第五章 帝国への再潜入
37.悪い知らせ
「何? それは本当か?」
私は、その知らせを聞いた時、思わず椅子から立ち上がっていた。
「はい。間違いないかと」
とオルトが報告して来た。
「潜入部隊から転移魔法大聖堂に出入りする魔導士達の動きが活発になっていると報告がありました。帝国は大聖堂を使うようです」
潜入部隊と連絡を取っている者が続けて報告する。
「何の為かは、わかっているか? 誰かを召喚するのか?」
「いいえ。そこまでは」
(この時期に、大聖堂を? 誰かを召喚するとは考えにくい。大掛かりに準備して、望む相手を召喚できるまで研究されつくしてはいないはず。だが、帝国は外交でジリ貧になっていると聞く。もしや、形勢を逆転する為に使うつもりでは?)
「軍は動いてはいないだな?」
「はい。軍隊を大量に送れるほど大聖堂は、使い勝手は良くないんですよね?」
オルトが尋ねてくる。
「そうだな。
「では、魔導士達が移動する為では?」
「自分達を……、か?」
(魔導士達が自ら移動する? どこへ? まだ、十分な安全は保障されていないはずでは?)
「親方様。リリィ姉様の御結婚と関連があるのでは? だとすれば、皇国と思われます」
オルトが言う。
「な、何?」
「異世界人と姉様の件は、あの皇国の皇太子も絡んでいるのですよね。姉様が式をどこで上げるのかは不明ですが、宮殿がある首都で姉様もろともと考えているのではないでしょうか?」
「そう言う事か? リリィが宮殿近くの会場で式を挙げると予想して……。ふむ、その可能性もあるな」
「全員で帝国へ向かいますか?」
私は、オルトの提案に対して、しばらく考えた。
「……。いや、帝国に捕らえられることのないよにしなければならない。帝国へは私についてこられる人間だけでよい。他の者は、皇国に何時でも入れるように、ルナのいる国境付近に集めさせよ。ルナはどうしている? こちらに向かっているか?」
「はい。まもなく到着するかと」
「良し、ルナが到着次第、直ぐに帝国へ向かう。準備せよ!」
「はっ! ルナのいた国境付近へは、我々の出発と同時に向かわせます」
「うむ。頼む」
「おい! 全員に撤収準備。お前達は、ルナのいた国境付近へ向かう準備をしろ。これから私が選抜する者は、親方様と帝国へ向かう」
オルトが隊の仲間に命令した。
「はっ!」
一斉に皆が動き出した。
少しばかり始めた商い等も、全て破棄していく。
「おい、基本的に体一つで向かうぞ。持って行くとしても金品ぐらいだ。必要なものは現地で調達するぞ」
「はいっ!」
皆、一時の定住場所としていた屋敷を整理していく。
「ルナ姉様が到着されましたぁ!」
誰かが、ルナの到着を伝えてきた。
「親方様!」
と、ルナが私を呼ぶ。
「良く戻って来た。これから直ぐに帝国へ向かう。問題無いか?」
私がルナに尋ねる。
「はい。私は全然問題ありません。国境付近にいた者も、こちらの本体と合流するまで待機せよと言ってあります」
「うむ。オルト! 行くぞ!」
「はい!」
私を除く、ルナ、オルトを含めた十一人の突入隊は、帝国へ向かって馬を走らせた。
国境付近までは、馬で移動する。
帝国手前で馬を下りて潜入し、後は大聖堂までまっしぐらに向かう。
途中で現地の諜報員達と合流。
彼らを撤収させ、ルナのいた国境付近の隊と合流するように指示を出した。
「親方様。もう、皇国首都爆破実行部隊の魔導士達はいないようですね。転移したかもしれないです。誰か捕らえて吐かせましょう」
オルトが言う。
「オルトよ。まだ他の魔導士は残っているな?」
「はい。皇国首都爆破実行部隊の魔導士達の撤収に備えて、呼び戻す為に残っている者がいるはずです」
「うむ。捉えるのなら、その者達だ。捉えて潜入した皇国首都爆破実行部隊の行方を吐かせる。そして、その魔導士達に転移魔法を使わせて我々も向かう」
「え? では、我々も転移して、目的地に?」
「そうだ。不安か?」
「いいえ。では、直ぐに捕らえに行きましょう」
そう言って、十一人の突入隊の者達は散開した。
直ぐに捕らえて、残留部隊の魔導士達が私の元に集められた。
この十一人にかかれば、彼らを捕らえてくるなどは簡単だ。
「おい! 転移魔法を使ったろ? 先に出発した奴らは、どこに向かった?」
突入隊ひとりが、捕らえた魔導士に尋問する。
「し、知らぬ! 知っていても教えぬ! この裏切り者!」
魔導士は、私達を罵った。
「口を慎め! 今まで散々我らの世話になっていたくせに!」
「う、五月蠅い!」
このままでは、らちが明かない。
「もう良い。こいつの目隠しを外せ」
私は静かに言った。
「はい」
捕らえた目隠しが外された。
「何をしても、口を割らんぞ!」
魔導士は毒気づく。
わたしは、ゆっくりと魔導士に近づいた。
「お前の意見など聞いていない。答えよ!」
「し、知るか!」
「そうか、応えたくないか?」
そうだろう。
そんな簡単に口を割るような奴が、これに関わっているはずがない。
「では、仕方がないな」
私は、彼らの目線をこちらに向けさせた。
「な、何を?」
私は、使役の力を使った。
「魔導士よ。皇国首都爆破実行部隊は、何処に向かったか答えよ」
すると、魔導士の目が虚ろになり焦点が合わなくなりながら応え始めた。
『はい。リンド皇国の首都周辺に向かわせました』
「そこで、何をするつもりだ?」
『はい。皇国の首都を爆破いたします』
「爆破だと? かなりの広さだが、どうやってするのだ? 答えよ」
『はい。異世界人が言っていた「核爆発」を魔法により疑似的に再現し、それを首都にて実行します』
「何だそれは?」
『はい。強力な爆発で、首都ひとつぐらい破壊できる力となります』
「お、親方様!」
ルナが心配して私に尋ねてきた。
「ルナ、まだ尋問中だぞ」
オルトがルナを制止した。
「だって!」
私は、引き続き尋問を続けた。
「それを発動するのには、どれくらいかかる?」
『はい。到着後、魔法陣が完成次第直ぐにでも』
「そうか。時間がないな」
「お、親方様!」
ルナが心配そうに言う。
「全員大聖堂に向かう。こいつらも連れてな。そこで、こいつらに転移魔法を強制的に使わせる。そして、皇国首都爆破実行部隊を追いかける!」
「はっ!」
私達は、大聖堂に移動した。
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