十六話 別れ
——制服姿になった三人に声をかける。
「……貴様ら、準備は出来たか?」
「こいよ。和菓子も食ったしな。」
「うん。美味しかったよね。」
「だろ?……っ痛った!?」
山崎が谷口の頭を殴る。
「!?何すんじゃい!!」
「いや、何かお前がドヤ顔だったからつい…」
「え……今までで、一番理不尽じゃね?この暴力。」
「あはは…」
こんな時でもそんな会話をする3人を見ながら、サリはため息を吐いた。
「…最後に3人に言いたい事がある。」
流石に空気を読んで3人は黙る………谷口だけ、にやけ顔だったが。
「まず、小僧……改めて、我の配下にならないか?貴様と我ならこの世界をいや、他の異世界をも手中に収められるだろう。」
「断る。そんな事に興味は無いな…ああでも、仮にまたここに来る日があれば、また相手してやるよ………今度は全力でな。」
「…そうか。」
サリは次にやまねを見る。
「小娘。たしか…姉だったか。早く見つけられるといいな………我は会いたくないが。」
「…ありがとうございます!必ず見つけます!!」
谷口とともに町を監視している時ふと、やまねを目の能力で視た瞬間、気づいてしまった。
(実は、ずっと貴様の傍にいるのだがな……)
もう何も言うまい。この件はあの道化が何とかするだろう。無駄に干渉すればおそらく、我の命はないだろうし………それよりもだ。
「貴様……実は男だったのだな?」
「!?……だ、騙してすみませんでした。」
「よいのだ。この我の目を使わなければ、分からなかったのだ……その美貌、大切にせよ。」
「あっ……はい!」
心なしか、複雑な表情をしていた気がする。
「…この流れ的に次は私の番だね!どんな事を聞いてくるのかなぁ?楽しみだね☆」
「……はぁ。」
目を輝かせながら、谷口はサリを見ている。
「…道化よ。」
「何だい、何だい?言ってみなよ!私達の仲じゃないか。ほらほらぁ〜〜〜。」
(……聞こえるか?)
(…うおっ。突然、脳を共有してどうしたの?何か、言いにくい事でもあったのかい?)
(我は……貴様が怖い。)
(えっ。唐突だね?)
(ほぼ全てが貴様の計画通りだ。こんな偶然があるか?)
(あったじゃん。今現在進行形で。)
(我は……貴様を一部とは言え、『視ている』。)
(…………。)
(………救った同族全てに裏切られた事も。そして、その顛末もだ。)
(……。)
(それでも何故、人間と仲良く出来る?)
(あーサリ君、さては勘違いしてるね。私は別に『あの時』の事を後悔なんかしてないし、怒ってもないんだよ。)
(何故だ!)
(ただ、私がやりたかったから……かな?)
(貴様、)
(そろそろ、やめた方がいいよ。やまねちゃんと山崎が不審に見てる。)
(……そうだな。)
魔法を解除する。丁度そのタイミングでやまねや山崎が声をかけてきた。
「どうしたの?2人ともずっと黙って見つめ合ってたけど……。」
「…ガンでも飛ばしてたんじゃねえの?」
「私レベルになると、話さずに会話を成立できるのさ☆…ね?サリ君。」
「フン………そうだな。」
サリが魔法陣を展開する。3人は光に包まれた。
「…此度の件、大義であった!!その恩は決して忘れぬ。我の名に賭けてな……さらばだ。」
3人は笑顔で言った。
「また、どこかで!」
「ハッ。じゃあな。」
「サリ君こそ、頑張れよなー。」
転移する間際にサリは小さく何かを呟いたが、何を言ったのか分からないまま、3人は元の世界に帰って行った。
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「——おい、谷口?」
「谷口くん?」
「……あっ。」
山崎とやまねが谷口をじっと見ていた。
「突然、黙ってどうしたの?」
「えっと、私達帰って来たんだよね…異世界から。」
山崎が顔を顰める。やまねも困惑しているようだった。
「…お前、ついに現実との区別がつかなくなったのか?……分かった。今、楽にしてやる。」
「ちょっ、え?マジで言ってる??覚えてないのやまねちゃん???」
「……ごめん。心当たりがないや。」
谷口はスマホを取り出し、日時を確認する。
そして空を見上げて、確信した。
(異世界に転移した日と同じだ。バックも持ってるし、これは…)
おそらく、サリがわざと転移先を異世界に行く前の時間に設定したのだろう……私達の異世界での記憶を消した上で。
(変な気遣いしちゃってまあ。生憎、私には効かないんだけどね。)
「はい、やまねちゃん〜お土産だよ。山崎君
にもほら。」
ポケットからお茶パックを取り出し、渡した。
「…お茶パックか。お前、さては茶道部から奪ったな?」
「人聞きが悪いことを言わないで欲しいなぁ。
ちゃんとした貰い物だよ。」
「…っ!これ玉露だよ!!聖亜くん!!!」
「俺は紅茶派だが、玉露は……悪くないな。」
「それは良かったよ。」
—お茶会の片付けをしている時に発見した。それとセットで手紙が添えられていて、内容は
『あの2人用のお茶です。僕の代わりに渡しておいて下さい。あなたが飲んじゃ駄目ですよ?』
(約束は果たしたよ……神崎君。)
「ちなみに私は湯呑みだよ。いいだろ〜。」
「うわぁ…趣があるね。」
「そうか?飲めれば何でも良いだろ??」
「はあ。これだから山崎君は…もっと美的センスを磨かないとねぇ?」
そうして3人は帰路につく。
「!?おい、俺の家鍵が変形してるんだが?今日誰も家にいないぞ……やべえ。」
「僕の家に泊まる?部屋余ってるし。」
「それは助かる。ありがとな、やまね。」
「何だい2人とも、私をハブるなんて100年早いぞ。」
「谷口くんも来ていいよ。用事とかあったら無理強いはしないけど。」
「無理?フッ。私の辞書にそんな言葉は無いね。否が応でもついていくとも。」
そんなこんなで3人は、やまねの家へと向かう。
行く途中、話をしながら谷口はふと思った。
(久しぶりの異世界、楽しかったなぁ。)
——たとえ2人が忘れていても、私だけが覚えている。
《第一部完》
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