第3話 ひとりの限界
「4WDって最高だぜーっ!! うひょー!!」
八神ソウジ村全焼から3日後、俺は馬車道をスポーツカーで爆走していた。
免許なんか持っていない。けど、この世界に交通機動隊なんているわけもなく、車を召喚して走らせているのだ。
「オフロードでもスリップしねえ!! これが四駆ってやつかあっ!!」
車は良い。
寝れるし、エンジンかけていれば暑さや寒さも凌げるから。
ちなみに、どうやら俺が召喚する物は、現世から直接持ってきているらしい。
つまり、この車は誰かの物ってわけ。
「いえーーい!! 風と一つになっているぜえええい!!」
あ、ガソリンが切れた。
しょうがない、別の車を召喚して……。
「って、なにやってんだか、俺」
急に冷静になってしまった。
現実逃避している場合ではない。
拠点となる村を探さなければ。
「お腹減ったなあ」
リュックからパンを取り出す。
変な臭いがする。
たぶん、もう食えない。
「はあ」
シートを倒して、俺は寝転んだ。
そういえば、異世界なのにモンスター的な物を見ていない。
野生のオオカミやクマみたいなとは遭遇したけど、ゴブリンとか、ドラゴンなんかは全然だ。
人間以外の種族も絶滅しているのだろうか。
エルフ、ドワーフ、その他諸々。
「コンビニが恋しい」
いけない、涙が出てきた。
動き出せ。ぼーっとしていても腹がどんどん減っていくだけだ。
「よし、今度はもっと高性能な車を召喚!!」
本当の持ち主さん、ごめんね。
「お、今度はパトカーか。パトランプってどうやって点けるんだろう」
そんなこんなで、パトカーを走らせていると、
「民家だ!!」
ポツンと大きな家が建っているのが見えてきた。
しかもただの民家じゃない。
あれは……牧場だ。
「よしよしよし!! あんなところに建てているんだ、保存食的なもんだってあるはずだ」
パトカーを停めて、さっそく中へ入っていく。
牛舎がある。羊小屋もだ。
なるほど、農業だけでなく、酪農までしているようだ。
まずは家に入って、食料探し。
「よくわからん果物発見!!」
皮が厚いし、柑橘系か?
ナイフを召喚し、半分に切って食べてみる。
「甘い……」
舌が幸福で満ちる。
ここ数日、ずっと硬くて味のしないパンばかり食べていたせいか、最高に美味な果物に感じる。
「ほ、他には……野菜まである!! しかもまだ傷んでない!!」
奇跡。まさに奇跡。
神は俺を見放していなかった。
美味しい。
味があるって美味しい!!
やばい、また涙が出そう。
「よし、今度こそ、今度こそここを拠点とする。八神ソウジ邸と名付けるぞ!!」
家畜たちの様子も見てみるか。
鳴き声が聞こえる。元気なこった。
牛舎に近づくにつれ、異様な臭いが鼻をついた。
たぶん、糞の臭いだ。
しょうがないよな。管理する人間がいないんだから。
「え、ってことは……」
駆け足気味に牛舎に入る。
牛たちは、虚な瞳で横たわっていた。
横になったまま、鳴いていたのだ。
元気なんじゃない、苦しんでいるんだ。
餌をあげる人間がいないから。
羊小屋も同様であった。
腹を空かせて、明らかに生気が薄い。
「待ってろ、いま俺が……」
納屋を開けて、餌を探す。
それっぽいのが、麻袋に入っていた。
これを上げれば、元気になるはずだ。
「……」
ふと、手が止まる。
元気にして、どうなる。
ここにある餌は有限。
いつかはなくなる。
仕入れ先なんて機能していないはずだ。
その都度俺が作るのか。
どうやって?
一人で穀物を育てるのか?
藁を集めるのか?
掃除、搾乳、羊の毛刈り、全部一人でできるのか?
家畜なんて育てたこともないのに。
自分の命すら、危ぶまれている状況なのに。
「…………」
ダメだ、見捨てるなんてできない。
少しでも長生きさせるべきなんだ。
「やれるだけやろう」
牛や羊に関する本を召喚する。
知識を蓄えながら、どうにか餌をあげていく。
いきなり元気にはならないだろうが、これでいいんだ。
すっかり暗くなってしまった。
家に戻り、ベッドに飛び込むと、俺はすぐに眠ってしまった。
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「ん……朝か……」
やばい、ガチで爆睡してた。
夢を見た記憶すらない。
そんだけ疲れていたんだな。
しかも、この世界に来てはじめてのベッドだし。
「はぁ……ため息ばっかり」
家畜の様子を見に行こう。
靴を履き、外にでる。
よかった、家畜たちは生きている。
「さて、今日は掃除でもしますか」
そんな生活が3日ほど続き、ついに納屋に保管されていた餌が無くなった。
本で読む限り、牛や羊の餌を作るには、相当の牧草や穀物を必要とし、手間もかかる。
「…………」
間引き、するしかないか。
でも殺した家畜は、どうやって処理すれば良い。
焼くか? 埋めるか?
仮に間引きしても、こんな生活ずっと続けられる自信がない。
素人独りでは、無理だ。
「どうしよう」
わからない。
なにも考えたくない。
疲れた。
「…………」
最低な発想が脳内を支配する。
あの女神、アンフは、俺が生前で徳を積んだから異世界に飛ばすと言っていた。
野良猫を保護したり、老人を助けたり。
けどあんなの、救う余裕があったからできたこと。
極限状態のなかで何かを救えるほど、俺は、強くなかった。
物質召喚スキルを使っても、俺一人が生き抜くので精一杯だ。
それから俺は、家にあった地図や毛布、ナイフをリュックに詰めて、車に乗り込み逃げ出した。
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