第34話 もっと迷って

「ドワーフは君だけ、じゃないでしょ?」


「あ、みんなのところに案内ちます!!」


 ドワーフは基本的に一つの区画に集まって仕事をする。

 街の約4分の1。そこに農場や鍛冶場、工房などがあるのだとか。


 別に追いやられているわけではなく、小さくて大人数で作業するのが当たり前の彼らにとっては、ドワーフ同士の距離が近い方が効率的なのだとか。


「この街が綺麗なのは、ドワーフたちのおかげなのかな?」


「そうです!! わたちたちの街ですから。いつ人間が帰ってきても、いいように」


 ラスプのように人間に従っているというより、完全に共存しているんだな。


 やがて、ドワーフたちの居住区にたどり着いた。

 明らかに、建物のサイズが先ほどより一回り小さい。


 それに、


「人間?」


「戻ってきたのか!?」


「あぁよかった」


「いったい何があったんだ」


 小人たちがゾロゾロと集まってきた。

 うぅ、この感じ、妖精の森と一緒だ。

 あっちじゃ歓迎されてなかったけど。


 若いドワーフ。

 髭を蓄えたドワーフ。

 老女のドワーフと、大勢の小人が詰め寄ってくる。


「他の人間は?」


「あんたひとりかい?」


「魔王軍の仕業なの?」


 こりゃ参ったな。


「あ、あの、すみません。そうたくさん質問されても……」


「ぬわーっ!! みんな!! そんなに詰め寄ったら人間困るです!! 人間さん、わちしの家に避難するです!!」


「お、おう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ドワーフは成人でも130cmほどしかない。

 必然的に、家のサイズも小さくなる。


「狭いところですが、どうぞ」


 ペコンの家に訪れると、彼女の父が歓迎してくれた。

 こうも人間に優しい人外は初めてだ。


「お邪魔します」


 天井が低い。

 たぶん、ジャンプすれば手が届くだろう。


 俺が椅子に座ると、ペコンがお茶を用意してくれた。


「ありがとう」


「人間さん、今日泊まっていきますか?」


「え? あー、いやー」


「泊まってくだちい!!」


 父も笑顔で頷いている。

 じゃあ、お言葉に甘えようかな。

 久方ぶりの、他人の手料理が食べられるわけだし。


「やったーっ!! わちし、たくさん野菜を買ってくるでち!!」


 と、ペコンは大きなカゴを抱えて家から飛び出してしまった。


「すみません、騒がしい子で」


「いえいえ」


「それで、どうしてあなただけ残っているのですか? 他の人間は、みんないなくなってしまったのに」


 できるだけ簡潔に説明する。

 この世界の人間ではないこと。

 俺が来た時には、すでに人類は消滅していたことを。


「なるほど……。人間は、もう戻ってこないのでしょうか」


「戻ってきてほしいんですか?」


「そりゃもちろん。ドワーフだけで生きようと思えば生きられますが、やはり……寂しいですから。ペコンにしたって、大好きな人間の友達がいなくなって、ずっと泣いていたのですよ。ようやく、最近になって笑うようになりましたけど」


 人間と共存している人外、か。

 たぶん、ドワーフだけじゃない。この広い世界、人類がいなくなって困っている者は少なくない。


 現に、俺はこれまで何体も、飢えた家畜や犬猫を目撃してきた。


「でも世の中には、人がいなくなって喜んでいる種族もいます」


「それはそうですが」


 こんな問答、ここでしたって意味がない。

 人類を復活させるべきなのか否か。

 そもそも可能なのかどうか。


 やはり、ロヲロヲに会わないことには何もわからない。


「もうじき妻も帰ってきます。今夜はご馳走しますよ」


「あ、ど、どうも」


 それから俺は、ペコンの家で温かい鍋を食べて、寝床を借りた。

 もっと一緒にいてほしいとペコンに泣きつかれたけど、


「また会いに来るよ」


 そう約束して、街を後にした。

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