第10話 叩き上げ女神

「先輩の彼氏っすか〜?」


 マヤハちゃんが俺の顔を見ながらアンフに問いかけた。


「んなわけありません。ただソウジさんは、私に気があるみたいですけど」


 勝手なこと言ってんじゃねえアホ女神。


「ふーん。そうなの? ソウジくん」


「いやいやいや、全然全然!!」


「はは、どんだけ否定すんだよ。ウケる」


 この感じ。

 この掴みどころがない感じ。

 小柄だけど態度がでかい感じ。


 やばい、惚れそう。


「ソウジさん。彼女はもともと天使でしたが、今は女神です。天使から女神へと出世した叩き上げ女神なのです」


「そうなんだ」


「ちなみに私は生まれてからすぐに女神になったエリート女神です」


「あっそ」


 どうでもいい情報ありがとう。


 マヤハちゃんが俺の腕を掴んだ。


「へー、意外と筋肉あんじゃん」


「ど、ども」


 距離感が近い!!


「さてと」


 マヤハちゃんが離れてしまった。


「先輩、私まだ仕事あるんで」


「ん!! また今度飲みましょう!! 四天王全員集めて!!」


「それはもちろん?」


「割り勘です」


「ははは、変わってないっすね〜。りょーかいっす。じゃ」


 ええええ!! マヤハちゃん帰るの?

 早くない? まだ数分しか経ってないよ?


 俺の脳内悲鳴など聞こえるわけもなく、マヤハちゃんは俺に軽く手を振って、消えてしまった。


 そ、そんな……。


「てなわけで、アンフ四天王の最年少、マヤハでした」


「あ、あの子は結婚しなかったんだ……よね?」


「そうですね。男がいるなんて噂も聞いたことないです」


 よっしゃ!!


「昔は素直で、すぐテンパってて、可愛いかったんですけどねー。本人は今の方が可愛いとか抜かしてますけど」


 今の方が可愛いだろ。


 なんで俺の世界を担当してたのがマヤハちゃんじゃないんだ。

 無慈悲すぎる。

 この世に神はいないのか?


「ではソウジさん。私も女神の仕事があるのでそろそろ帰してください」


「あ、うん。じゃあね」


「ばいばいでーす」


 アンフまでいなくなってしまった。

 急に独り。

 急に孤独。


 異世界に来て、こんなにも寂しいと感じたことはない。


 トボトボと車に乗り込み、シートを倒す。


「手、小さかったな……」


 それから一日、俺はまったく動く気になれず、狭い車内で過ごした。


「良い匂いだった……」


 それに比べてアンフはニンニク臭かったな。

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