16.冥府の舞姫
私は、集めた子供達に名前を付け終わると仮面を付けさせることにした。
ひとつには、敵味方双方から素性を知られないようにする為。
成長すれば、顔も少し変わるだろうから、直ぐには特定されにくくなるだろう。
もうひとつは、表情を読み取られないようにする為である。
状況によっては仮面を付ける付けないを自分で判断せよと伝えておいた。
もし、彼ら、彼女らが、何かのは弾みで暗殺部隊から外れる機会があった時に、困らぬようにする為でもあった。
だが、そんな機会は、永遠に訪れないであろうが。
そう、この帝国が倒れない限りは……。
「リリィよ。何度いったらわかるのだ。熱くなるなと言っているではないか?」
「はい、親方様。申し訳ございません」
暗殺の対象は、いつも弱い相手とは限らない。
警護する者に強者が付けられることも少なくない。
だから、格下と思っても油断してはならない。
相手は、死に物狂いで抵抗して来るのだから。
しかし、リリィは、母プレアと似ていて、持って生まれた正義感がどうしても強く出てしまう。
暗殺者なので、我らは正義とは言えないが、それがプライドになって表れるのだ。
感情的になる事があるのだ。
その状態は、彼女の強さにもなるのだが。
私の使役の力は、万能ではない。
こちらの思った通りに動かせることもあるが、相手にかなり無理をさせる。
使役した人間を壊すこともあるのだ。
この子らの訓練には、なるべく使わないようにした。
弱点を突くようなトレーニングをして、リリィ達を鍛えていた。
その中で、リリィは頭角を現していた。
あの集中力。
母プレアは、祈りの人だった。
自分より崇高な存在への祈りの為に、ほんの僅かな時間に自身の心境を高め、それにより数々の奇跡を表していた。
強い強い自制心と集中力が無ければ、そう頻繁に出来る者ではない。
初めて会ったのプレアの眼は、それを感じさせるに十分だった。
私とシャランジェールは、彼女の眼に惹かれたのだった。
だが、リリィが同じ目をする時、意識を軽く失い制止が効かなくなってしまっていた。
「静まれ。リリィ。剣を納めよ!」
私でも、使役の力を使ってリリィの力を抑えなければならないほどだった。
『はい。親方様』
そうして、ようやくリリィは戦闘をやめる。
周りには、格闘の訓練でリリィに打ち倒されたルナやオルトの同期の子等達が、ウンウンと唸って倒れている。
(やはり、リリィの力は、プレアから受け継いだもと考えるべきだ。私をも凌駕するとは。人外達が恐れるわけだ)
だが、残念なことがある。
そう、力を使う時、リリィに意識がない。
当人は集中しているだけのつもりのようだ。
だが、度を越してやり過ぎてしまうのだ。
自分の体を壊すほどに。
そして、この力は、あの人外達を呼び寄せる事にもなる。
プレアが聖剣化した剣をリリィが力を与えた時、人外と一緒にいた魔獣(人外魔獣)達が怯え攻撃して来た時があった。
奴らは、その力を恐れていた。
コントロールできないままでは、相手が強敵だった場合、まずい。
やがては体力が付き、死ぬ。
しかし、その力によって、リリィは完璧に仕事をこなしていた。
リリィが行くと、その周りの生きている人は、全てあの世に送っていた。
生きているものなどいなかった。
手練れの警護が、どんな強敵であっても。
いつしかリリィは、こう言われるようになる。
『冥府の舞姫』
運よく生き延びたものが、このようにリリィを評したという。
対象者は、その動きに見とれてしまい、死の恐怖を忘れるほどであったという。
「舞姫か?」
暗殺者の弟子となっても、やはり大神官の娘なのであろう。
残酷な所業の中でも、透き通るような美しさが出てしまうかもしれない。
皮肉な形で、現れたのだ。
いずれにせよ、リリィが力を使いだした以上、奴らが動き出す。
『人外!』
人の心を持たぬ物。
闇の中の存在であるはずなのに、その体に実態があり、人を恐怖で引き込もうとしている存在。
プレアが命がけで抑え込もうとした忌むべき存在。
我が親友の仇。
リリィの父と母の仇!
私の愛した女の命を奪った存在。
リリィを闇の世界に引き込んだ奴。
そして、やがてリリィに立ち塞がるモノ達だ。
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