第33話 ペコン

 車を止めて、ラスプお手製の地図を広げた。

 ミチコに会った以上、俺の目的はロヲロヲ捜索に絞られたわけだが、肝心の手がかりがまったくない。


 闇雲に探し回るしかないのだ。


「えーっと、このまま西に進むとハツダイの街があるのね」


 ラスプが地図に記したメモによると、工業の街らしい。

 とはいえ、どうせひとっ子ひとりいないわけだけど。


 何はともあれ出発。

 アクセル全開で、一時間も経たずに到着した。


「んー?」


 妙だな。

 生き物の腐乱臭がしない。

 日にちが経ち過ぎているからか。


 にしても……おかしい。

 なにかおかしい。


 一見、ごく普通の、石造の街。

 屋台には果物や生魚などは陳列していない。


 野良犬の糞も、モンスターの気配もない。


 なんだ? この違和感。


「あれ?」


 そうだ、綺麗なんだ。

 屋台には果物がない。パン屋にもパンがない。

 モンスターが奪ったのか? いや、普通その場で食うはずだ。


 なのに食べ残しがない。

 排泄物もないし、のたれ死んだ動物もいない。


 他の街に比べて、明らかに綺麗すぎる。


「まさか、誰かいるのか、ここに」


 車を消して、身長に進む。

 もし、誰かいるとして、そいつは俺に友好的なのか。

 違うのなら、戦うしかない。


「工業の街、か」


 たしかに、よく観察してみると、武器屋や装飾系の店が多い。

 立派な鎧、綺麗な宝石、高そうな靴まで選り取り見取り。


 まるで商店街だ。


「いる……」


 視界に小さな人間が映った。

 子供か?


 道端で独り、ボール遊びなんてしているが。


 向こうもこちらに気づいた。

 女の子か?


「に、人間だああ!!」


 女の子は喜色満面といった顔で、こちらに走ってきた。


「人間!! 人間戻ってきた!!」


「お、おう?」


 やけに嬉しそうだな。

 にしてもこの子、本当に小さい。

 四歳や五歳くらいか?


「やったー!! ハッピーハッピー!!」


 俺の手を握り、ぐるぐると回りだす。

 いったいなんだってんだ? 人間なのか?


 目を凝らして、少女を見つめる。

 アンフから授かった『判別の目』が、彼女の正体を暴いた。


「ドワーフ?」


「そうです!! わたちはドワーフです!!」


「なるほど」


 人間じゃない。

 魔王軍の魔物でもない。

 だから消滅していないのか。


「みんな戻ってくるんですね!!」


「あ、いやあ、ごめん、残っている人間は俺だけなんだ」


 あとミチコ。


「え」


 少女はがっくりと項垂れると、


「そうですかあ」


 と涙目になった。


「人間が好きなの?」


「はい!! 人間は友達です!!」


 うわ、眩しい。

 眩しすぎる笑顔。

 なんと屈託のない純粋な言葉。


「ドワーフは器用で力持ちで長生きだけど、考えるのが苦手。人間は弱いけど、考えるのが得意。だから協力して生きてきまちた!!」


 少女は俺の手を引きながらとてとてと走り、一軒の宝石店へ入った。

 そこに陳列されている美しい宝石を指さして、


「わたしが掘って、おとーちゃんが加工して、人間が売ってます!!」


「ほうほう」


「観光客や、お金持ちに大人気」


「へー」


「売れたらそのぶん、お小遣いが増えます」


「じゃあ、キミは結構お金持ちなんだ」


「でも、お前にはまだ早いって、おとーちゃんが預かってます」


 お年玉貰った子供みたいだな。

 そういえば、俺が幼い頃没収されたお年玉は、いまどうしているのだろう。


「この街は、ドワーフと人間で繁栄させた街なのです!!」


 なんか、ホッとした。

 ずーっと人間下げな意見ばっかり聞いてきたからかな。


「俺はソウジ。君は?」


「ペコンです!!」

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