21.仇討ち(かたきうち)。リリィ最強の暗殺者となる

 静かになった。


 人外達が作り出していた周りの黒い霧は、すでに晴れていた。


 少しづつ、東の方が明るくなっていた。


「もう直ぐ夜明けか。これで、終わったな」


 周りが明るくなるほどに、私達の周りは凄惨な状況が広がっていた。

 決して、勝ったとは思えなかった。


「もうよい、リリィよ。結界を解除せよ!」

「はい、親方様」


 ゆっくりと、リリィは両手を広げ下におろした。


 両手や胸のあたりの光の点滅も、それと同時に弱くなり小さくなっていった。

 そして、完全に消えた。

 そして、気を失うようにグラリと倒れるリリィ。

 私は、さっと近寄り、リリィを抱きしめた。


「良くやったな。リリィ」


 無理に力を使い、ぐったりとなったリリィを私は抱き上げた。


「こうして抱き上げるなど、赤ん坊の時以来だな。あの時は、良く笑っていたのだが」


 終わったのだ。

 これで、本当に終わったのだ。


 プレアと大神殿で出会っていらい、ずっと人外達と戦っていた。

 惚れてしまった弱みだろうな。

 プレアの代わりに、私とシャランジェールは人外達と戦ってきた。

 プレアひとり戦わせるなど出来るはずもない。


 プレアは、惚れた女なのだ。

 相手は大神官であろうが、私にとってはひとりの女性だ。

 守ってやりたかった。

 生かしてやりたかった。


 だが、あの時一緒に、シャランジェールと一緒に行動しても、生き延びられる保証はないだろう。

 これは、何度も反芻したことだ。


「……、仇を。……、討てたぞ」

 

 私はリリィを強く抱きしめながら、目を瞑り天を仰ぎ見て呟いていた。


 雪が降って来た。

 そして、パラパラと振っていた雪が、少しずつ強くなっていく。


 人外達によって傷つけられた育てた子達の体を優しく包んでくれるかのようだった。


「ちゃんと弔ってやらないとな、この子らを。任務の時は、遠くの見知らぬ土地で命を落とすことだってあるのだから。まだ、幸運な方だ」

 私は、リリィを介抱する為に、元来た道を戻っていく。


「お前達、しばらく待ってくれ。みんなを直ぐに呼んでくる。このままでは、リリィが風邪を引いてしまうでな」

 そう言って、馬を宮殿の方に向け走らせた。


 途中で雪は、止んでいた。


 宮殿に帰ると、心配していたルナとオルトらが駈け寄って来た。

「お、親方様!」

「ああ、ルナ。心配かけたな。私とリリィは無事だ。他の者は残念だが……」

「ルナ! リリィ姉様を頼む。親方様、私は谷に向かいます」

「オルト、頼む。皆、置いて来てしまったのでな。手間をかける」

「親方様。万が一に備えて、各地に散っていた仲間で、戻れるものは招集しておきました。ここに残る一部の者は、警備に当たらせます」

「うむ。オルト、良い判断だ。それで良い」


 私はルナにリリィを預け、オルトに仲間達の亡骸を弔うように伝えた。

 直ぐに二人は動いてくれた。

 この二人も頼もしくなったものだ。


「親方様、どうかお体の方を御安め下さい。こちらで怪我の手当てを! 後は、ルナ姉様とオルト兄様にお任せください」

 他の子が私を気遣ってくれた。

「そうだな。任せる」

 

 もう少し、動きようがあったのではないか?

 この子らまで、人外達との闘いに巻き込まれない様にする方法が……。


「プレアよ。シャランジェールよ。お前達なら、どうしていた?」

 だが、私の想像に出てきた二人は、静かに、少し悲しそうに微笑んでいるだけだった。

 わかっている。

 わかっている。


 相手は人間ではないのだ。


 下手をすれば、この国が、この世界が、あの人外達の餌食になっていく可能性があったのだ。

 私達でなくても、いずれ誰かが同じ様な目に遭っていたことだろう。

 たまたま、我々が、その矢面に立っていただけだ。

 

 そうだ。

 きっと、そうに違いない。


 これで、人外達は一網打尽のはずだ。

 だが、これで本当に終わったとは思えない。


 それは、この国の皇帝。

 ”前の国”を滅ぼし、プレアを殺し、リリィを闇に落とし、帝国を樹立する為に人外と取引をした奴。


 皇帝が、リリィの力について、何も聞いていないとは思えない。

 いずれ、リリィに牙をむいてくることが考えられた。


 だが、人外を滅ぼした今、リリィと私に勝てる奴など、帝国内はおろか諸外国にもいないだろう。

 そして、自分の意志で十分にコントロール出来ていないが、リリィの力は私をも確実に超えた。

 だから、当分は手を出せないはずだ。

 当分の間は。

 

 皇帝は、きっと次なる手を考えているはずだ。

 プレアの力を引き継いだリリィを相手に、人外達がどうなるかの予想を幾つか立てて。


「プレア、シャランジェール。まだた。まだ終わっていない。まだ、あの子への脅威は終わっていな。だから、まだまだ私は、あの子を守り続ける。見ていてくれ。プレア、シャランジェール!」


 

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