二十二話 遭遇
一体、いくつ町を滅ぼしたのだろうか。
獣人を斬って斬って斬って斬って斬って……
「…次だ。」
「いやぁー!!!、やめ——」
生き残った者も容赦なく殺す。女も子供も関係ない……そしてまた人間を解放する。
「あっあの、ありがとう……ございます。」
「……。」
無言で立ち去り、次の町を探しに駆けていく。
森を抜けて…そしてまた発見する。
「…次はここか。」
看板には『タンネの町』と書かれていた。
堂々と正面から入って、目先に見えた獣人を斬り殺そうとして……弾かれた。
「…貴様だな。獣人の町を次々と滅ぼしている者は?」
「………人間か。何で獣人を庇う?」
真紅のドレスを着た金髪の少女が紅き剣を構えて立っていた。
「…早く逃げよ。ここは危なくなるぞ。」
「…っあ、うん。」
少女は子供の獣人を見て微笑みながら言っていた。その機を見逃さず、山崎は少女を後ろから剣で心臓をつき刺し…即座に引き抜く。血を吐き出しながら、少女は力なく倒れた。
「…邪魔だ。」
「ひ。」
「じゃあな。」
山崎は剣を振り下ろした………はずだった。
「っ!?何でお前生きて、」
「その程度で余は死なん…報いを受けよ。」
少女の紅き剣が輝き、山崎を斬らんと迫る。
咄嗟に剣で守ったが、その衝撃で山崎は家を破壊しながらぶっ飛んでいき、広場の像に激突した。
「……う…あ。」
全身が全く動かない。少女が歩いてくる音だけが五月蝿く聞こえてくる。
「う…ごけ、」
剣は折れたが、まだ…拳がある。
負けない……負けられない。
——あの人に勝つまでは。
足が震えながらも無理矢理立ち上がる事に成功する。すぐそこに少女が立っていた。
「ここまで来ると、もはや執念だな。」
「……勝つ…んだ。まだ、あの人…に。」
よろよろと、折れた剣を持って少女に向かって歩き、その途中で力尽きたかのように崩れ落ちた。
……目を開けると、金髪の少女の翡翠色の目があった。何故か少しだけ既視感がある様な気がした。
「…起きたか。てっきり余は2度と起きぬものだと思っていたが。」
「……膝枕か。」
「うむ。…やるのは初めてだが、これは足が痺れるな。」
山崎は立ち上がった。少女は誇らしげに話す。
「余は『女帝』名を『ロネ・エリア・ケリエドゥエセ』と言う………そなたの名は?」
「俺は、山崎聖亜だが……ていうか俺達、さっきまで殺し合いしてなかったか?」
「そうか…これからは聖亜と呼ぼう!」
山崎はため息をついた。
「……何で俺を殺さなかった?」
「余の『王剣』の一撃を受けても尚、生きておるのだ。……殺す理由はないよ。」
「…『王剣』ってあの時の赤い剣……か。」
少女は何処からかその『王剣』を取り出し、眺める。
「この剣はな、相手をただ斬る剣では無く、『相手を測る剣』なのだ。その人生の中で一体何をしてきたかによってその威力が変わる。」
「………。」
「今まで悪事を働いたのなら、断罪を。逆に善行なら、相手を斬ることすら出来ず、素通りする。その判定はこの剣が勝手に決めるのだがな……全く、困ったものだ。」
少女は『王剣』を消して少し恥ずかしそうに言ってきた。
「聖亜よ…余と共に同胞を助けるのを手伝ってはくれぬか?」
「…は?唐突だな。」
「『王剣』で死なぬという事は、ある程度の善人であろう?」
「善人?俺が??つい最近まで、町の獣人を殺し回ってたんだぞ。言っておくが、後悔とかしてねえからな。俺はただ、元の世界に戻る為に、何だっけ?『アンダック城』の親玉を目指してただけだからな………場所分かんねえけど。」
「……余はその場所を知っておる…その城に同胞がおるよ。」
山崎は少女の両肩を掴んだ。
「っ!?お前、それを早く言え!分かった。すぐにいくぞ!!!」
「……!やめっ、鎖骨は…弱い、のだ。」
少女は顔を紅潮させながらその場でへたり込んだ。
「っ!悪い。そんなつもりじゃ…!」
「……っん。少し、落ち着くから……待て。」
山崎はバツが悪そうに後ろを向いた。
