第一部:異世界アニルア

幕間 玉座にて

カーテンが閉じ、静寂な空気に包まれているはずだが、何故か魔物どものやかましい大声で目を覚ます。余りにも煩かったので、その魔物供を消し炭にしつつ玉座の隣にいる奴に声を掛けた。


「…何があった。何故この玉座に下っ端の雑魚どもが居る?貴様が呼んだのならここで滅ぼしてもいいのだぞ。」

「失礼ながら魔王様、今は非常事なのです。このままでは魔王城が崩壊します。」


と脅したのにも関わらず、冷静に返答したのは魔王軍の側近筆頭、赤髪の魔女ソノレだった。しかし額には僅かに汗をしたらせている。


「…他の側近供はどうした?」

「……………………。」

「この魔王城には貴様含め8人いたはずだ!そいつらはいま何処にいるのかを聞いている!!」


(おかしい。何だ…この違和感は……。)


そう考えている内にソノレは気持ち目尻に涙を浮かべながら答えた。


「皆……圧死しました。」

「……………………は?」


我は急ぎ玉座から立ち、カーテンを開けた。

今の時間的に昼のはずだが視界に映ったのはただただ暗黒だった。


「……ソノレよ、ここが何処なのかわかるか?」

 

見た途端、この場所が何処なのか理解してしまったが念のためにソノレに聞いた。否、理解したくなかった。その答えはそう時間も掛からずに返ってきた。


「…ヴォイド海峡です。」

「…………やはりか。」


……ヴォイド海峡、王国があるヘノニメ大陸と魔王城があるリコメンド大陸の間にある海峡。

その水深は実質無限であると言われている。


「……今は私の結界魔法でこの玉座を守っていますが……もう………。」

「…そうか。」


道理でと思いながら、この事態を計った下手人について考えてみる。たしか2週間前に勇者が召喚されたのだったか。だが………。


「いや違うな。」

「魔王様?」


崩壊が始まる。シャンデリアは落ち、ステンドグラスが割れ、海水が押し寄せてくる。どうやら結界魔法の効果が切れてきたらしい。


「よもや、この魔王サナヤタリを滅ぼす者が勇者ではなく臆病者だったとはな!!」


可笑しくもないのに笑いが込み上げてくる。


(海水で溺死するのが先か、水圧で圧死するのが先か……)


「魔王様っ!!!!」


ソノレの杖が光る。それが転移魔法の光だと分かっだが、今の彼女の魔力量では不可能のはずだ。その時ソノレを見たときの事を私は生涯忘れる事はないだろう。


代償魔法、読んで字の如くだが要するに、体の一部を対価に魔法を行使するものである。

転移魔法は結界魔法程では無いが大量の魔力を使う。深海から陸地までだから尚更だ。


…彼女の脳、頭、顔、首、胴体、右腕、右手以外の全ての肉体が彼女の体から消滅していた。



出血はしない。それも全て代償として消滅している。


光で包まれていく。消える視界の中で彼女、否

赤髪の魔女ソノレの声を聞いた。


「魔王…様………後は……任せ…ます。」

「ああ……大義であった。」


返事を聞いたソノレの顔はとても美しかった。


魔王が消え、玉座は海の藻屑へと消えていく。

この日をもって魔王軍は瓦解した。


























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