第16話 ラスプ再び

 大妖精様から飛翔石を貰ったことだし、ラスプに会いに行こう。

 一度行った場所へワープできる飛翔石を使えば、簡単に知り合いの様子を見に行けるのだ。


 というわけで、俺は飛翔石を天にかざし、


「ダホン城へ!!」


 と叫ぶと、石が光りだして、一瞬のうちにダホン城玄関までワープした。


「おぉ、すげ」


 玄関扉は簡素な板で補修されていたが、門番の魔法鎧兵たちは、まだ壊れたままだ。

 ロヲロヲさんじゃないと直せないんだろう。


「おじゃましまーす」


 今度はきちんと、扉を開けて入る。

 すると、


「ワンワン!!」


 数匹の犬や猫が、一斉に集まってきた。

 こ、こんなの、前はいなかったぞ!?


「ちょちょちょ、近づくな近づくな。食いもんなんかねえぞ」


「おや、ソウジ様」


 2階からラスプが降りてきた。

 青い髪を揺らし、ゆっくりと近づいてくる。


「ひ、久しぶり!! てかこいつらどうしたの?」


「食べ物を求めてお城にやってきたのです。いまは、わたくしが保護しております」


 街の野良犬や野良猫か?


「保護って、餌はどうしてんの?」


「運良く、野良スライムが紛れ込んできてくれたのです」


「スライム?」


「繁殖力が強く、栄養価も高いので、地下で増やしています」


「食用スライム牧場かよ……」


 あんまり見たくないな。


「スライムの餌は?」


「ネズミも繁殖させています。ネズミの餌も、スライムです」


「すげーな」


「究極のスーパーメイドですので。あとでお見せしましょう」


「い、いいよ」


 犬や猫が元気ならそれでいいです。

 にしても、元気すぎやしないか?

 めっちゃペロペロされてるんだが。


 それに、ワンワン吠えてうるさい。


「ラスプ、ちょっとどうにかして」


「かしこまりました。……ハウス!!」


 あ、一斉に2階へ駆け上がっていった。

 よく調教されてんじゃん。


「犬猫のお世話もお手のものってか。さすがスーパーメイド様だな」


「ちなみにソウジ様」


 はじまったよ。


「つい先日、あの子たちに逆立ちを習得させました」


「嘘つけ」


「空も飛べるようにしました」


「絶対嘘だろ」


「事実です。究極のスーパーメイドですから」


 究極すぎるだろ。

 サーカスでもやるつもりかよ。


「それで、今回はどういったご用件でしょう?」


「ん、いやまあ。飛翔石って一度行った場所にワープできる便利な石を手に入れてさ。久しぶりに会いたいなと」


「左様ですか。残念ながらわたくしは愛玩メイドではないので、恋愛感情を抱かれても困りますけど」


「ちげえよ!! 友達と話したいなくらいのテンションで来てんだよ!!」


「え、とも……だち……ですか? わたくしたちが?」


「傷つくからやめろ!!」


「ちなみにこれまで三〇〇億人から告白されたことがあります」


「地球の人口どうなってんだよ。飽和しまくりだろ」


「ちなみに常に一万人からストーキングされていました」


「それは武勇伝じゃねえ!! 警察案件だ!!」


「警察にどうこうできる数ではないでしょう」


 そ、そりゃそうだが。


「ロヲロヲ様の手がかりは見つかりましたか?」


「急に話の温度変えるな。……んまあね、アルエース大陸へ渡ったらしい」


「アルエースですか。デッ海を超えなくてはいけませんね」


 なにその激寒親父ギャグみたいな海の名前。


「そうなんだよ。船で行こうにも、航海の知識なんかないし、一人で船を動かすこともできないだろ? 参ってんだ」


「それは困りましたね。わたくしなら、10tの重荷を背負ってもデッ海を走り抜けることができますが」


「水面走りってことかよ。じゃあやってくれよ」


「城から出るわけにはいかないので」


 こ、こいつ、上手いこと逃げやがって。


「だから当面、渡航の計画を立てながらのんびりするつもり」


「左様ですか」


 また図書室にこもって情報集めでもしようかな。

 今度は数日かけて、みっちりと。


 なんにせよ、今日はふかふかのベッドを借りて寝よう。

 車中泊は体が痛くなるんだ。


「お部屋へ案内します」


「頼むよ」


 と、歩き出そうとした矢先。

 空中に眩い光が出現した。

 嫌な予感がする……。


 まて、マヤハちゃんの可能性だってあるぞ?

 ……無いか。


「てんててーん!! 久方ぶりですねえ、ソウジさん!!」


 ほら違ったよ。

 あの長い金髪。ムカつく面。

 間違いなく、アンフだ。


「ははははあ!! 実はですねえ、行ってきちゃいましたよ慰安旅行に。仲の良い女神グループで、三泊四日も滞在しちゃいました。もちろんマヤハも一緒でしたよ。なんですかあ? どこ行ったんだって顔してますねえ。教えて差し上げましょう、なんと!! なななななななななななななななななななななななななななんと!! あの『天界最上級温泉』です!! って知らないかあ、人間ですもんね、知らないかあ、残念!! もちろんお土産ありますよ。お土産を渡したくて会いにきたんです。わざわざ。わざわざわざわざ。この私が。……ガサゴソ、はいこれ、お土産です。ふふふ、途中で立ち寄ったラーメン屋のレシートです。ソウジさんへのお土産なんてこんなもんですよ」


 犬より元気じゃんこいつ。


「うっそー。嘘ですって。冗談ですってー。キレないでくださいってー。短気な男は嫌われますよ? って、嫌ってくれる人間もいないわけですけど。なんっつって!! はははあ!! はい、これが本当のお土産です。旅館の人に無料で貰ったボールペンです。ほら、きちんと書いてあるじゃないですか、『天界最上級温泉』って。よかったですね。ボールペンあると便利じゃないですか? よかったですね。ふふふ、まあ、ソウジさんへの好感度はこの程度だってことですよ。悔しかったら上げてください。好感度。……お!! 一句できました!! 『悔しけりゃ、上げてください、好感度』ちなみに季語は『悔しけりゃ』です。はははあ!!!! …………ん?」


 あ、アンフがラスプに気づいた。

 実は初対面なんだよな。


 なんだろ、アンフのやつ、わなわな震えだしてるぞ。


「な、ななな!!!! なんですかあの女は!! 私というものがありながら!! バチクソ浮気じゃないですかこんなの!!」


「好感度低いんじゃなかったのかよ」


「低いですが!! ソウジさんの恋人候補一覧にデカデカと名前が刻まれているはずじゃないですか!!」


「候補なら恋人じゃないじゃん」


「ああ言えばこう言う!!」


 ぐいぐいっと、アンフがラスプに詰め寄った。


「なんですかあ? えっちなことするメイドなんですかあ?」


「いえ、主に家事全般を任されています。ラスプと申します」


「嘘です!! 絶対えっちなことするメイドです!!」


「しません。ちなみに全国えっち知識コンクールで毎年優勝しています」


「は、冗談を」


「ちなみに邪悪な鬼の軍団、十二金月を単独で壊滅させたことがあります」


「嘘ですね」


「宇宙最強のブリーザ軍を壊滅させたことがあります」


「そんなわけありません」


「シオン公国のモビルスーツを全機爆破したことがあります」


「……冗談ですよね?」


「事実です。究極のスーパーメイドですので」


「すげええええ!!!!」


 あぁ、今日はゆっくり眠れそうにないな。

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