25.放逐(ほうちく)される異世界人の若造

 警備の任務が終わり、部隊のみんなを連れて宿舎への帰路に就いた。

 宿舎までの途中に花屋があった。

 大聖堂に比較的近い場所だ。

 こういった花屋は、普通は街の近くの方が良いのではと思う。

 だから、決して繁盛しているとは言えなかった。

 だが、潰れる様子もない。

 不思議な花屋。

 という事になる。

 普通ならば……。


 私は、そこに立ち寄るため、皆を待たせてひとり入る。


「店主、花を買いたい」

「はい。何の花をお探しでしょう?」

「ふーむ。特に、これといった特別なことは無いな」

「さようですか? 気分転換に良い花が宜しいでしょうか?」

 今日の大神殿の転移魔法を見て、プレアの事を思い出した。

「そうだな。亡くなった者への手向けタムケになるのが良いな」

「そうですか? 女の方でしょうか? これなどは如何でしょう?」

「ふむ。そうだな。あと、男が一人。生きていれば私ぐらいだった。もう一人は、若者だったな」

「へぇ。では、お三人様ですね」

「そうだな」

 あの若者も、あの様子では始末されることになるだろう。

 そいつへの手向けタムケにと、その若者の分も買った。


 花を包みながら店主は、私と帝国暗殺部隊の隊員達の様子をチラチラと見ている。


(この下手くそな店主の男め。バレバレではないか? まあ、これで大聖堂で何かが行われた事を察しただろう。さて、どう動くのやら)


「お買い上げ、ありがとうございました」

「うむ」

 私は、花屋を後にした。


 馬に乗る時、ルナを呼び寄せた。

 

「ルナ。あの店の動きを隊の中でも口の堅い者に監視させよ。だが、一切手は出してはならない。私以外の誰にも報告を上げるな。良いな」

「はい。親方様」

 ルナはオルトを呼び、耳打ちして指示を出していた。


「皆、寄り道しすまんな。では、帰ろうか?」

 宿舎に向けて馬を走らせた。

 

 宿舎について部屋に戻り、柄にもなくプレアとシャランジェールの為に花を花瓶に生けた。

 ついでに、あの若者の分も。

 そして、大聖堂稼働後について、今後の隊の展開をどうするか整理しようとして机に向かった。


 執務している時に、あの若者の知らせが入って来た。


「何? もう追放だと?」

 知らせてきたのはルナだった。

「はい、親方様。その話を当人にしたとのことです。恐らく、私達が花屋に寄っている頃かと思います」

 私は呆れてしまった。


(召喚したばかりなのに。やはり、私の見立ては間違っていなかったな。哀れな若造だ)


「それで、その若造は、今後どうすると言っている? 幽閉ではないのだな?」

「はい、親方様。皇国の人間も手を回していたようです。それもあり、幽閉とはならなかったようです。仮に、大司教様の眼に叶う物であっても同じ様にしたと思います」

「そうか」

「その男には大金を渡し、放逐ホウチクしたようです」

 私は、クスッと笑ってしまった。

 ルナが『放逐ホウチク』と言ったからだ。

(ルナよ。お前も、あの若造が気にらないか?)

「親方様?」

「いや、なんでもない。前にも命令したとおり、監視のみせよ。例え、皇国の者が動いても隊の人間は関わるな。それと、帝国の人間も近づかせるな」

「帝国の人間もですか?」

「そうだ。これへの質問は許さん」

「はい、親方様。ご命令のままに」

「リリィはどこにいる? まだ、戻って来ていないか?」

「はい。まだ戻っておりません」

「うむ、わかった。下がってよい」

「はい、親方様。失礼します」


 ほどなく、帝国からも正式な書類が来た。

 我が暗殺部隊でも、これに関わるな、監視もするなと命令が下った。


「親方様。どういたしましょう?」

 オルトが質問する。

 こいつは、少し頭が固い。

 だが、隊を引き継がせるとすれば、リリィが無理であればオルトと考えていた。

「いや、奴への対応に、私の命令の変更はない」

「畏まりました」

 

 私は、この若者を上手く使って皇国の動きを探りたかった。

 

 だが、その私の思惑を超えて、予想外の命令が我々に下った。

 

 

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