少ししたら、少女はまた立ち上がった。山崎は気まずそうに声をかける。
「…お前、大丈夫か?」
「……お前と呼ぶな。余にはちゃんと名前はあるのだぞ。」
「えっーーと…もう一回言ってくれないか?」
ムッとした表情をして少女は言った。
「……ロネ・エリア・ケリエドゥエセだ。二度を言わすな。」
「名前長えな……じゃあ……あっ、ロリで。」
「ほほう。その発言を余の侮辱と見做し、ここでそなたを葬ることも出来るが…よいのか?」
「…悪かった。でも、見た目が百歩譲っても、中学二年生くらいにしか見えないんだよ。」
山崎はそう言い訳する。現在のボロボロの体で、今戦っても勝ち目がない事は分かっていた。思考を回転させる。
「じゃあ、エリアでいいか?」
「…エリアか。」
少女は少し逡巡して言った。
「駄目か?」
「…いや…うむ、それで良いぞ。」
少女、否…エリアは頷いた。
「では、行くとしよう聖亜よ。」
「よしじゃあ、こっから走っていくのか?」
エリアはその発言に明らかにドン引きしている様だった。
「ちなみに聞くが……そなた、どの町から来た?」
「?ああ確か、町出る時看板に…ザガバの町って書いてあった様な……」
「……ここは、アンダック城の真逆に位置する町である『タンネの町』だ。」
「あーあ。適当に行き過ぎたか。」
「!そなた、方向音痴にも程があろう!?余は嫌だぞ!!ここから走るのは。」
10日も走りたくないわ。つい、エリアはツッコミを入れていると山崎は不満そうに言う。
「…じゃあどうすんだよ。」
「無論、こうするのだ。」
エリアが指を鳴らすと、何処からか絢爛豪華な馬車が現れる。エリアは馬車の扉を開け入ろうとして、後ろを振り返る。
「…何をボッーと突っ立っておるのだ?」
「……っ。今行く。」
エリアの後に続き、山崎は馬車の中に入る。
入った瞬間呟いた。
「…は?どうなってんだこれ。」
明らかに外から見た時の広さじゃない。青を基調とした内装、あらゆる芸術作品が並び、80を超えるドアがあり、部屋が沢山ある事が自ずと理解できる。どうやらここはエントランスの様な場所らしい。
「ーうむうむ。驚くのも無理はないだろう。
これは余自らの手で作りあげた、言わば至高の芸術作品なのだからな!!ここには、全てが揃っておる。例えば……」
何故か体がふらついた……話が全く入って来ない。軽い頭痛や吐き気がする。
「…聖亜?」
話を中断し、心配そうにエリアが近づく。山崎は絨毯の上に倒れた。
「っどうしたのだ!?しっかりしろ!……まさか傷がまだ癒えきって……」
「……った。」
——この現象を俺はよく知っている。
「………馬車は今走っている、のか?」
「そなたが入った時には……まさか。」
「…酔った…ここで吐いても、いいか?」
「っ!?」
馬車内は大混乱に陥った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
山崎は大浴場の脱衣所まで案内された。
「余はそなたの吐瀉物を片付けるから、大浴場でその体を清めよ。」
「ああ…悪いな。」
呆れた表情をしながらエリアは戻っていった。
(さっき吐いたおかげか、少しマシになったな。)
山崎は脱衣所で服を脱ぎ、扉を開けて大浴場の中に入る。内装はもちろん豪華なのだが……
「すげぇ。シャワーあんのか。」
山崎は扉を閉める。バスチェアに座りシャワーで体を流し、その隣にあったシャンプーやボディソープで体を洗い、それをシャワーで洗い流した。
「……よし、入るか。」
一応、掛け湯をしてから薔薇が浮いている大浴槽に浸かった。
「…はぁ、やっぱ風呂は命の洗濯だよなぁ。」
そう呟き、少し経った頃だろうか、大浴場の扉が開いた。
「…っ!」
咄嗟に大浴場の端に行き、後ろを向いてから精一杯強がる。
「……よお、何で来たんだ?ここは男性用だぜ。」
「…?ここの大浴場は混浴だが。」
そう聞こえた後に、シャワーを使う音が聞こえてくる。
「俺が上がった後とかで良かったんじゃないか?」
