第4話 さみしい夜は

 牧場があるなら、近くに街があるはず。

 そんな期待を胸に車を走らせていると、


「本当にあったよ……」


 城壁に囲まれた、大きな街が見えてきた。

 中央にあるのは城か? つまりここは城下町。かなり発展しているはずだ。


「ラッキー、門開いてるよ」


 躊躇うことなく入っていく。

 古い街並みだが、八神ソウジ村と違って殆どが石造りだ。


 これなら火災の心配はない……はず。


「車はキツイか」


 道幅に余裕はあるけれど、なんせ俺は無免許。

 市街地を走る気にはなれない。

 一応、借り物の車だし。あちこちぶつけちゃ悪いでしょ。


 俺は車を消して原チャリを召喚した。

 当たり前だがノーヘルである。


「食料があれば……っても、俺が異世界に来て一週間。人がいなくなって一週間近く経ってるし、食えるもんなんかないか」


 パン粉があれば、パンくらい作れるかもしれない。


 だいたい20キロ程度で走っていると、


「え!?」


 屋台にあるカビの生えたパンを貪っている、小人たちを発見した。

 緑色の肌、体格の割に大きな頭部、手に持った棍棒。


 いかにもって感じの……。


「ゴブリン!?」


 俺の声に反応して、3匹のゴブリンがこっちを向いた。

 驚いた。本当にいるんだ、ゴブリン。


 そうだよな、異世界なんだもんな。

 って、それどころじゃない。


 明らかに警戒している。


 下手をすれば襲いかかってくるぞ。


「えーと、ハロー!! じゃねえか、あの、その、話せばわかる……」


「ウキャアアアア!!!!」


「わあっ!! ごめんなさい!!」


 何謝ってんだ俺。

 くそ、どうにかして追い払わないと。

 刀を召喚……無理無理。剣術の心得なんかないし。


 ならここは無難に銃か? いやいや、囲まれたり接近されたら対処できねえぞ。


「よし、爆竹召喚!!」


 あとはこれに火をつけて………。


「ライター召喚!!」


 あ、やべ、爆竹消えちゃった。

 物質召喚は一度に一つまでなんだった。


「ウキャキャアアアッッ!!」


 やばいやばい、パンを奪う敵だと思われてる。

 痺れを切らして襲いかかってきそうだ。


「そ、そうか。でっかい車を召喚!!」


 どどんと、10トントラックが召喚された。

 ラッキー!! めっちゃでかい。


 すぐさま乗り込んで、エンジンをかける。


 その駆動音が、ゴブリンたちをビビらせた。

 さらに、クラクションを鳴らす。


 心臓を貫くような嫌な爆音が、ゴブリンたちを完全に怯えさせる。


 そそくさと逃げていくゴブリンを眺めつつ、ホッと胸を撫で下ろした。


「なんつーカッコ悪い異世界初戦闘だよ」


 こんなんなら、もっとエゲツないチート能力でも頼んでおけばよかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 適当な家に入り、ベッドにダイブする。

 もう、他人の家に無断侵入するのにも慣れてきた。


「はぁ、疲れる」


 運転って、想像以上に疲れる。

 ずっと座っているから体も痛くなるし。


「……俺のスマホ召喚」


 現世から、俺が使用していたスマホが送られてくる。

 連絡を取りたいわけじゃない。


 たぶん、この召喚システムを上手く利用すれば、現世にいる親と連絡を取り合えるのだろうが、する気はない。


 したところで、親に余計な心配をかけるだけだ。

 というか、虚しくなる。


 もう二度と顔を合わせられないんだって、再認識しちまう。


「バッテリー、もうないじゃん」


 それでも構わず、俺は音楽を流した。

 目を瞑って浸る。

 生前好きだった曲。アーティスト。歌詞。


 この世界にきて、いろいろしんどい目に遭ってきたけど、一番辛いのは、孤独感だ。


 衣食住なら、ぶっちゃけどうにかなる。


 けどこれだけは、どうにもならない。

 知らない土地。知らない世界。しかも、誰もいない。


 気が狂いそうになる。


 現世で家に引きこもって人に会わないのとはわけが違う。


 だから、こうして『人の声』を聴いて孤独を癒しているのだ。


「そういえば、あの女神、アンフだったか。寂しいときは話し相手になるとか言ってたな」


 どうやって呼ぶんだよ。

 俺のスキルで召喚できんのかな?

 無理だろうな、生物には効果適用しないし。


「まあいいや、アンフ召喚」


 目の前が眩く光り出す。

 おいおい、まさか召喚できちゃうのか?


 ドキドキしながら待っていると、


「え」


 全裸で自分の胸を揉んでいるアンフが出てきた。


「うわ!! なにやってんだお前!!」


「ソウジさん!? ど、どうして私がここに!?」


「しょ、召喚できちゃったみたい」


「ええ!? 私、女神なのに!?」


「女神は……生き物じゃないのかな」


「どういう判定ですか」


 とかお互いビックリしつつも、アンフはまだ胸を揉んでいた。


「ちょ、手の動きやめろよ。なにやってんだよ」


「すみません、ムラムラしたから慰めていました。……ってひぃ!! 裸を見られてるじゃないですか!! 変態!!」


 いまさらかよ。

 とりあえず、家の押し入れにあった服を与えてやった。

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