アルエース大陸編

第24話 さっそく地獄

※前回のあらすじ


 魔力操作の修行を終えたソウジ。

 偉大な魔法使いロヲロヲを捜すため、ついにアルエース大陸に上陸する。


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 アンフが帰り、車も消して、俺はまだ月光に照らされている芝生の上を歩いていた。

 ゆっくり進みながら周りを見渡す。


 普通だ、普通の草原だ。


 まあ、いきなりビックリ展開なんか発生しないか。


 とりあえず地図を開く。

 ここはアルエース大陸の南部。

 近くには……大きめの街があるな。


 街かぁ、どうせ有様はわかりきっているし、生きたくないなあ。

 うーん、でも他に目的地になりそうな場所もないし……。


「行ってみるか」


 車を召喚して、街に向かう。

 ンポの街、というらしい。変な名前だ。


 朝日が登る頃には街に到着した。


 入って早々、野良犬の死骸と遭遇。

 完全に腐ってウジ虫が涌いているが、近寄らなければ臭いはしない。

 おそらく死後二ヶ月経って、雨や風で血が流され、そこに日光による乾燥も加わっているからだろう。


 さて、どうするか。他と同じ石造りの街、適当な家に入ってベッドを借りるか。


「ん?」


 遠くに緑の小人、ゴブリンが見えた。

 大きな屋敷に入っていく。


「なんだろう」


 追いかけて屋敷に入ると、黒い足跡が絨毯を汚していた。

 さらに足跡を追いかける。地下に向かっているのか?


「なんか、気味が悪いな……」


 生き物の気配がする。

 何体かの生き物の気配だ。


 一旦引き返し、ランプを見つける。

 ライターで火をつけて、もう一度地下へ。


 音を立てずにゆっくり下ると、


「うっ」


 いくつもの牢屋に閉じ込められた人間に、ゴブリンが群がっていた。

 違う、人間じゃない。アンフから貰った『生物判別の目』が告げている、あれは、エルフだ。


 ゴブリンたちが、鎖で繋がれたエルフの死体を弄び、食っていた。


「こ、こいつら……」


 ゴブリンどもが俺に気づく。


「銃召喚!!」


 皆殺しにしてやる。

 魔力を込めた銃弾で、確実に脳天をふっ飛ばす。


「はぁ、はぁ」


 なんだ、なんだこの状況。

 ゴブリンは全滅させたけど、まったく鳥肌が止まらない。

 死んでいるのは、やっぱりエルフだ。女性のエルフ。

 なんでエルフが、全裸になって、鎖で繋がれて、牢屋にいるんだ。


 無惨だ。まともな死体が一つもない。

 きっと散々ゴブリンに弄ばれて、挙げ句に食われていたんだ。

 耐えられない。


「ゴブリンたちが、ここにエルフを?」


 それともまさか、人間が……。

 すべての牢屋を確認していく。

 一番奥の牢までたどり着くと、


「まだ、生きている?」


 虚ろな瞳でうずくまる、一人のエルフがいた。

 水色の長い髪、尖った耳、『目』がなくてもエルフだとわかるくらい、どこも傷ついていない。


「お、おい君!! 大丈夫か?」


「……」


 返事がない。そりゃそうだ。

 きっと食事もない環境で、仲間が次々と酷な目に遭わされていたんだ、精神が壊れていても仕方がない。

 たぶん、エルフだから人間より生命力があって、餓死できずに地獄を過ごしてきたのだろう。


「ま、待ってろ、いま食い物取ってきてやる」


 とはいえ、なにを食わせれば良い。

 パン粉を探して焼くか? そんな時間ないだろ。

 あ、そうだ。


「飛翔石!! ラスプのもとへ!!」


 せっかくアルエース大陸に来たばかりなのに、さっそく帰るのかよ。

 四の五の言ってる場合じゃないけど。







 飛翔石でラスプのいる城へワープする。


「おや、ソウジ様。アルエース大陸へはたどり着けましたか?」


「それどころじゃないんだ。悪いんだけどラスプ、地下で繁殖させてる食用スライムをくれないか?」


「かまいませんよ。緊急事態のようですね。食べやすいように焼いてまいります」


「助かる!!」


 悪いなスライム。

 ありがたく命を貰うよ。






 焼かれたスライムを持って、もう一度飛翔石であの地下牢に戻る。

 えっと、たしか餓死寸前の人間がいきなり満腹になると逆に危険なんだっけか。

 前にネットでそんな解説動画を見たことがある。


 相手はエルフだけど。


 とりあえず一口サイズにちぎって、あの子のいる牢をこじ開ける。

 魔力操作でパワーアップしているから、これくらい造作もない。


「ほら、毒はないよ」


 半ば強引に口に入れる。

 エルフの女の子は噛まずに飲み込んだ。

 よし、ちゃんと食ったな。


 もう一口くらい大丈夫か?


「ど、どうだ? 元気になったか?」


 って、いきなり回復するわけがないか。

 しばらく様子を見よう。


「一旦別の部屋に行こう」


 鎖も引きちぎり、お姫様抱っこで階段を登る。

 屋敷にある適当な寝室に寝かせ、俺は彼女の側で椅子に座った。


「なんでどこに行っても地獄なんだよ」

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