候。いよいよですぞ」

 私の隣で、この大聖堂を稼働させる大司教様が話しかけてきた。

「ちなみに、異世界から何を得るつもりなのですかな?」

 私は尋ねた。

「まずは、人の召喚を軌道に乗せてからですな。いくつか召喚した物の中には、色々と魅力的な物がありました。文明レベルは、こちらとは違う進化をしているようです。その状況を知る事の出来る人物を呼び寄せるまで繰り返す予定ですよ」

「……。そうですか」

 

 まだ、何処の誰を召喚する等といった所までは、転移魔法の技術は無いという事か?

 では、連れて来られる奴が、役に立たない奴だったら、どうなるのだ。

 そいつは災難だろうな。


 言ってみれば人さらいである。

 同じ世界でないから、彼らにとっては責められることはない。

 そして、同時に多少の知識はあるだろうから、そこから有益な情報を聞き出して、帝国の国力強化に役立てようという思惑があるのだろう。

 私は詰所に戻り、隊員達に警戒を強化するように伝えた。

 だが、リンド皇国からの諜報員達には、それとなく分かるように情報を漏らすことにした。


 数日後、転移魔法に関わる人間が大聖堂に集められた。

 いよいよ、召喚が始まる。


 大聖堂の床には、複雑な魔法陣が描かれていた。

 壁にも絵画と絵画の間に、小さな魔法陣が描かれていた。

 

 内室の周りの廊下に補助者が幾人も配置される。

 内室にも、魔法陣の周りに導師が幾人も配置された。


「いよいよ、召喚の儀を執り行う。皆、用意は良いな?」

 大司教様が、召喚の儀の開始を宣言した。


 周りの導師達が呪文のようなものを唱え始めた。

 小声なので、聞き取れない。


 魔法陣の中心が光り始めた。

 プレアが転移して来たものとは、大分違う。

 プレアの転移して来た時は、もっと美しかった。

 プレアは、その力を許されて使っていた。

 それは神々しかった。


 だが、帝国の転移魔法は違う。

 力尽くで異次元へ繋げ、人や物を呼び寄せる。

 あるいは、送り出す。

 

 光には、その強引さが感じられた。

 その世界に取っての『何か』に魔法陣が繋げられ、その正面に存在している所に異次元へ繋がる結界を展開。

 そして、その異世界から隔離して、この世界に繋げ直す。

 そして、強引に繋ぎに行っている部分の力を弱めると、反動で弾き返される。

 それを利用して、こちらに異世界からの物質や生物を引っ張って来るらしい。


 過去何度も繰り返したのは、そのやり方のコツと、対象の異世界のイメージを掴むためでもあった。

 

 ビリ、ビリ、ビリ、ビリ。


 大聖堂内の壁と床が振動している。


 聖剣が発動する時は、光り輝いて細かく強い振動が起きる。

 それと、同じ原理か?


 床の魔法陣の上に、二重三重に魔法陣が展開していく。

 

(帝国の魔導士の力が、これほどとはな。認識を改めないといけない)


 それは、この大聖堂と導師数十人がいれば、リリィに勝てないまでも匹敵する力を発揮するという事になる。

 ましてや、まだリリィはコントロールできていない。

 自在に扱えるようになっていない。

 第一リリィには、力の事は殆ど伝えていない。

 出来れば教えたくはない。

 私には、帝国の大聖堂の力と、母プレアからリリィが受け継いだ力との差が、あまり無いように感じられた。

 もし、帝国と戦うとしたら、リリィの未熟な状態では圧勝という事にはならない。

 早く手を打たなくては、リリィが大聖堂完成の道具とされてしまいかねない。

 

 私は、目の前の転移魔法が成功するかどうかよりも、これからの事の再考しなければならなくなった。


 ビリ、ビリ、ビリ、ビリ。


 相変わらず、壁や床が振動し、光り輝いていて中に浮いている魔法陣は、模様をいくつも変えたりしている。


「む? 来たか?」

 大司教様が言った。


 人影が見える。

 その男は間抜けにも、仰向けで天に手足を広げて転移して来た。


(何だ、アイツは? 間抜けな恰好をしているな。こいつは若い男か? 未練たらしく、手には何か握っている。直前まで何をしていたのだ? これは、召喚する人間を間違えたな)

 

「おお。素晴らしい。成功だ!」

 他の司祭達が目を輝かす。

「うむ。成功したな」

 大司教様が答える。


(成功? 召喚は成功したが、連れ来た人間は駄目そうな奴だ。どうせ、直ぐにでも追放される。それか、幽閉されて終わりだろう)

 私は召喚された人間には関心が無くなっていた。

 私は間抜けな若造ではなく、魔法陣の絵柄を確認した。


「言葉は、こやつに通じるのか?」

 大司教様が導師達に尋ねる。

 導師のひとりが頷いて答える。

 

「成功したようですな。おめでとうございます。大司教様」

 私は大司教様に近づき、耳元で伝えた。

「うむ。リーゲンダ候、ありがとう」

「では、以後の大聖堂の警備は軍の者達に引き継ぎます。私どもは、これで失礼します」

「うむ。助かった。お役目御苦労。後は我らで行う」

「召喚した者が大聖堂を出た後は、別に警備が必要でしょう。軍では目立ちすぎます。情報は、私に直接送っていただければ対処いたします」

「うむ。助かる。リーゲンダ候」

 

 私は、大聖堂を退出した。

 

 

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