第35話 エンフィー

 次はどこに行こう。

 アルエース大陸はかなり広い。


 いったい、どこへ向かえばロヲロヲの居場所を突き止められるのだろうか。


「あーあ、気晴らしにラスプにでも会おうかな」


 飛翔石を取り出す。

 これさえあれば、大陸を跨いで誰にでも会いに行けるのだ。


 一度でも訪れた場所じゃないと、ダメだけど。


「よーし、じゃあさっそく」


 と思った矢先、


「ソ、ソウジさん……」


 亡霊のような顔をしたアンフが、突然現れた。


「うわビックリした」


「ソウジ……さん……」


「な、なんだよ、どうしたんだよ。元気ないけど」


「やばいんです。天界はじまって以来の大事件なんです……」


 事件?

 あのアンフが顔面蒼白になるようなことが起きているのか?

 一番偉い神が死んだとか?


「実は、マヤハが……」


「マヤハちゃんに何かあったのか!?」


「マヤハが……」


「ごくり……」


「私の上司になりました」


「……なーんだ」


 心配して損した。

 ったく、大袈裟な顔しやがって。


「なーんだとはなんですか!! ありえないんですよこんなの!! 私は生まれ持ってのエリート女神、方やマヤハは天使出身の叩き上げ女神!! なのに!! 私を差し置いて班長になったんですよあの子!!」


「さすがマヤハちゃん」


「なんて残酷な下剋上なんですか!! もうやってられませんよ!! チクショーッ!!」


 てか何をどうすれば出世すんだよ、天界とやらは。


「しかもマヤハのやつ、班長になってさっそく私に指示を出したんです」


「パン買ってこいとか?」


「新人の教育です。最近、天使が増えたので」


「増えたって、赤ちゃん?」


「いえ、天使になれる素質を見込まれて、天使になった口です」


 もともと普通の生き物だったわけか。

 よくわからんな、神の増え方。


「私の部下として雑用をこなすわけですが、マヤハも最初はそうでした。なのに気づけば……うぅ、慰めてくださいソウジさん!! 好感度アップのチャンスですよ!!」


「どんまい」


「うがああああ!!!! ソウジさんってヤツは本当にチクショーですよ!! 好感度マイナス7000億突破!!」


「んで、その新しい天使ちゃんとやらは?」


「けっ、私より新しい女の方が重要ですか。このスケベ!! まあいいでしょう、その子と比べて、私がどれだけ素晴らしい女神なのか思い知るといいです。……エンフィー」


 アンフが呼ぶと、空間がまばゆく光り、銀髪の少女が舞い降りた。


 背中に小さな羽を生やし、頭上には光る輪っかが浮いている、いかにも天使でございって具合の女の子だった。


「どうも、はじめまして。エンフィーです」


「あ、ソウジです」


 物腰柔らかそうな子だ。

 清楚で優しい、まさに天使に相応しい印象を受ける。


「確か、アンフ様の彼氏なんですよね?」


「違うよ。全然違うよ」


「ふふふ、即答ですか。ふふ、即答」


 うわ、アンフがニヤニヤしている。


「どうですかーっ? 可愛いですよねぇ。でもソウジさん、心の中ではこう思っているんじゃないですかあ? 『アンフの方が8000億倍可愛いな』ってねえ!!」


「アンフの限りなくポジティブなとこ、尊敬するよ」


「どういう意味ですかそれーっ!!」


 エンフィーちゃんがまたクスクスと笑っている。

 笑い上戸なんだな。


「ポジティブ。ふふ、ポジティブ」


 特徴的な笑い方をするな。

 ツボったワードを繰り返すのか。


 あれ? その癖、どこかで聞いたことがあるぞ。

 そうだ、ミチコが教えてくれたんだ。


 そういえば、エンフィーは素質を見込まれて天使になったとか言っていたな。

 素質、か。


 もしかして……。

 いや、まさかそんな……。


「エンフィーちゃん、ちょっと時間ある?」


「はい?」


「会ってほしい人がいるんだ」


「えぇ構いませんけど」


「この世界にいる、ミチコって女の子なんだけど」


 エンフィーが目を見開いた。

 この反応、ますます怪しい。


 こいつ、ロヲロヲなのか?

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