第27話 アレがきた

※前回までのあらすじ


人に拉致られ、故郷の森すら失った可哀想なエルフ、ハイラが仲間になった。

彼女が安心できる場所を見つけたいソウジなのであった。


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「よし、できた」


 月明かりの下、俺は煮込み料理を作っていた。

 カセットコンロを召喚し、その上に街で回収した土鍋を置いて、火を点ける。

 先ほど釣った魚や、食用スライムの残り、あとは食べても平気な草を煮込んで完成である。


 腹を満たすだけなら食用スライムでも足りるけれど、栄養価を考えると、他の食材は必要不可欠だ。


「ほらハイラ」


 小さな器によそって、ハイラに渡す。


「ありがとう」


「いただきます」


 ふぅ、温かくて美味しい。

 人がいなくなったこの世界、唯一の娯楽は食い物だけだからな、ゆっくり味わって食べていこう。


「美味いか?」


「……うん」


「よかった」


「……」


「……」


 し、静かだ。

 なんだろうね、静寂は慣れているはずなのに居心地が悪い。


 あぁそうか。一人なら誰にも気を使わずにぼけーっと考え事できるし、歌も歌える。

 けど誰かいると……気が散る。


 注意がそっちに向かってしまう。


 こんなとき、アンフがいてくれたら……。

 な、なにを考えているんだ俺は。

 あんなやつ顔も見たくないのに。


「なあ、エルフと人間の違いって、外見以外にあるのか?」


 ハイラは長い水色の髪に、尖った耳をしている。

 肌も純白と表現しても誇張じゃないほど白い。


「五感が……そうね、五感が人間より圧倒的に勝っているかしら」


 スンッとハイラが目を閉じた。


「一分後、夜空を見上げてみて」


「一分? なんで?」


「野鳥が通り過ぎるから」


 マジかよ。

 どうしてわかるんだ?

 匂い? 音?


「聞こえるし、嗅いだし、感じたのよ。翼が空気を切る音。鳥の匂い、風の流れ」


 鳥が飛んでいる音、なんて普通わかんねーだろ。

 正確にはどこまで感知できるんだ? 


「来るわよ」


 視線を上げる。

 一羽の鳥が、月を背にして上空を飛び抜けていった。

 はぇ〜、こりゃビックリ。


「私はこれくらいしかできないけど、戦いが得意な者もいるわ。魔力を操るとかなんとか」


「魔力操作か」


 エルフにも使えるやつがいるんだな。


「凄いなハイラは。なのによく人間に捕まったね。逃げ切れそうなのに」


「……悪かったわね」


「あ、いや、皮肉を言ったつもりじゃなくて……」


「……そう」


「はい」


「……」


「……」


 ああああ!!!!

 また沈黙!!

 煮物の味がしねえよもう!!


 冷や汗が止まらねえ。

 涙が出そう。

 あ、出る。


 俺の頬を一粒の涙が伝った、そのとき、


「ソウジさ〜ん、ソウジさ〜〜ん、そ〜う〜じすぁああああああん!!!!」


 突如目の前が光だし、俺の名前を歌いながら、アレが来た。

 来てしまった。


「どうですかソウジさん。私の200枚目のシングル、『孤独のソウジ』です。ちなみにリリースしてから一ヶ月経ちましたが、売上は1枚。近年稀に見る大失敗ソングですよ。これはあれですねえ、やはりソウジさんの歌だからですかねえ。気持ちを込めて歌えないんですよねえ、好感度が低いから!! ははははあ!!!! こりゃそろそろ、本格的に好感度上げるべきなんじゃないんですかあ? しょうがないですねえ、ピピピーン!! ボーナスタイム突入!! 私の良いところを10億兆個言えば好感度が5%上昇します!! さあさあさあ、急いでください!! ははははあ!!!!」


 うわ〜、なんだろう、すごいデジャブ。

 女の子と二人でいるときにこいつが来て、長々と喋りまくるの、すんごく既視感ある。


 あ、アンフがハイラに気づいた。


「な、ななななな、なななななななななな!!!!!!」


 なんですかこの女はーッ!! だろ?


「なんですかこの女はああああああああ!!!!」


 ほらね。




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※あとがき

疲労でしんどいときにアンフの台詞を考えるの、とても辛いです。

でもウザ可愛いですね。

ははははあ。

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