第31話 ロヲロヲの秘密

「人類消滅の原因が……ロヲロヲ!?」


 信じられない。

 いや、可能性は考慮していた。

 ただ、てっきり善人だと想像していたから、ありえないと思っていただけで。


「ほ、本当にロヲロヲさん?」


「た、たぶん……」


「なんでそう言い切れるんだ!? ロヲロヲさんが自白したのか? それとも兆候があったとか?」


「うぅ……」


 あ、ミチコがまたハイラの後ろに隠れてしまった。

 気をつけないと、つい質問責めをしてしまう。


 ハイラにまた睨まれちゃったし。


「ちょっとソウジ」


「わ、悪かったよ。えっと、なんで原因がロヲロヲさんだって知っているの?」


 怯えながら、ミチコが顔を出す。


「師匠は、人も、悪い魔王軍も、嫌いでしたから」


「嫌いってだけで、消したとは……」


「師匠ならできます。何百年も蓄積した魔力と、非常に手間のかかる儀式を用いれば」


「マジかよ……」


 理解はできた。

 けれど、いまいち納得ができない。


 飛翔石をもらったとき、俺は大妖精様から聞いたんだ。

 ロヲロヲさんのメッセージ。


 『人類が危機に瀕したとき、平和のために戦う者が現れたら渡せ』


 こんなことを言う人が、人類と魔王軍を両方消滅させたってのか?

 自分が作り上げたラスプを、孤独にさせたって?


「ロヲロヲさんはどこにいるの?」


「わかりません。最後に会ったの、三年前ですから」


「……君は、どう思うの、この異変について」


「びっくりしました。でも、私にはどうすることもできませんし……」


 根本的に、人に意見を言えるほどメンタル強くなさそうだもんなあ、この子。

 ていうか、かなりの人見知り、もといコミュ障みたいだし、人がいなくなってラッキーとか思っていたりして。


「師匠は……世捨て人でした。俗世を離れ、自然のなかで生き、たまに知人に会っては魔法で悩みを解決する。魔王以上の力を持ちながら、決して戦争には関わらない」


「魔王以上なら魔王を倒せば、戦争は終わるのに」


「人類共通の敵がいなくなれば、人間同士で争いあうので」


「……」


 争ってばかりの世界が嫌になり、人と魔王軍を壊滅させた。

 にしたって極端すぎるだろ。

 人間にだって、優しい心の持ち主は大勢いるはずだ。


「ミチコちゃん、一緒にロヲロヲさんを捜さないか?」


「遠慮したいです」


「どうして!?」


「会ってどうするんですか」


「どうって……」


 チラリと、ハイラを一瞥する。

 こいつの前では言いづらいけれど、みんなを戻してもらうんだ。

 可能かどうかわからないが、試さないよりマシだ。


「人々を復活させるのか、消したままにするのか。その選択の先にある責任、私には……重すぎます」


 俺だってそうだよ。


 残念だけど、これ以上懇願したところできっとミチコの意志は変わらないだろう。

 ていうか、強引に仲間にするのは忍びない。


「じゃあ、特徴だけ教えてくれないか?」


「師匠は変身魔法が得意で、長い長い人生の間、いろんな人に化けきました」


「それは聞いたことがある」


「えーっと、じゃあ、癖を」


「癖?」


「笑うとき、面白かったことを2回、繰り返します」


「どういうこと?」


「会えばわかると思います」


 とりあえず、聞けることは聞けたかな。


 あぁ、頭がまだぐるぐるする。

 もうひとりの異世界転移者を発見して、ロヲロヲの知り合いだった。

 しかも人類消滅の原因はロヲロヲだって?


 一気に話が進み過ぎだって。


「わかった、ありがとう、ミチコちゃん。また知りたいことがあったら、会いに来ていいかな?」


「え」


「あ、嫌なんだ」


「……」


「あ、ガチで嫌なんだ」


「し、知らない人なので……」


 まだ知らない人扱いなんだ。

 自己紹介も済ませたのに。

 同じ世界から来たのに。


 筋金入りじゃん。


「こ、このエルフさんがいるなら、会いに来ても……」


 俺はダメでハイラはいいのかよ。

 違いはなんだよ。

 同じ女性だから?

 違うね、接し方だね、どうせ俺は怖そうだもんね。


「ソウジ」


「なに?」


「私、しばらくこの子と一緒にいるわ」


「な、なんで?」


「なんだか……ほっとけなくて」


 ハイラがミチコを見下ろす。

 危なっかしい子供を見守る親のような眼差し。


「でもハイラ、人間は嫌いなんじゃ?」


「この子は別。あなたと同じで、人間は人間でも、匂いが違うもの」


 出身世界が違うから、だろうか。

 うーん、ハイラがそうしたいなら、いいけどさ。


「いいかしら? ミチコ」


「あ、は、はい、あなたなら。喋らなくても、場が持ちそうですし」


「よかった」


 たぶん、この世界はまだまだ危険がいっぱいだけど、この二人なら大丈夫そうだな。

 ハイラは五感が鋭いし、ミチコには魔物召喚の魔法がある。

 危険察知と、それを退ける力があるのだ。


「わかったよハイラ。また会おうな」


「えぇ。助けてくれてありがとう。なにかあれば、必ず力になるわ」


「頼もしいよ。ここで別れるのもなんだし、適当な街まで送るよ」


 車を召喚する。

 ドアを開けて運転席に乗り込もうとした、そのとき。


「これ、女神から貰った能力なんですよね?」


 ミチコちゃんが質問してきた。


「うん、そうだよ。会いたい? アンフに」


「絶対に嫌です。うるさいので」


「ははは、確かに」


「そもそも、呼べるんですか?」


「まあね。アンフのやつ、この世界の住人にも嫌われてるよ」


「……」


 ミチコちゃんが視線を落とした。

 首までかしげて、なにか考え込んでいるようだ。


「女神は、師匠に会ってないんですか?」


「会ってないはずだよ。なんで?」


「私、師匠に話しているんです。自分の身の上。そしたら師匠、女神にとても興味が湧いたようだったので」


「へー」


 ふと、スクランさんの言葉を思い出す。

 女神なんてものは存在しちゃいけないんだ、と。

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