第6話 はじめての魔法

 なぜこの異世界から人がいなくなったのか知るためには、大前提としてこの世界の知識が必要になる。

 幸運にもここは城下町。


 城に行けば、図書室があるはずだ。


 城は深い堀と柵に囲まれているが、正面通路に橋が架けられている。


 本来であればガチガチに警備させれているはずだろうが、もちろん警備兵などいない。


「門が開いてる。不用心だな」


 街に入る門も開いていた。

 そういうものなのか?


 門を超えて、城を見上げる。

 西洋風の城なんてものは写真で幾度も見たことあるし、テーマパークにも似たようなのがある。


 しかし、こうも実物を間近で眺めると、感嘆の一言に尽きる。


「ほえ〜。でっか」


 視線を上げすぎて腰を抜かしてしまいそうだ。


 気を取り直して、広い庭園を進んでいく。

 水をやる人がいないせいだろうか、色鮮やかな花々は、少し水気を失い萎れていた。


 やがて玄関扉の前に到着する。

 両脇に飾られた西洋甲冑の置物が、異様な存在感を醸し出していた。


 まさか、人が入っているわけでもあるまい。


「鍵空いてるのかな」


 構わず扉に手をかけようとしたとき、


「うわ!!」


 2体の甲冑が動き出し、腰に差した剣を抜いたのだ。


「え!? え!?」


 慌てて距離を取る。

 人なのか? あ、ありえない。もし人が入っているなら、警備している場合じゃないだろ。


 ならモンスターなのか? それにしては、さっきまでピクリとも動いていなかったけど。


「もしかして……魔法?」


 可能性はある。

 だって異世界だから。


 自動で玄関を守る警備魔法、的なものなのかもしれない。

 なんであれ、どう突破するか。


「ゴブリンみたいに音で逃げるわけもないし……」


 守るべき主人なんかいないのに、律儀に城を守り続けるとは、泣けるね。


 城の周りをぐるっと歩いてみたが、窓の側には必ず鎧兵がいた。

 隙がない。


 もう一度正面玄関に戻り、策を練る。


「車でぶっ飛ばそうにもなあ」


 玄関の前は階段状になっているので不可能だろう。


「爆弾が使えればいいんだけど、召喚できるのはひとつだけ。ライターだしたら爆弾は消えるんだよな。……あれ?」


 そもそもおかしくないか?

 ライターは所詮、火を起こすための道具。

 必要なのは火だろ。


「なんだそっか」


 庭園に戻って花を摘む。


「ライター召喚」


 花に火をつけて、


「ダイナマイト召喚」


 燃える花に導火線を近づけた。

 火の中継地点を挟めば良いだけの話だったのだ。

 いまさら気づくとは、俺もバカなもんだ。


 とにかく、導火線に火をつけて、玄関に向けてダイナマイトを投げる。


「ほんとに爆発するのかな」


 一応本物だし、爆発するに決まっている。

 音や衝撃が怖いので、正門辺りまで全力疾走して逃げる。


「どきどき」


 数秒して、玄関の方から、


「うわあ!!」


 ズバアンと、乾いた轟音が聞こえてきた。


 おそるおそる近づいてみれば……。


「うーわ」

 

 鎧兵もろとも、玄関扉は木っ端微塵になっていた。


「俺、かなりヤバいことを平然とやった気がする」


 この世界に来てから、確実に俺の倫理観が崩壊している。

 鎧兵の残骸に合掌してから、俺は城に侵入した。


 その瞬間、


「ようこそいらっしゃいました、お客様」


 短く青い髪をした、無表情のメイドさんが現れたのである。

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