第19話 vsバンパイア
二体のバンパイアが手刀を構えて突っ込んでくる。
速いっ!!
「くっそ!!」
間一髪回避して、俺は急いでバイクを走らせた。
暗いジャングルで全開走行なんてしたらまず事故るだろうが、殺されるよりマシだ。
「逃すか」
嘘だろ。
こいつら、平然と並走してやがる。
四本脚の獣ならまだしも、二足歩行だろうがよ。
てかヤバい、木にぶつかる。
「ぐっ!!」
直撃する前にワザとバイクを倒して、滑らせた。
肩や足の鈍い痛みに耐えながら、立ち上がる。
とうぜん、また囲まれてしまった。
「わかった、正直に言うよ」
「ほう」
指示を出していたリーダー格が、他の二人に目配せをする。
待て、とでも伝えたのだろう。
「この世界に来てもやることがないから、どうして人がいなくなったのか調べることにしたんだ」
「それで?」
「ロヲロヲさん、っていう偉大な魔法使いのことを知って、偉大なら消えてないんじゃないかって思った。それで、アルエース大陸へ行って捜すことにしたんだ」
「ロヲロヲ……だと……」
目つきが変わった。
知ってるんだな、やっぱり。
「確かにヤツなら生き延びている可能性はある。しかし、ダメだな。会わせるわけにはいかない」
「な、なんで!?」
「人と魔王軍を復活させる恐れがある」
「魔王軍?」
モンスターを統べる闇の帝王。人間と長い間戦争してたって言う。
まてまて、その言い方じゃ、魔王軍まで壊滅してるみたいじゃないか。
「ロヲロヲは油断ならん」
「あ、アンタらは、魔王軍じゃないのか? バンパイアなんだろ?」
「崇高なバンパイア族を、下劣な者共と一緒にするな!!」
こっわ。
「これは好機だ。人も、魔王軍もいなくなった。いまこそ、我々バンパイアが世界を支配するとき。……故に、ほんの些細な不安材料も、残さん。死ぬがいい」
結局そうなるのかよ。
こうなったら、やるしかない。
「ピストル召喚!!」
間髪入れずに弾丸を連射する。
見事、リーダー格の胸部に命中したのだが、
「おかしな技を使うな」
「冗談だろ……」
まるで怯んじゃいなかった。
また部下の二人が突っ込んでくる。
くそ、こうなったら、
「スマホ召喚!!」
間に合え。
「うおら!!」
スマホを適当にぶん投げる。
ライト機能をオンにして、音楽まで流して。
「なんだ!? この板は」
バンパイアたちはスマホに注目し、警戒気味に近づいた。
「いまだ、手榴弾召喚!!」
スマホが消え、手榴弾が現れる。
もう遅い、スマホが気になって一箇所に集まったのが運の尽きだ。
「くらえ!!」
彼らの中心で、手榴弾が爆発する。
さすがのバンパイアも、衝撃で吹っ飛んだ。
「どうだ!! 殺戮兵器のちから……は……」
「まるで奇術師だな」
効いてない。
血すら流してない。
ありえないだろ。
あんな距離なら、熊だって死ぬぞ。
「遊びは終わりだ、最後の人間よ」
死ぬ。
一度交通事故で死んでるからわかる。
この感じ、全身から血の気が引いて、どうしようもない感じ。
死ぬ前の絶望感そのものだ。
アンフに助けを……ダメだ、巻き込めない。
なら、
「飛翔石!! 俺を城にーー」
「くどい!!」
リーダー格が一瞬で間合いを詰め、手刀で俺の手首を切り落とした。
右手もろとも、飛翔石が落ちる。
「うああああああ!!!!」
「せめて魔法の一つでも覚えて出直してこい。……いや、ここで死ぬのか」
「くっそ……」
「さらばだ」
リーダー格が手を振り上げる。
終わった。本能が生を諦めた、そのとき、
「弱い者イジメなんてやめなよ、バンパイア」
誰かが、リーダー格の腕を掴んだ。
マントに身を包んでいるが、長いピンク色の髪と、膨らんだ胸部から、女性だとわかる。
リーダー格が驚愕する。
「なっ!? スクラン!?」
「久しぶりじゃないか。えーっと、名前なんだっけ?」
「くっ!!」
リーダー格は腕を払うと、一気に距離を取った。
スクランなる女性が、俺に手を差し伸べる。
「立てる?」
「は、はい」
「うわ、腕取れちゃったんだ。まあ安心しな。そんくらいすぐ治る」
「あ、あなたは?」
「私? 私は……うーん、バラしちゃってもいいか。私はスクラン。現魔王の、お姉ちゃんさ」
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※あとがき
まさかこの作品でちゃんと戦闘シーンを描くなんて思いもしませんでした。
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