第32話 アンフとの……。

 ハイラとミチコに別れを告げて、俺は気ままな一人旅を再開した。


 ロヲロヲが人類消滅の原因、か。

 実際会って話してみないと、なんとも言えないよな……。


「どうでした? ミチコちゃんは。可愛い女の子でしたよね」


「そうだねー。かなり性格にクセがあるみたいだけど」


 けどハイラと相性良いみたいだし、二人を引き合わせることができてよかった。


「まったく、ソウジさんは女の子を見つけるとす〜〜〜〜〜〜〜ぐ鼻の下を伸ばすんですから」


「……ん?」


 え、なんで助手席にアンフがいるの。

 い、いつから? いつからそこにいたの??


 こわいこわいこわい。

 怖いってこいつ。


 バクバク高鳴る心臓に耐えながら、グッとリアクションを抑え込む。

 落ち着け。ここで反応したらこいつの思うツボだ。

 絶対に構ってやるものか。


「ソウジさんがミチコちゃんに会ったおかげで、今回はちゃんとマーキングできました。これからは会いたいときにミチコちゃんに会えますよ。ははははあ」


 ミチコ、かわいそう。

 本当に嫌いなんだろうな、お喋りだし構ってちゃんだしホラーだし、ミチコの天敵だよこの女神は。


「そういえば、最近新しい天使が誕生したんですよ」


「へえ。そういえば歓迎会をやる、みたいな話をしてたね」


「バチクソ飲みましたねえ。気がついたら路地裏で寝てました」


 誰も介抱してくれなかったのかよ。

 路地裏で放置は中々だぞ。


「その天使もいつか女神になるんだろ? マヤハちゃんみたいに」


「そうですねえ。女神ってえ、生まれ持って女神なのか、生まれ持って天使であとから女神になるかなんですよねえ。前者はエリートコースなので、最終的には女神長、いいや最高神にすらなれるんですよ。わかります? つまりこれがどういうことかわかります? ねえねえソウジさん。ソウジさんってば」


「偉くなれるんだね」


「そういうことっです〜〜。これは逆玉コースですよソウジさん。ラッキーですねえ。まあ、好感度激低なんですけれどもねえええええ!!!!」


 めんどくせえな。

 だけどこの面倒くささが、若干クセになりつつある自分がいる。


 悔しい!!


「てかさ、女神なのに人間と恋愛できるのかよ」


「できないこともないですよ。寿命に圧倒的な差がありますけど、一時的な恋愛ならできますって」


「ふーん、何歳なの? アンフは」


「え!?」


 やべ、地雷踏んだ。

 いくらなんでも気をつかわなすぎた。


「ソウジさんさあ……」


「ごめんごめん」


「ちなみに5万8千歳です」


「答えてくれるんだ。しかもめっちゃ長生き」


「ピチピチの5万8千代ですよ」


「逆にいつピチピチじゃなくなるんだよ」


「お、目の付け所が違いますねえ、さすがソウジさん」


 うぅ、ついノリノリで会話してしまった。


「そんだけ生きて、何回恋愛してきたんだよ。あそっか、これまで誰にも構ってもらえなかったんだっけか。んじゃ一桁か?」


「なあああああんてこと言いやがるんですかソウジさん!! ありますよ、かれこれ10億回は恋愛してきました!! モテモテなんで!! ソウジさんとは大違いなので!!」


「はいはい」


「ムキーッ!! ソウジさんのくせに〜!!」


「ははは」


 ん、やば。

 車が止まった。

 なんだよ、ガス欠かよ。


「どうしたんですか?」


「んー、別の車だすか」


「おやおや」


 ふと、隣に視線をやる。

 アンフを見つめる。


 アンフもまた、俺と視線をかわす。


「……」


「……」


 な、なんだこの空気。

 密室、人目もなし、男女二人……。


 いやいや、ありえねえって。

 こいつとだけは絶対にありえない。


「マ、マヤハちゃんは元気?」


「いま、他の女の子の話をしないでください」


「……あぁ」


 無意識に、アンフとの距離が縮まる。

 まずいまずい。

 この流れはまずいって。


 あとに引けなくなるって。


「よ、よーし、たまにはバイクでも出してツーリングしようかな」


 車を消して、少しアンフから離れる。

 危なかった。あと数秒で、俺はこいつと一線超えるところだった。


 心なしかアンフのやつが唇を尖らせている。


「いくじなしのソウジさん」


「なんだよ」


「ばーか」


 それだけ言い残し、アンフはいなくなってしまった。

 ったく、何なんだよあいつ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る