九話 賭け/覚悟
城内の廊下を2人で歩く。
「…意外だったよ。てっきり私は地下牢とかに幽閉でもされると思っていたからさ。」
「あなたを1人にして、何かされるくらいならいっその事、僕と共に行動した方が対処しやすいと判断しただけですよ。」
谷口がニヤついた。
「本当かなぁ〜?実は、話し相手が欲しかったとか案外そんな理由なんじゃないの??」
少年は無言で谷口に指を向けた。
「おやおや、無言は肯定するって意味に捉えてもいいんだ、」
指先から赤黒く光る小さな球体が出てきたのを見ると、即座に言葉を切り、完璧な土下座を敢行した。
「…あれあれ?どうしたんですかぁ??さっきまでの威勢は……どこにいったんですかぁ?」
少年に頭を片足でグリグリとされる。ショタ好きならご褒美かもしれない。そんな事を思った。
「すんませんしたぁ!?調子乗りました!!!
何でもします!私は君の犬ですっ!!なので命だけは……命だけは勘弁して下さい!!」
少年は片足をどけた。
「じゃあ、三回回ってワンって言って下さいよ。」
「………。」
指は以前として、自身に向けられている。
……クルクルクル
「ワンっ!!」
「……っぶっ!?」
少年は吹き出した。堪え切れなかったようだ。
…指を下ろした。
「はははっ。……あなたといると、退屈しないですねぇ。」
「当然さ。私の唯一の取り柄だからね。」
ひとしきり互いに笑い合った後、谷口は言った。
「今からでも和平しない?君のやるべき事を全て投げ捨てて……さ。」
「無理ですね☆」
少年は勇者ではなく『剪定者』である事はここに来た時に教えてもらった……その目的も。
「これは僕にいや、『剪定者』に課せられた呪いの様なものなんですよ。だから止まらない…止められない。僕が死ぬまで永遠に。」
「……そっか。分かったよ。」
少年は意外そうな表情をした。
「てっきりもっと僕を説得してくると思いましたけど。」
「知ってるからね。こういう奴は大体、説得しても無駄だって事をさ。」
だからと言葉を続ける。
「…賭けをしないかい?」
「………賭けをですか?」
「もし、私の計画通りに君を打倒したら、お茶会をしよう。互いに一日中喉が潰れるまで、語り明かそう。」
「…では僕が勝ったら、この世界を滅ぼして、あなたの友達2人を目の前で殺し、あなたが死ぬまで、首輪をつけて飼い殺します。」
「賭け成立だな。君、やっぱ無しとか無しだからな。」
「当たり前です。そのセリフ、そっくりそのまま返しますよ。」
また互いに笑い合う。
その後は、城を巡りながら他愛の無い話をたくさんした。
少年は職務を忘れた様に本当に楽しそうに話したり、聞いたりした。
敵同士、まるで親友の様に。
時間は止まらない。
……………刻一刻と決戦は近づいていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……作戦は以上だ。」
「…………。」
書庫に沈黙が満ちる。先に口を開けるのは山崎だった。
「本当に谷口が考えた作戦なのか?」
「…そうだ。我も聞いた時は正気を疑った。」
「こんな物は作戦なんかじゃない。最早、特攻と同義だ。」
「道化曰く、『最初からやってればすぐ終われた。』だそうだ。」
「…はあ。どうせならこの世界を楽しみたいとか考えてたんだろうな。アイツ。」
やまねは決心した様に言う。
「でも、やらなくちゃ。そうでしょ?聖亜くん。」
「………そうだな。」
お互いに頷いた。
「…改めて確認だ。転移の札で小僧は城下町に、小娘は城付近に行く。そこで思う存分暴れて王国を滅ぼす。我は万が一が起きた時のバックアップとして書庫で待機……か。フン。確かにこれは作戦ではないな。」
サリはやまねの方を向いた。
「小僧ならともかく小娘よ、貴様にはあるか?
……人間を殺す覚悟が。」
やまねは考えるまでもなく即答した。
「無いです。けど、やらなくちゃいけないなら………殺します。それだけです。」
サリは軽く笑った。
「…道化が言っていた通りだな。」
この娘はどこかズレている。元々そうだったのか、それとも……。
(……我にはどうでもいい事か。)
思考を切り替える。
「貴様らは一日休め。明日は決戦だ。」
「はい。」
「そうか?じゃあ遠慮なく、」
書庫の外に出ようとした山崎を止めた。
「貴様は先の傷の手当てだ。まだ完治しておらん。」
「えー。またかよ。」
「『えー』ではないぞ小僧。むしろ心臓を撃ち抜かれて生きている、貴様に我はドン引きしているわ。………早く来い!!」
サリは山崎を引きずって、別室へと行った。
静かになった書庫の椅子に1人座る。
「…何か、大事な事を忘れている気がする。」
——聖亜くんが撃たれて倒れた時、ショックはあったけど、よく見る景色だった気がする。
◾️◾️
——ロンさんの頭が爆散した時も驚きはしたけど、何も感じない自分の方が怖かった。
◾️◾️
——浴びた血潮も、何故かとても……。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
いつの間にか椅子から立ち、走って書庫の外の森に来ていた。
「……っおぇぇ。」
……嘔吐した。感情がぐちゃくぢゃで何が何だか、わからない。一瞬何かがフラッシュバックした。
『認めろ!!テメェは俺様と同じで◾️ってんだよぉ!』
『…貴君は、まるで◾️◾️◾️◾️のようだな。』
『ありがとう。◾️を◾️ろしてくれて。…………◾️しています。』
……そのまま、やまねの意識は沈んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…気がついたら書庫にいた。
「えっ?………夢??」
どうやら座ったまま寝てしまっていたらしい。
肩には毛布がかけられていた。
「……どこから夢だったんだろう?」
寝ぼけた頭で考えていると、聞き馴染みのある声がした。
「まだ寝てたのか?……そろそろだぞ。」
「ごめん、聖亜くん、今行くね。」
2人は書庫の外に出るとサリが腕を組んで待っていた。
「……来たか。我から言う事はただ一つだ。」
「…………。」
「武運を祈る。…ちゃんと帰ってくるのだぞ。」
「はい!」「ああ。」
そう言って2人は札を使う。
「「『終幕』!」」
2人は王国へと向かった。
決戦の幕は切って落とされようとしていた。
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