第四章 変わる運命
22.転移魔法大聖堂
リリィと私によって、人外の脅威からこの世界は解放された。
だが、その人外の力によって国内外を制圧していこうとしていた帝国の外交方針は変えなければならなくなった。
人外の存在を認識している者は帝国国内にも少ないだろう。
少なくとも、中心人物である帝国皇帝は、これからの統治の方針を変更しなくてはならないだろう。
私の部隊の隊員が多く死亡した件で、帝国政府から報告を求められた。
もちろん、かん口令がしかれ、現場付近への立ち入りは厳しく制限された。
それほど機密なので、我らの暗殺部隊の子等以外の謎の生物の死骸が理解できないでいた。
だが、私も喋るわけにはいかない。
人外の脅威は失くしたとはいえ、まだ帝国皇帝がいる。
この国の全軍をもって敵対されても困るのである。
「知りませんな。むしろ、何者に我らの隊員が害されたのか、こちらが知りたいくらいです」
と答えておいた。
答えに窮する帝国政府の要人達。
哀れなものである。
今生きている人間で、人外の事を一番詳しく知っているのは、恐らく皇帝。
次に私。
そして、それと戦ったリリィであろう。
他の暗殺部隊の連中は、なるべく人外とかかわらない様にしていたようだ。
感の鋭い連中である。
人外の脅威がなくなったため、帝国の暗殺部隊から離脱する大人の暗殺者達が多数出てきた。
皆、他の組織で生きていけるので、恐怖で逃げられなかった者達は帝国を見限って逃げてしまった。
金と恐怖で縛り付けられていた連中である。
当たり前であろう。
残ったのは、二つの部隊だけとなった。
私の部隊と、アルキナという奴が率いている謎の予備部隊だ。
その予備部隊は、ほとんど機能していない為、実質帝国には私の部隊だけが実働部隊となってしまった。
また、この頃から隣国のリンド皇国からの風当たりが強くなってきた。
事あるごとに、帝国のやり方に干渉してくる奴がいるらしい。
帝国政府としても、このままでは強硬路線で影響力を拡大してきた反動で潰されかねない。
人外達と暗殺部隊以外の方法で、これらを保つ方法を模索していた。
そして、私とリリィに取っては好ましくない方法を、帝国皇帝は取ってくれた。
この逆転の為に大神殿を転移魔法大聖堂として大改造し、他世界より超兵器を作れるもの(人材、物)を取り寄せるというのだ。
「転移魔法?」
私の知っているのは、プレアが見せてくれた転移の力だ。
プレアは、『違う空間にいたようなもの』と答えていた。
帝国皇帝が言う転移魔法は、これを応用するものなのだろうか?
プレアが命がけで守っていた聖なる場所。
あの大神殿が、帝国皇帝の野望の道具にされる。
それは忍びない事だが、あのまま朽ち果てさせるよりは良いのかもしれない。
プレアが”前の国”の大神官として帝国皇帝に敵対していただけに、誰も補修など出来ない状態だったからだ。
「親方様。大神殿は、親方様とリリィ姉さまに取っては、大事な場所なんですよね?」
ルナが尋ねてきた。
「どうした? 何か気になるのか?」
「いえ。……」
そう言って、ルナは黙ってしまった。
「ルナよ。その件は、もう良いのだ。今は、お前達が無駄死にしない方が大事だ。この事は深く詮索するな」
「はい」
「……。ん? どうした?」
「ですが、親方様。やはり、私は我慢できません。黙っていられません」
「ルナ!」
「リリィ姉さまにとっては、母上様の形見のような場所ではありませんか?」
「ルナ」
「姉さまの母上様が、姉さまを生んでくださらなかったら、私達はこうしていられませんでした」
「まて、ルナ。慌てるな」
私は、静かに
「母上様の事については、姉さまには話していません。話しても、親方様と同じように『ああ、そうか』と言われる方なので」
「そうだな」
「けど、……」
「けど、何だ?」
「私は親の形見など持っていません。親方様は、何故姉さまの母上様の事を話されないのですか?」
「それは、お前達が知る必要は無い」
それを知れば、人外達と戦う羽目になっていたからだ。
あの人外達では、私の教えた暗殺剣などでは通用しない。
剣が通らないのだから。
「オルトから聞いています。人では無い物の事を。知っています」
「そうか」
「母上様の思いのこもった大神殿が潰されるのが、私は悲しいです。リリィ姉さまが、それを知らないなんて」
「……」
私は、全てではないが、必要な事を話し始めた。
「ルナよ。リリィと私が対峙してきた敵は、人の
「はい。でも、過去形ですよね? あの時で、終わったのですよね?」
(そうか、もう全てが片付いたから、話すべきと言っているのか? だが、大神殿を取り壊して大聖堂にする事を止める事は出来ないのだがな)
「ルナよ。終わってはいない」
「え?」
「今後も、話すつもりはない」
「そ、そんな」
「お前の優しい気持ちは良く分かった。だが、リリィに課せられた重荷は、そう簡単なものではないのだ。私では、リリィを強くしてやることしかできない。リリィの母とも、そう約束したのだ」
「や、約束?」
「そうだ」
すると、ルナは泣き出しながら、こう言った。
「何故ですか?」
私は、ルナの頭を撫でてやりながら答えた。
「リリィの母のプレアは、『あなたは気にしなくて大丈夫です。この子は、自分で切り開きます』と言ったのだ。だから、私に出来るのは、これくらいなのだ」
「……」
「母のプレアは、こんなことを言っていたな。『あなた達に出会えなければ、この世界は消えていました。あなたとあの人が私を純粋に愛してくれたから、この世界が続くことが定まりました。その覚悟をすることが、私は出来ました』と。意味は、分かるか?」
「い、いいえ」
ルナは、シクシクと泣きながら答える。
「そうか。私も分からぬ。この世とリリィの母の命とどう関わるのか? まったく分からぬ。ただ、言えることは……」
「?」
「ただ、言えることは……。お前のリリィ姉さまは、強い子だ」
「はい。それは知っています」
「本当か?」
「どういう事でしょうか?」
「谷の出来事と同じことが、お前達に出来るか?」
「あ、そういう事ですか? いいえ。私達には無理です」
「私も同じだ。私は、リリィを守るために力を託されたに過ぎない。もちろん、託された力以外は、私の努力と才能によるのだがな。だが、託された力が無ければ、戦う事すら出来ない。だが、リリィは違う。違っていた。それは、お前にもわかるな」
「はい。そいうことですね」
「うむ。わかってくれて嬉しいぞ。リリィの命が、この世界の運命にも関わってくるという事らしい。難しい話だな。フフフ」
「ルナ。リリィの事は、どう思っているか?」
「はい。大好きです。ずっと遠くを見ている様な目が、特に好きです」
「そうか、目が好きか?」
「目だけではありませんよ、親方様」
「フフフ。わかっっている」
その後、ルナとしばらく話した。
この子はずっとリリィの後を追いかけていた。
そして、リリィのような特殊な力がないにも関わらず、隊の中では二番目に強い子となってくれた。
オルトも似たような感じだ。
プレアも、大神殿については何も言わなかった。
残してくれとは一言も。
私が、こだわらない様に決断したのは、それもあった。
あの大神殿は、
本当の意味での大神殿は、プレア自身であった。
プレアは言ったのだ。
『あなたが悲しむようなものは、この世に残していきません』と。
だから、大神殿はちがうのだ。
その
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