第9話 観光、神話、マヤハちゃん

「うわ〜、でっかい鳥」


 太陽が燦々と輝く昼下がり。

 俺はいつものように車に乗って馬車道を走っていた。


「フライドチキン食べたいなあ」


 というか、揚げ物ならなんでもいい。

 油が欲しい。

 油を食いたい。

 なんでもいいから油をちゅーちゅーしたい!!


「はぁ、えーっと」


 車を停止させて、チェキで撮ったレハー国の地図を確認するため、バッグを漁った。


「あれ?」


 地図がない。

 ていうか他の写真もない。


「あ」


 召喚できるのは一つまで。

 俺はいま、車を召喚している。

 つまりチェキから出された写真が、消えた。


「……」


 どうして俺ってこうもバカなんだろう。

 生きるの嫌になっちゃった。


「ん?」


 バッグの奥底に封筒が入っている。

 ラスプからだ。こっそり入れたのか?

 なになに。


【ソウジ様へ もしものために私が模写した地図を入れておきます。究極のスーパーメイドより】


 ほ、本当だ、手書きの地図が同封されている。


「ラスプゥゥ!!」


 やばい。スーパーすぎる、あの子。

 好きになっちゃいそう。

 てか好きになった。

 結婚しよう。ラスプと結婚しよう。


 感謝カンゲキ雨嵐。


「ってそれどころじゃない」


 改めて地図を確認。

 たしかこの先にあるはずなのだ。

 トーライ神殿なるものが。


 なんでも古代人が建設したものらしく、数千年経っても綺麗に現存している奇跡の神殿らしい。


 なぜそんなところに行くのかって?

 観光っす。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん、街が見えてきた」


 レハー国西部に位置する古の町、ブラー。

 もともと、とっくに朽ち果てた村だったのだが、近年大勢の人間が移住し、少しずつ街としての機能を取り戻しているとのこと。


 まあ、いまは誰もいないんだが。


「ブラーがあるってことは、方角は合ってるんだ」


 街を素通りして、さらに少し進む。

 やがて丘に差し掛かると、


「あった!!」


 発見した。

 トーライ神殿。


 外観は非常にパルテノン神殿に似ている。

 何本もの灰色の石柱が建物を支えていて、周りには強面の石像が並んでいた。


「欠けてもいないじゃん。補修したのかな?」


 当時はすべて金色だったそうだが、さすがにハゲてしまっている。


 さっそく車から降りて中に入ってみる。


 神殿の中には巨大な女神像が建っていた。

 彼女の周囲を、羽の生えた四人の少女の像が囲んでいて、さながら召使のようであった。


「ほえ〜、立派だなあ。たしかレハー国の神話だと、最高神なんだよな。……ん?」


 あの女神像、なーんかムカつく顔してるな。

 なんだろう。表情は凛々しいんだけど、何故かムカつく。


 ぶん殴りたくなる顔だ。


「うわ……」


 まさか、まさかまさか。


「ア、アンフ召喚!!」


 そう唱えると、M字開脚をしているアンフが現れた。


「あ」


「うわ、なにしてんのお前!!」


「なにしてんのって……なんでソウジさんは私がムラムラしているタイミングで呼び出すんですか?? 監視してます?」


「してねえよ。それよりアレ!!」


 女神像を指差す。


「お〜、懐かしいですね」


「や、やっぱりアレは……」


「私がモデルの像ですね」


 そうなのだ。

 あの女神像、顔がこいつにソックリなのだ!!


「な、なななな、なんで!?」


「なんでって、そりゃ女神だからですよ。まだ人類が誕生したばかりの頃は、様子を見に何度かこの世界に来たんです」


「お前神話になってんじゃん!!」


「もー、さっきからうるさいですよ。別に誇るような話でもないんです。よくあることですよ」


「そ、そうなの?」


 しょっちゅう神話のモデルにされてんのか?

 こいつが??

 冗談は性欲だけにしろよ。


「例えば、ソウジさんの世界だって、神話に女性が登場するでしょう?」


「え、あぁ、日本神話とか、ギリシャ神話とか」


「そういうのに出てくる女神も、私か私の仲間がモデルです」


「そうなの!?」


「文明が発展する前の人類を導くのも、女神の仕事なので」


「マジかよ……」


 ショックがデカすぎる。

 ま、まてまて、日本神話のどれだ?

 女性の神結構いるぞ。


 まさかアマテラスとか言わないよな。

 ムリムリムリ!!!!

 太古から日本人はこいつを敬ってたとかそんな事実受け入れたくない!!


「じゃ、じゃあ周りにいる女の子たちは?」


「天使ですか。部下ですね」


「部下いるんだ……」


「懐かしいなあ。とくにこのときのメンバーは『アンフ四天王』と言って、よくみんなでパジャマパーティーとかハイキングとかしてました」


「仲良し女子大生かよ」


「私の全盛期でしたね」


「いまはいないの? 部下たち」


「人員削減やら結婚やらで、辞めてっちゃいました」


「生々しいな」


「あ、でも一人だけ残ってますよ。呼びますか」


「え!?」


 おもむろに、アンフがスマホのようなものを操作しだした。

 それから数分後。


「そろそろ到着します」


 アンフの隣が眩く光り、


「うぃ〜す」


 小柄で、パーカーを着た女の子が現れた。

 紫色のボブヘアー、内側はピンクに染めていて、現代っ子って感じ。


 インナーカラーってやつだ。あれどうやって染めてるんだろう。


 パーカーも紫色で、下は短いホットパンツ。


 こ、これが本当に天使か?


「アンフ先輩、久しぶりっすね〜」


「こらマヤハ!! 先輩が呼びつけたら一分以内に来なさいと何度も注意してますよね」


「ははは、めんどくせー」


 な、なんだこの子……。


「んお、懐かしいもんがあるじゃないっすか。はは、めっちゃ真面目な顔してる。うわ〜、ド新人でめちゃくちゃ緊張してた頃じゃん」


「このときのマヤハが一番可愛かったですね〜」


「いまの方が可愛いっすよせんぱーい。……ん?」


 あ、俺に気づいた。


「あー、この人が前に先輩が言ってた人っすか。ども、マヤハっす」


「ど、どうも。八神ソウジです」


「へー、ふーん、よく見ると可愛い顔してるじゃん」


「え!?」


「ははは、んな簡単に発情すんなよ〜」


「し、してねえよ!!」


 何なんだこの女。

 やばいぞこいつ。


 ぶっちゃけかなり……好みだ。

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