はじまりの地編
第1話 八神ソウジ村と名付ける
ハッと目を覚ますと、俺は草っ原で寝転んでいた。
身長は変わっていない。服装も、死んだ時に着ていた学校の制服のままだ。
起き上がって辺りを見渡す。
すぐ近くに村がある。
西洋風の、アンティークな外観。
基本的には木造建築が立ち並んでいるが、レンガ調の家もあった。
おそらくここは異世界。
ここまでは要望通り。
「けど、あの女神様、最後とんでもないこと抜かしてたよな」
人が絶滅した?
意味がわからん。
魔王か何かに滅ぼされたのか?
もしくは疫病か。
「病だったらシャレにならんぞ」
死体からでも病原菌は移るから。
とりあえず村に入ってみる。
いない。
本当に誰もいない。
野良犬や飼い猫はいるみたいだが。
「嘘だろ……」
パン屋にも、服屋にも、井戸にも、どこにも人がいない。
けど、先程まで生活していた痕跡がある。
適当に入った家には食いかけのパンがあるし、腐っていないから。
「暖炉に火がついてるな」
じゃあ、街の人はどうなった?
絶滅したのなら、死体があるべきだろう。
最後の1人が死にました、てパターンなら、ここまで村全体に生活感はあふれていないはず。
大勢の人間が暮らしていたはずなんだ。
これじゃあまるで、絶滅というより一斉消滅じゃないか。
「おいおいおいおい」
急に怖くなってきた。
鳥肌が止まらない。
なんだここ。どんな世界なんだ。
「そ、そうだ。俺のチート」
どんな能力が付与されているのかは、自然と頭に浮かんできた。
試しに、
「方位磁石」
と口にすると、手のひらにコンパスが出現した。
「ハサミ」
次はハサミ。代わりに、コンパスが消える。
これが女神様から授かった力。
俺が住んでいた世界、現世にあるものを召喚できる力。
けれど、生物は召喚できない。
食べ物もだ。出せるなら無機物のみ。
加えて、一度に召喚できるのは一つまで。新しいアイテムを出せば、一個前のものが消える仕組み。
「スマホ……ってそりゃ電波なんかないか」
少しずつ冷静になってきた。
こういう世界、アニメで何回も見てきたじゃないか。
そうそう、ポストアポカリプス。
荒廃した世界で、過去の兵器とかアンドロイドとか出てきたりしてさあ。
「いんのかよ、アンドロイドなんて」
SFっつーか、ファンタジーな世界なのに。
くそ、こんな世界に飛ばされるくらいなら素直に死んだほうがマシだったろ。
「とりあえず、食料確保か」
腐っていないパンなら、この街に大量にある。
あるにはあるが、いずれ腐る。
野菜や肉もそうだ。
保存料なんて使ってないだろうし、一週間持つかどうか。
とにかく、リュックを盗んでパンを積み込みまくる。
これ、めっちゃ犯罪だよな。
気にしてたら生きていけないけど。
それから地図を発見し、まだ傷んでいない赤い果物を噛りながら眺めた。
なんの果物かわからないが、かなり酸っぱい。
「ん、村の近くに川があるじゃん」
よし、川ならきっと魚がいる。
甲殻類だって生息しているはずだ。
問題は、川が汚染されているかどうか。
大抵、こういうポストアポカリプス系の世界は汚染されているもんだ。
「餌は現地の虫を使えばいいし、釣り竿もどっかにあるはず。となると」
召喚するのは移動手段。
「自転車!!」
平凡なママチャリを召喚し、村を散策して釣り竿を探す。
この村、人こそいないけど、割と利便性が高い。
牛舎があるし、馬や鶏までいる。
異世界の田舎にしてはかなり発展している方だろう。
とりあえず、ここを拠点にスローライフをしていくしかない。
「八神ソウジ村と名付ける!!」
他人の家で釣り竿を発見し、さっそく川へ。
生い茂る草花、砂利道、抜かるんだ土。
一切舗装されていない自然のままのオフロード。
「パンクしたら別の自転車を出せばいいか」
どうにかこうにか川に到着し、様子をみる。
よかった、見たところ川は綺麗で透き通っているし、魚も甲殻類もいる。
とうぜん現世にはいない魚ばかりだけど、これでタンパク質の心配はなくなった。
「ふー、よかった。衣食住は確保できた。家畜の世話は大変だけど、やっていくしかない」
じゃあさっそく、釣ってみるか。
適当に見つけた小さな虫を針につけて、俺は魚が掛かるのを待った。
もちろん、獲った魚を入れるザルも盗んでいる。
それから、数時間ほどが経ち。
「うっし、大量大量!! 異世界生活初日、豪勢に行くぜ!!」
と意気揚々で村に帰ってみれば、
「え……」
八神ソウジ村が、燃えていた。
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