第25話 ハイラ

 エルフの女の子を助け、夜を迎えた。

 正確には、いつの間にか座ったまま眠ってしまって、起きたら夜だった。


 エルフの女の子は……まだベッドで寝ている。


「はぁ、ラスプのとこに連れて行った方が良いか?」


 あいつは究極だから、こういうときのお世話も完璧にこなすんだろうな。

 俺の声に反応し、少女が目を覚ます。


「あ、ごめん起こしちゃったか」


「……」


 じっとこちらを見つめたまま、なにも言わない。

 ぐぅ〜と、少女のお腹が鳴った。


「食べ物ならまだあるぞ」


 食用スライム、残ってるからな。

 少女は俺からスライムを受け取ると、ガツガツと頬張った。

 こころなしか、瞳に力が宿ってきた気がする。


「あの、喋れる?」


「私たちは……」


「え?」


「人間に捨てられたの?」


「捨て……」


 そうなるか。

 この子、突然人間がいなくなったことを知らないんだ。

 ずっとあの地下牢にいたから。


 てか、はぁ……。この子たちを閉じ込めていたの、やっぱり人間かよ。

 妖精のタトンのときもそうだったけど、罪深いな〜、この世界の人間は。


 俺の世界の人間も同じか。


「いや、捨てられてないよ。あのな、信じられないだろうけど、いま地上には、俺以外の人間はいないんだ」


「い……ない?」


「うん、理由は不明」


 少女は立ち上がると、窓から街の様子を伺った。

 誰もいない。静かで寂しい夜の街。

 もちろん、どこにも明かりなど灯っていない。


「……ふっ」


「ん?」


「ふはははは!!」


 いきなり笑いだしたぞ。

 元気になった証拠だけど……かなり不気味だ。


「天罰、天罰だわ」


「悪い、実は俺、別の世界から来たんだ。ここでなにがあったのか、教えてくれないか?」


「エルフ狩りよ」


 妖精狩りの次はエルフ狩り、ね。


「逃げ遅れた子はみんな捕まった。私もね。地下に繋がれて、奴隷として売られたり、無理やり殺し合いをさせられたり、散々な目に遭わされたわ」


「そっか……。人間は、エルフの敵なのか」


 本には、人間と共存していると書かれていたけど。


「全部のエルフじゃない」


「というと?」


「エルフにも、住む地域で特徴があるから。人間と上手く付き合っている連中もいれば、私の故郷みたいに、徹底して嫌っているエルフもいる」


 で、そいつらは容赦なくおもちゃにされる。

 俺の世界でも、国や肌の色で人の価値が大きく変わる。

 もちろん、あってはならない差別だけど、平然とその差別を行うものがいる。


「ありがとう、最後の人間さん。私を助けてくれて。てっきりあのまま、仲間たちのようにゴブリンの玩具になって、最後は餌にされるところだった。尊厳なんかない、最低最悪の死に方をするところだったわ」


「礼なんかいいよ」


「優しいのね。それとも、私を飼いたいの?」


「よせよ。逃げ出したいなら、いつでも逃げ出していい」


「そう……」


 月光が彼女の裸体を照らす。

 直視しちゃいけないけど、見惚れてしまうほどに美しい体だった。


「服を探してくるよ」


「人間さん」


「なに?」


「私のお願い、聞いてくれる?」


「いいよ。できることなら」


「仲間たちを、埋葬してあげたい」


「……うん、わかった。けどその前に服だ。いつまでも裸でいるわけにはいかないだろう。一夜明けて、明るくなったら、埋葬してあげよう」


 そういえばこの子、ロヲロヲさんのことは知っているのかな。

 やめよう、いまは尋ねる気分じゃない。


「君、名前は? 俺はソウジ」


「……ハイラ」

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