十話 決戦

訓練場にはただ素振りをする音が響いている。

普段なら他の騎士もいるはずだが、皆立て込んでいるのか、誰もいなかった。


そこでただ1人、アモレは無心で剣を振っている。帰って来たら、家族が皆殺された事は驚いたがそんな事はもう……どうでも良かった。


——ただアイツを倒せるのなら、それでいい。


自身の矜持、プライドの全てを砕いたあの男を倒すためならどんな事だってやってやる。


「……団長!!」


その空間に異物が入った。アモレは素振りを止め、部下の方を見る。


「………何事だ?」

「城下町にて侵入者が暴れています!!」

「…数と容姿は?」

「はっ!…数は1人、黒髪の男です。鎮圧しようとした騎士の大半が戦闘不能に陥って、」


食い気味にアモレは言った。


「場所は?」

「……っ!城下町の西区です!!」


剣を鞘に納めた。


「…騎士団全員に伝えよ。そいつは俺1人で戦うと。残りの騎士は市民の避難誘導だ。」

「はっ!!」


部下は走っていった。


アモレは仄暗い笑みを浮かべた。


「ハハッ、来たか。今度こそ勝たせてもらおう。」


そう呟き、訓練場を飛び出し西区へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぐぁぁぁぁぁあ!!」

「はあ、また1人っと。」


殺しはしない程度に致命傷を与えながら。山崎はつぶやく。


「…丁度いいなコレ、手に馴染む。」


改めて、自身が持つ得物を見る。

武器としては刀に近いが、普通の大太刀の約3倍

程長い。初見では使いずらい事この上ないが、

山崎はそれをよく知っていた。


「俺がVRMMOで使ってたからな。サリの奴、こんなの持っていたのか。大方、谷口の入れ知恵だろうが。」


……襲いくる騎士達を切り捨てながら言った。


「ば、化け物…………!」

「何であんな物を上手く使えるんだ?!」

「そんなの簡単だろ。」


怯える騎士に谷口は言う。


「何十、何百、何千、何万、何億回とただ練習しただけだ……ただ、あの人に勝つ為に。」


言い切る前に、騎士達は倒れていた。


「…ああ、やり過ぎた。これじゃ弱い者いじめだな。」

「っ、見つけたぞ!!!」


後ろから大声が聞こえ、振り返る。

そこにはアモレがいた。


「…服が前と違うが、その黒髪にその剣技、見間違える筈もない。」


制服姿の山崎は首を捻って考える素振りをして…言った。


「……誰だお前?」

「…は?」


アモレは動揺した。だが、彼は知らない。

人は意識を失う直前の記憶をなくすことがあるということを。


山崎はあの後少年に撃たれ意識を失っている。


……そんな経緯を知らないアモレは激昂した。


「ふ、ふざけるなぁ!!!忘れただと?この俺を!!!」

「何か、その………悪いな。」

「…っ!?」


謝罪も、もはやここまで怒りが強くなると火に油を注ぐだけだった。アモレは叫ぶ。


「ならばもう一度言ってやる!俺の名前は、」

「あーそういうのいいから。」


瞬間、山崎はアモレに肉薄し、斬りつける。

………間一髪の所で避ける事が出来た。

その結果に山崎は少し驚く。


「へぇ……やるな。初見でこれを避けたか。」

「…………はぁ…はぁ…。」


息が上がる。後数秒反応が遅れていたら死んでいた。初見ではなかったとは言え、前回とはまるで違う。


(やはり、あの剣か。)


リーチが余りにも長すぎる。

事実、先の斬撃で後ろの建物一帯が切断され、

崩壊していた。


山崎は近づく。


「どうした?まだまだこっからだろ??見せてくれよ………お前の力を。」

「ハハッ。ああ、分かった……俺の全てをぶつけてやる!」


アモレが先手を打った。


剣を持ってない左手で雷魔法と火炎魔法を同時発動した。城下町一帯に火球や稲妻が生成され、その全てを山崎にぶつける。


「フッ。いいぜ!!来いよ!!!」


全方位からくるその全てを斬り落としながら

アモレに接近する、


「うおっ!?」


アモレの周辺の地面が隆起し、山崎を股から突き刺そうと襲い掛かるが、


「……問題なし。」


山崎は思いっきり跳躍しはるか上空へと回避した。


「お返しだ。」


城下町に向けて無数の斬撃を放ちながら落下する。


上空からくる無差別な斬撃を確認したアモレは

即座に自身に出来る全ての身体能力上昇、動体視力向上、反射神経向上魔法を付与した。

そして、


「うおおおおおおおおおお!!!」


こちらに襲いくる、喰らえば即死の不可視の斬撃を自身の剣技と勘で相殺する。


……数分後、山崎は着地した。辺りを見ると一帯は廃墟と化している。


「どこ行った?……消し飛んだかな。」


気配遮断魔法で、後ろから刺そうとしてくるアモレを見ずに刀でガードしながら言った。


「いたいた………探したぜ?」

「…っ!?」


咄嗟に後ろに下がろうとしたが、それを山崎は逃がさなかった。


「あっ…ああああああああああああ?!?!」

「やっと、当たったか。」


………アモレの左腕が血を撒き散らしながら、宙を舞って、地面に落ちた。


アモレは激痛の中、必死に左腕に回復魔法に使い、出血を止める。

…………山崎は蹲るアモレに剣先を向ける。


「お前、やるな………名前、教えてくれよ?」

「…王国…騎士団……団長……アモレ…だ。」


痛みで息も絶え絶えになりながら答えた。

『王国騎士団団長』か。と山崎は呟いた気がした。


「アモレ。俺はお前を殺さない……そういう計画でな…命拾いしたな。だが、お前は強い。

だから、ごめんな。」


山崎はアモレの両太ももを刀で突き刺す。


「ぐっ!?ぎぎぎ……。」


歯を食い縛りながら耐える。

…刀を太ももから抜く。血が吹き出た。


「これで良しっと。お前がまた動くのは厄介だったからな。悪く思うなよ。」


そう言って立ち去ろうといているのを、アモレは止めた。


「…っ待ってくれ!」

「ん?……何だ??」


山崎は振り返る。


「……教えてくれ………お前の名を。」

「ああ、言ってなかったか。」


そして言った。


「山崎聖亜だ。じゃあな……アモレ。」


今度こそ、山崎は立ち去る。

離れていく背中に向かって、アモレは叫ぶ。


「山崎聖亜!!いつかお前よりも強くなって、必ず、倒してみせる!!!」


遠ざかる。


「それまで、俺は生涯、誰にも負けず研鑽し、努力し、武の極致へと至る事を誓おう!!」


…遠ざかる。


「……だから、いずれまた戦える日を心待ちにしている!!!」


足は止めずに、山崎は無言で手を振った。



こうして、山崎は無傷で城へと向かう。

城下町はほぼ壊滅という形で決戦は終結した。











































































































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