第22話 修行回

※前回までのあらすじ


ソウジ、謎の女に拾われて、修行をつけてもらうことに。

謎の女は魔王のお姉ちゃんだった。


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「よし、いいかソウジ」


「はい!!」


 ついにはじまった俺の修行。

 いいね。いいじゃん。異世界で未知の力を得るための修行。

 ようやくらしくなってきたじゃん!!


 まあ、できるなら最初から最強チートで無双しまくるのが理想だったけど。


「強くなるために必要なのは、気合だ」


「そうっすね、気合がないとはじまらないっすもんね」


「うむ!!」


「はい!!」


「……」


「……」


「……」


「……は? 以上っすか?」


「他にないもん」


 えぇ〜。

 なにいってんだこの人。

 見て覚えろ的な時代錯誤なこと言い出す感じなのかなあ。


「いや、ほら、こう、もう少し具体的な説明をしてほしいです。難しい呪文を覚えるとか、厳しい精神統一を経なくちゃいけないとか」


「ははは、魔法を覚えるんじゃないんだから」


「魔法じゃないんですか?」


「魔法は弱者の技だ。少ない魔力で小手先だけの技を繰り出すセコい術だ、あんなもん」


 あんなもん呼ばわりっすか。


「真の強さとは、肉体に溢れる生命エネルギーのパワーを直接使うことだ」


「いまいちよくわかんないです」


「しょうがない。よく見てろよ」


 スクランさんが森に向けて手をかざした。

 なにか発射するのだろうか。火炎弾とか、ビームとか。

 ドキドキしながら待っていると、


「ふん」


 スクランさんから強烈な烈風が放たれて、視界に見えていたすべての木が空の彼方へ吹き飛んでいった。

 緑生い茂る豊かな森が、一瞬で荒野だ。


「え」


「こんなもんかな。だいたい全力の10%でこれくらいはできる」


「こ、これは……ま、魔法すか?」


「だから魔法ではない。強いて名称をつけるなら、魔力操作だ。今回は生命エネルギーをぶつけたが、足元に放てば空も飛べる。物に宿せば、威力を上げることもできる」


 ピストルの銃弾の威力を上げたみたいに、ってことか。


「あの……」


「なんだ」


「失礼なこと言ってもいいですか」


「例えば?」


「理屈はわかりました。単純なパワーで悟空みたいになれってことですよね」


「ゴクウ?」


「でも、汎用性が高くていろんなことができる魔法の方が、便利じゃないんですか? これだと火を起こしたり、動く人形を作ったりとか、できないですよね」


「……」


 あ、やば、地雷踏んだ。

 死んだわ俺。

 だ、だって気になっちゃったんだもん。


 スクランさんがため息をついた。


「ま、そうなるわな」


「お?」


 怒られない?


「だから人間は魔法を覚えるのだ。人間は魔族と違って生き物として弱いから」


「はぁ」


「魔族には、自分で火を吹けるものや、幻覚を見せる特性を持つものがいる。その長所を、魔族は魔力操作で強化しているのだ。小手先だけの技を10個使うより、強力な1つの技を使うほうが、戦いでは有利なのさ」


「そんなもんなんですかねえ」


 魔族には魔法を覚えるだけの知能や忍耐力がないだけじゃないの?


「それに、お前に魔法はいらないだろう? いろいろ出せるみたいだし」


 たしかに、俺には物質召喚のスキルがある。

 火が欲しいならライターを召喚するし、速く移動したいなら車を召喚する。

 なるほど、ならば出した物質を強化できる魔力操作の方が便利、なのかな。


「わかったか?」


「は、はい」


「では早速修行開始だ。全身に漲るエネルギーを感じ、飛ばしてみろ」


「あ、はい。えっと、だいたいどれくらいでできるようになるんですか?」


「センス次第だが、まあ一年もあればコツは掴めるだろう」


「一年!?」


 いやいやいやいや、長すぎるでしょ。

 そりゃ修行は辛く長いものだって覚悟してたけど。


 うわ〜、まずい。潮が引いて大陸が渡れるようになるまであと二〇日。

 一日でも過ぎたらまた来年。


 逆に来年まで待つか?

 たしかに、弱いまま大陸を渡っても、バンパイアみたいなのに襲われたら死亡。それじゃ意味ないしな。


 しょうがない。一年、本気で頑張るか。


「目を閉じろ」


「はい」


「自然と自分の間にある境界線を感じるんだ」


「はい」


 境界、俺と俺以外の狭間。

 そこに漂う、エネルギー。


「うーむ、良い魔力量だ。やはりお前、ただの人間ではないな。さすが、女神の知り合いだ」


 女神……アンフか。

 そういえば、あいつから貰ったスキルを使うとき、少しだけ気分が高揚するんだよな。

 ぽぉっと、全身に熱が湧き上がる感じ。


 あれが生命エネルギーなのか?

 わからんけど、あの感覚を呼び起こす気持ちで。


「……ソウジ、手をかざせ」


 言われるがままに腕を上げる。

 スクランさんみたいに、魔力を放出してみたい。

 こう、手にエネルギーをためるイメージで……。


「放て」


「っ!!」


 ボウ、と空気を貫く音と共に、俺の手から突風が放たれた。


「で、きた?」


「ふふふ、一年どころか一分か。私の次には才能があるようだ」


「お、おぉ〜」


 これも転生者補正ってやつ?


「気を抜くなよ。まだまだお前はヒヨッコなんだからな」


「はい!!」


 楽しくなってきた。

 残り二〇日。完全に魔力操作を使いこなしてみせる。




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※あとがき


修行は今回で終わりです。

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