第15話 トチ狂った日

 車内でぼーっとしながら、これからのことを考える。


 大妖精様曰く、ロヲロヲさんは二年前、アルエース大陸へ向かった。

 たぶん時系列としては、


・ラスプを作る。


・妖精たちに会う。


・アルエースへ渡る。


 といったところか。

 じゃあ行くしかないわな。

 一応地図はあるし、港の位置もわかるけど、


「船どうすんだよ船」


 この異世界にある船は、とてもじゃないが一人で動かせる代物ではない。

 じゃあクルーザーでも召喚するか?


「そもそも、航海の知識なんかねーよ」


 どうしようかな。

 ロヲロヲさんを探す前に、アンフが言っていた『俺以外の異世界転生者』をこの国で捜すか?


 こっちに関してはまったく手掛かりがないけど。


「そいつはどこで何をしているんだろう。向こうも人が消えた原因を調べているのかな」


 独り言多いな、俺。

 だって喋らないと言葉を忘れちゃいそうなんだもん。


「はぁ、なーんか、ぱーっと騒ぎたいな」


 人がいないことを有効活用できないだろうか。

 うーん。


「とりあえず街に行こう」


 近くの街は思ったより嫌な臭いはしなかった。

 たぶん、あんまり生き物がいないのだろう。


「良い街並みだな」


 レンガ調の家屋。

 大きな城に……謎の塔。

 あとは教会まである。


 ザ・異世界ファンタジーの街って感じ。


「お、噴水」


 昼間にしてはちょっと肌寒いけど、良い街だ。

 あーあ、普通に人がいる状態で来たかった。


 物音一つしねえよ。


「……」









 なんだろう。

 胸がムズムズしてきた。


 なんか、改めて考えるとヤバいな、人がいないって。

 誰も、俺を見てないってことだよな。


「うわああああああああ!!!!」


 意味もなく叫んでみた。


「うんこおおおおおお!!!!」


 下ネタを叫んでみた。

 へへへ、楽しいなこれ。


「海賊王に、俺はなあああある!!!!」



 当然、反応はない。

 あるはずがない。

 普段できないことが、できる!!


「宴だああああッッ!!!!」


 適当な家から酒を掻っ払う。

 異世界に現世の法律は通用しねええ!!

 

 そうだよな? アンフ。

 よし、アンフの責任にしたぞ。

 飲む、飲んでやるぞ。街中で、ど真ん中で、昼間から酒を飲んでやる!!







 数十分後。


「スマホ召喚!!」


 ノリノリな音楽を鳴らし、俺は歌って踊っていた。

 はしゃいでいた。

 めちゃくちゃはしゃいでいた。


 しかも、


「もうパンツも脱いじゃおーっと!!」


 全裸で。


「あはは!! 噴水で平泳ぎしてやるぞーっ!! へいへーい!! うほおおおお!!!!」


 楽しい。


「俺の名前は!! 八神ソウジ!! 誰でもいいからかかってこいや!! ボッコボコにしてやるよオラァ!!」


 嫌なこと全部忘れられる。


「いやっほおおおおおお!!!!」


 とまあ、大いに遊んだのですが----。






「……やばい、死ぬ」


 飲みすぎてぶっ潰れました。

 全裸なのに。

 この街寒いのに。


「うっ、吐く!!」


 これから日が沈んで、どんどん寒くなる。

 せめて、せめて家の中に入りたい。


 入りたいけど体が動かない!!


「だ、誰か助けて……」


 アンフを召喚する気力もなく、俺は気を失った。

 こうして、俺の異世界生活は、泥酔の末凍死という結末で幕を……。


「はっ!! あ、朝!! よ、よかった生きてた!!」


 閉じ損なったのでした。


「いでで!! 頭がいてえ!! ちくしょう、全身ゲロまみれだ」


 もう、二度と酒は飲まん。

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