第13話 妖精の森

 大妖精様に会うため、俺はタトンに案内されながら森を進んでいた。


 道中、シカやイノシシに似た草食動物を発見したが、今は狩りをしている場合ではないので無視する。


「凶暴な魔物はいないのか?」


「昔はいたわ。でも私たちと一緒で、人間に住処を追われてみーんないなくなっちゃった」


「妖精は残ってるじゃん」


「この森、本当はもっと広かったのよ。なのに人間が森林を伐採して、いまじゃ一割しか残ってない」


「そりゃまた……」


「しかも人間は私たちを見世物にしたり、妖精狩りなんてものまではじめたの。許せない!! 絶滅してザマァミロって感じよ!!」


「うーん。まあそうなるよな」


 どこの世界の人間も、自然に対する扱いは変わらないのか。


「でも人間はもういない。おとなしい動物しかいないし、この森はもう妖精のものよ!!」


 人がいなくなったおかげで、自然は大喜びってか。

 複雑な気分だな。


「この先の湖にいるはずよ」


「ん」


 さらに歩くと、色とりどりの花々に囲まれた湖にたどり着いた。

 さっきまでの鬱蒼とした景観とは違う、美しい自然の姿。


 なるほど、だから人間は湖周りの木々だけ残したんだ。

 綺麗な自然の中でキャンプやハンティングを楽しむための、レジャー施設として。


 俺が景色に見惚れていると、


「人間よ!!」


「タトンまで一緒だわ!!」


「どうなってるの?」


 妖精たちがゾロゾロと集まってきた。

 だいたい一五人くらいか?


 全員から睨まれてるし。


 いくら相手が小さいからって、こんな大勢から敵意を向けられると、肩身が狭くてしょうがない。


 タトンが前に出る。


「みんな、その〜、こいつはそんなに悪い奴じゃないよ」


「何言ってんのよ」


「人間はみんないっしょ!!」


「そーよそーよ!!」


「まったく、この子ってば」


 タトン押されてんな。

 お姉さんたちに怒られてる末っ子みたいだ。


 すると、


「なんの騒ぎです」


 少し、他の連中より大人びた妖精が、こちらへ飛んできた。


「まあ人間……」


「タトンが連れてきたんです」


「叱ってください」


 タトンのやつ、ビクビク震えて完全に萎縮してるよ。

 おそらくこいつが大妖精だろう。

 妖精一家の母登場。末っ子大ピンチってか。


「あの、大妖精さま……」


「あなたへの質問はあとです。それより……」


 大妖精さまが俺を見上げた。


「お一人ですか?」


「あ、はい。八神ソウジって言います。えっと、一応先に説明しますと、人間はまだ絶滅中です。俺しかいないはずです」


「いないはず、ですか……」


「大妖精さまにお聞きしたいことがありまして、要件だけ済ませたら、すぐに立ち去ります」


「……」


 大妖精がじっと俺を見つめる。

 敵意、というより、見定めている感じの目だ。


「あなた、勇者たちの仲間ですか?」


「え、いえ。あの、実は俺……」


「別の世界から来た」


「!?」


「これでも、一〇〇〇年近く生きていますか、あなたのような人に会うのも初めてではございません。彼ら同様、あなたは独特のオーラを纏っているようで」


「そ、その通りです」


 さすがは大妖精さまってか。

 彼女の発言にタトンは目を丸くして、俺の周囲を飛び回った。


「あんた、別の世界から来たの!? もっと早くに言ってよ!! もったいぶるやつね」


「言ったっつーの」


 俺が想像してるより、大妖精さまは見識が深いようだ。

 この様子ならロヲロヲさんについても知っている可能性が高い。


「まあ、とにかく、この世界に来たら人がいないもんだからビックリしちゃって。なんでいなくなったのか調べていくうちに、偉大な魔法使いロヲロヲさんのことを知ったわけです」


「ロヲロヲ様、ですか」


 やっぱり知ってた。


「その人が本当に偉大なら、今も生きているかもしれないし、絶滅の原因を知ってるかもしれない。だから要は、ロヲロヲさんの居場所を知りたいんです。居場所じゃなくても、外見や性別とか、なんでもいいから特徴を」


「なるほど……」


「どうか、お願いします。別に、人を復活させたいだとか、そんな野望はありません」


 嘘だけど。

 妖精さんたちには悪いが、もし人を蘇らせることができるなら、俺は蘇らせてしまうだろう。


「野望があろうがなかろうが、関係ありません」


「と言うと?」


「ロヲロヲ様について、お伝えすることは何もありません」


「なんでですか!?」


「約束なのです。八〇〇年前、天災によって妖精が絶滅しかけたとき、あの人が救ってくださいました。そのとき約束したのです。『自分のことは、誰にも話すな』と」


 意味わかんねえ。

 恥ずかしがり屋とか秘密主義者なのか?

 でも、ラスプは割といろいろ話してくれたぞ。


「八〇〇年前……。てことはロヲロヲさんは、かなり長生きなんだな……」


「あ」


 つい情報を口走ってしまった。

 そんな動揺が顔に現れている。


「なんで話してほしくなかったんですか?」


「言えません」


「他には何か?」


「言えません」


 こりゃダメそうだ。

 仕方ない。

 脅すわけにもいかないし、諦めるしかないか。


「わかりました。では、俺は森から立ち去ります」


「タトンに案内させましょう。遭難するといけませんから」


「そんな歩いてないし、大丈夫ですよ。猛獣がいるわけでも……」


 あれ、待てよ。

 人間がいなくなって、妖精は大喜びなんだよな?

 自分たちを狩る人間はもういない。おとなしい動物しかいない。


 それって、妖精に限った話じゃ……。


「大妖精さま!!」


 タトンが指をさして叫ぶ。

 全員がその方向を向くと、大きなオークが、そこにいた。

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