第18話 いざアルエース大陸へ

「ソウジ様がお眠りの間に、単独でのデッ海超えの方法を調べて参りました」


 翌朝、着替え中の俺の元にラスプがやってきた。


「え? いつ?」


「ですので、ソウジ様がお眠りの最中です。図書室で調べたのです」


「じゃあ、寝てないの!?」


「わたくしは寝ません。必要ないので」


 魔法人形だから、か?


「あ、ありがとう。本当に助かるよ」


「はい。では、さっそく説明させていただきます」


 着替え中なんですけどね。

 まあいいや。

 たぶん、俺の半裸なんぞ見ても、ラスプは何も思わないだろうし。


 ラスプが淡々と語り出す。



 レハー国から南へ進むと、乾燥地が広がる国に入る。

 そこからさらに南下して、熱帯の国『キワサカ』の沿岸部に向かう。


 来月の満月の夜。潮の満ち引きの関係で、海にアルエース大陸までの『道』が出現するらしい。


 そこを可能な限り素早く渡りきれば、無事アルエース大陸ってわけだ。


「素早くって、海を渡るわけだろ? 下手すりゃ車でも数日かかるんじゃないか?」


「車という物の性能は存じませんが、気合いでどうにかするしかありません」


「んー、なるほど」


「満月は四〇日後でございます。季節も関わってきますので、この機を逃すと来年までお預けになりますので、ご注意ください」


「わかった。ありがとうラスプ。すぐに出発するよ」


「乾燥させた食用スライムを用意いたします」


「あ、ありがとう……」


 ぶっちゃけ食べる気はしないが、食い物を選べる状況ではないか。

 それからラスプに別れを告げて、俺は城をあとにした。


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 城を出発して一〇日、俺はまだ乾燥地を車で走り続けていた。

 遠い。気が遠くなるほど。


 いくら時間ならたっぷりあるとはいえ、精神的に来るものがあるな。


「そもそも、だだっ広いアルエース大陸でロヲロヲさんを捜す作業もあるんだよな。これで他の人間と一緒に消えてたらどうしよう」


 まあ、俺以外の異世界転生者の少女は見つかるかもしれないし、中断なんてしないけど。


 しかしそろそろ、熱帯地帯に入りたい。

 レハー国までは釣った魚や狩った獣で飢えを凌ぎ、乾燥地では乾燥スライムを食ってきたけど、食料が尽きてきた。


 一度飛翔石で城に戻ってしまおうかとも考えたが、また現在いる場所に戻って来れる自信がないのでやめた。


 正確にイメージしないと飛べないのだ。

 なんの目印もなく、似たような景色ばかりの乾燥地では、イメージもへったくれもない。


「うわ、ガス欠。別の車召喚しないと」


 俺、異世界に来てからずっと車に乗ってる気がする。


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「よし、食える果実だ」


 さらに数日が経ち、ついにキワサカ国に入った。

 国といっても、ほとんどが熱帯ジャングルだ。


 適当に見つけた果実を食らいつき、バイクに跨る。

 さすがに車じゃ通れないから、移動手段を変えたのだ。


「もうじき日が沈むな……」


 適当に開けた場所で車中泊をしよう。

 進めなくても、召喚する広ささえあればいい。


 と、辺りを果実を食いながら考えていると。


「まさかと思っていたが……人間か」


 突如、三人の男が俺の周囲に現れた。

 黒いマント、真っ白な顔、赤い瞳。

 不気味だ。たぶん、人間じゃない。


「なぜ生きている」


「えっと、別の世界からきたんです。そしたら人間がいなくて、とりあえず旅をしています」


 ロヲロヲさんのことは話さなかった。

 彼らにとってロヲロヲさんが敵か味方か判断できなかったからだ。


「それはなんだ」


「それ?」


 バイクのことか。


「特別な乗り物です」


「おかしな乗り物だな。魔王軍……いやドワーフの仲間か」


「どちらでもありません。俺は、誰の敵でも味方でもありません」


「なら立ち去れ。ここは、我々バンパイア族の森だ」


 バンパイア?

 吸血鬼ってこと?


 ジャングルに吸血鬼って似合わないけど、嘘ついてるわけもないよな。


「できれば沿岸部まで通してもらえないですか? アルエース大陸へ行きたいので」


「なぜだ」


「何故って……」


 どうしよう。

 正直に答えるか。

 行ってみたいからです、なんて返答じゃあ通してくれないよな。


「実は」


「もういい。キサマ、いま悩んだな? つまり言えない秘密があるということだ」


「いや、だから」


「殺せ」


 残りの二人が飛び掛かってきた。







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※あとがき

ちょっとだけ真面目な回が続きます。

許してください。

怒らないで。

痛いのはやだ。

うぅ……。

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