第12話 妖精タトン

 大きな川を越えればケティム国だ。

 橋の手前に関所らしきものがあったが、関係ない。


 止められるもんなら是非とも止めてみてほしい。


「さて、どうやってロヲロヲさんへの手がかりを見つけるか」


 ミスったな、ラスプに外見的特徴を聞いておけばよかった。

 男か女かもわからない。


 いまハッキリしていることは、偉大な魔法使いであること、社会や戦争に興味のない世捨て人であること。


 地図を広げてみる。


 どっかの街に行ってみるか?

 できれば避けたいけど。


「ん!!」


 妖精の森なんてのがあるのか。

 しかも割と近い。

 車で二時間くらいの距離だ。


「妖精……。モンスターがいるなら妖精もいるよな。妖精なら、ロヲロヲさんについて知ってるかも」


 さっそく出発。森には湖もあるらしいし、水や食料も確保できそうだ。


 無事に森まで到着し、車から降りる。

 小川で区切られた森林地帯。


 まるで聖域や要塞のように、草原とは一線を画した雰囲気を漂わせている。


 小川を渡るための橋がかけられていて、その手前には、


【妖精の森・南  ご来客の方は入り口東までお回りください】


 とレジャー施設のようや案内文が書かれていた。


「ピストル召喚」


 念の為に召喚した武器を手に、そのまま森へと足を踏み入れる。


「普通の森だな」


 柔らかな土。

 青々とした葉っぱ。

 立派な木。


 どこにでもあるような森だ。


「妖精なんているのか?」


 と周囲を確認しながら歩いていると、


「に、人間が戻ってきた!!」


 甲高い女の子の声が聞こえてきた。

 な、なんだ?

 どこから喋っているんだ?


「帰れ!! ここは私たちの森だよ!!」


「ま、待ってくれ。てかどこにいるんだ?」


「上よ、上!!」


「うえ?」


 視線を上げてみれば、


「うおっ!!」


 半透明の羽が生えた、小さな女の子が宙に浮いていた。

 長いピンク色の髪。

 ピンク色の簡素な服。


 だいたい、二〇cmくらいだろうか。


「よ、妖精!?」


「なに驚いてるのよ!! 驚きたいのはこっちの方よ!! せっかく人間が絶滅したと思ったのに!!」


 よくわからないけど、すんげー怒ってる。


「えっと、人間は絶滅してるよ。なんていうか、俺は別の世界から来たんだ」


「別の世界? ふん、そんなファンタジーなもの、あるわけないでしょ」


 妖精がそれを言うかね。


「と、とにかく。なにも危害を加えたいわけじゃない。ロヲロヲって魔法使いの手がかりが欲しいんだ」


「え!? ロヲロヲ!?」


「知ってるのか!?」


「……変な名前ね」


「いや、まあ、うん」


 知らないみたいだ。


 ていうか、これが妖精か。

 想像通り、ちっちぇーな。

 どういう原理で空を飛んでいるんだろう。

 いくら小さくても、あんな羽じゃ体を浮かせられないだろうに。


 ファンタジーに文句つけてもしょうがないけど。


「大妖精様なら知ってるかも?」


「そうなの? できれば会いたいんだけど……」


「人間を大妖精様に会わせるわけにはいかないわ!!」


「そこをなんとか!!」


「ダメなものはダメよ。ふん!!」


 まいったな。

 ここまで人間が嫌いだなんて、どんな仕打ちを受けてきたんだよ。


「何したら考えてくれる?」


「そうね〜。宝石ね!! それも、凄くレアで美しい宝石くれたら、考えてもいいわ」


「へ〜、妖精も宝石とか好きなんだ」


「だって綺麗じゃない」


「ふーん。……ちょっと待ってて」


 妖精から離れて、一旦小川に戻る。

 岸にある適当な小石を拾って、


「カラーペン召喚」


 呼び出したペンで色をつけた。

 凄くレアな宝石がいいと言っていたし、一色だけじゃ味気ないか。


「七色にしてラメまで塗ったろ」


 小学生女子が好きそうなラメ入りカラーペンまで使い、カラフルでキラキラな小石を完成させた。


「はい、宝石」


「ええ!? こんな短時間でどうやって!?」


「ふっふっふ」


「すごーい!! カラフル〜!! 人間にしてはやるじゃない!!」


 よし、うまく騙せたな。


「まあね。で、どう?」


「しょうがないわね〜。話をつけるくらいはしてあげる。実際会えるかは、大妖精様次第ね」


「ありがとう」


 チョロいなこいつ。


「きみ、名前は? 俺は八神ソウジ」


「タトンよ」


「よろしく、タトンちゃん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る