「聖亜よ、もし余の体にそなたの吐瀉物の匂いが付いてしまったらどうしてくれる。」
余を讃える民達が失望したらどうするのだ。とそう言っていた。
「ん、民ってエリアはどっかの王様なのか?」
「…言っておらんかったか。余は異世界『スンアム』を統治しておるのだ。」
「おい、自分の国を置いといて何しに来たんだよ。」
シャワーを済ませたのだろう。湯船に浸かった音が響く。
「…ふう。さっきも言った通り、余の同胞を助ける為だ。後この世界の住民の保護もしているよ。」
「保護か……道理で。」
山崎は内心、納得していた。あの町には獣人の気配が全くしなかったのだから。
「…俺が来た時にはほぼ避難済みって訳か。あの獣人のガキは何処行ったんだ?」
「そなたをふっ飛ばした時に、余の世界へと送ったよ…他の住民達も実に協力的であった。」
山崎はふと気になってエリアに聞く。
「そういえば、俺は確かにあの時エリアの心臓を剣で貫いた筈なんだ。何で生きてるんだ?」
「うむ。確かにあの時余は、少し死んでいたな。」
「少しって……。」
「余は、何でも出来る万能の天才なのだ。心臓が刺された程度でこの身が滅ぶものか。」
そう言った後、笑い声がした。
「…では余もそなたに質問しよう。何故、獣人達を殺し回っていたのだ?」
「ん?そんなの元の世界に帰る為だ。殲滅するのが一番手っ取り早い…効率がいいからな。」
「…この異世界において、獣人は人間と同義の存在だ…それでもそなたは、」
「殺すよ。あれは人間じゃないからな。やり易くて助かるよ。」
決まりだな…そうエリアは呟いた気がした。
「聖亜よ。先に上がって、入口で待っているがよい。」
「え、いやまだ……」
「っいいから!!行くのだ。」
そう言われて渋々上がろうとして、硬直した。
「っ!?」
視界にエリアの姿が映る。後ろで括っていた金髪が濡れて艶が出ている。肌も赤みがかっていた。着痩せするタイプなのだろう、あれは恐らくD……
(って何考えてんだ俺!?)
固まって動かない山崎を見てエリアは首をかしげた。
「そなた、何をして…はっ!そういう事か。」
納得した様にうんうんと頷いた。
「聖亜よ。余のこの美しき体に欲情したな?ふふん。もっと近くで見てもよいのだぞ。」
エリアがその場で立ち上がって近づいてこようとしているのを見て、山崎は我に返った。
「っ!?じゃあ先、上がってるからな!早くこいよっ!!!」
「おい、走ると危ないぞ。」
少し転びかけながらも、山崎は大浴場を後にした。
「…ふふっ……全く。」
エリアは再度、湯船に浸かりながらそう呟いた。
脱衣所には服が一式置いてあったのでそれを着て、入口で待つ。そうこうしている内に、エリアが出てきた。
「うむ。やはり余の目に狂いは無かったな。似合っておるぞ。」
「……そうかよ。」
黒い騎士服を着た山崎はため息をつく。
「…制服はどうなった?」
「あれは後で、余自ら修繕しておく。有り難く思うがよい!」
「……で何か用かよ。」
エリアはどこからか剣を取り出し、山崎に手渡す。
「『アンダック城』までまだ5日程時間がある。故に、余はそなたに果たし合いを申し込む。」
「果たし合い?」
「だが殺し合いではない。あくまで鍛錬だと思ってもよい……折角だ。もし勝ったら、相手に対して何でもしてもよいという権利を与える事としよう。どうだ?」
エリアの予想通り、山崎は即答した。
「いいぜ。権利とかは正直どうでもいいが、エリアとまた戦えるのなら、上等だ。あの時の雪辱を果たさせて貰うぜ?」
「…そう言うと思ったぞ聖亜よ。ならば、ついてくるがよい。鍛錬場まで案内してやろう。」
「そうかよ…って何だ?勝手に俺の手を握って…流石にそこまでしなくても、」
「道が少々複雑でな。そなたが迷子になっては余が困るのだ。」
そんな会話を繰り広げつつ、二人は鍛錬場へと向かっていった。
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